人には聞きにくい中高年の性事情…性交痛やED、尿漏れなどのデリケートな悩みに向き合うには【医師解説】
人にはなかなか聞きにくいのが性事情というもの。シニア世代がパートナーとの性生活において何らかのトラブルを抱えていたとしても、誰に相談して良いのかわからず、ひとりで抱え込んでしまうこともあるかもしれません。そこでこの記事では、50歳後半からの中高年がこれまで以上に充実した性生活を送れるよう、起こりやすいトラブルやその予防法などについて、ペアライフクリニック横浜院の百束全人(ひゃくそくまと)院長にお話を伺いました。
教えてくれたのは…
監修/百束全人先生(ペアライフクリニック横浜院 院長)
ペアライフクリニック横浜院 院長。「性感染症(性病)で悩む方を減らす」を理念に掲げ、プライバシーや匿名性に配慮し、受診しやすいクリニックを追求している。性感染症(性病)に対して正しく理解し、予防・早期発見・早期治療ができるよう努めている。
中高年における“性”への誤解とその背景
性にまつわる話題は、日本において長らくタブー視されてきました。特に中高年の世代においては「性行為は若い人のもの」「年を取っても性欲があるのは恥ずかしいこと」といった固定観念が根強く残っています。
このような誤解・先入観があるのは、日本における性教育の遅れが大きな原因です。2023年には「生命の安全教育」として、性暴力を防ぐための教育が幼児や児童を対象におこなわれるようになりましたが、依然として性に関する指導は必要最低限にとどめられたまま。肝心な性行為や妊娠の経過については教えられていないのが現状です。
また、メディアにおいても性は恥ずかしいものとして扱われがちな傾向にあります。テレビや雑誌では、性に関する話題はアンダーグラウンドのものとされており、正しい知識やポジティブな側面が伝えられる機会が限られています。
こうした日本の風潮が、性に対する誤解や否定的なイメージを助長していると言っても過言ではありません。しかし、本来性欲は人間が持つ自然な欲求です。性的行動を楽しむことは、決して恥ずかしいことでも罪悪感を持つべきことでもありません。むしろ、QOL(生活の質)の向上や幸福度にも影響を与えると言われています。
性を正しく理解することは、誤解や間違った先入観を取り除き、年齢に関係なく豊かな性生活を送ることにつながるのです。
中高年が注意したい性生活のトラブルとは
性行為を楽しむ年齢に上限はありませんが、年を重ねることで出現する性的トラブルもあります。
男性に起こりやすいトラブル
男性に多い性的トラブルはED(勃起不全)・性欲減退・排尿障害など。中でもEDは、中高年男性が避けて通れないトラブルの1つです。中高年にさしかかる50代後半の男性3人に1人が中等度以上のEDを発症しているという報告もあり、年齢を重ねるにつれて有病率が上がることがわかっています。
【EDの種類】
EDは、原因によって4つのタイプに分かれます。
血管や神経の問題による器質性ED精神的なストレスによる心因性ED服用している薬剤の影響による薬剤性ED複数の要素が絡み合った混合型ED
このうち、シニアに多いのは「器質性ED」と「混合型ED」。主に男性器への血流不足や男性ホルモン(テストステロン)の減少、神経に影響する疾患(脳出血やパーキンソン病など)などが、勃起機能の低下に関係していると考えられています。
女性に起こりやすいトラブル
一方、女性に多いトラブルは性交痛・腟の乾燥感・尿漏れなど。これらの症状は、更年期以降に起こるホルモンバランスの変化が主な原因です。卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)の減少に伴い、腟粘膜が萎縮して乾燥しやすくなったり骨盤底筋群が衰えたりすることで生じます。
しかし、こうした体の変化はデリケートな問題であるため、たとえパートナーであっても相談しにくいと感じる方が少なくありません。結果として、我慢したまま性行為に及んだり、不快感を覚えながらも断ることができずに精神的な負担を抱えたりするケースにつながっているようです。
まずはココから! 日常に取り入れたいセルフケアの基本
更年期以降の体の変化は誰にでも起きる自然な現象です。戸惑いや不安もあるかもしれませんが、体の変化をパートナーとお互いに理解し合い、受け入れることが性生活を楽しむことにつながります。そのためにも性生活に関するトラブルは、なるべく早めに対処することが大切です。ここでは、中高年に起こりやすい性生活のトラブルを予防する方法として、日常でできるセルフケアについて紹介します。
生活習慣の見直し
まず心がけたいのは、生活習慣を整えること。特に、適度な運動と栄養バランスの良い食事は、心身の健康状態を保つ上で必要不可欠です。ウォーキングやジョギング、軽い筋トレをおこなうと、自律神経やホルモンのバランスが整いやすくなります。
また、食事は主食・主菜・副菜・汁物をバランス良く摂取するのが基本ですが、性生活を充実させるという観点では、ビタミンEや亜鉛などの栄養素をプラスアルファで取り入れるのがおすすめです。ビタミンEはテストステロンの生成や女性ホルモンの代謝促進、亜鉛はテストステロンや女性ホルモンの働きをサポートする働きが期待されています。
ビタミンEを多く含む食材はアボカドやアーモンド、亜鉛を多く含むのは牡蠣やいわしなどの魚介類です。これらの栄養素を日々食事に少しずつ取り入れることは、加齢による心身の不調を和らげる手助けとなります。
そのほか、十分な睡眠時間を確保するのも重要なポイント。睡眠不足は、性欲の減退や性機能の低下をもたらすとされています。睡眠前にはカフェインやアルコールの摂取を控え、ぬるめのお湯にゆっくりと浸かることを意識しましょう。副交感神経が優位になり、リラックスした状態で眠りにつけるはずです。
骨盤底筋トレーニング
骨盤底筋群を鍛えることも、中高年の性機能維持においては有効なセルフケアです。骨盤底筋群とは、骨盤の底に位置する筋肉の総称。膀胱や直腸などの臓器を下から支え、排泄をコントロールする役割を果たしています。この筋肉が衰えると尿漏れや腟の緩み、勃起力の低下といった性的トラブルを引き起こす原因にもなります。
骨盤底筋トレーニングは、骨盤底筋群を効果的に鍛える方法の1つ。立っていても横になっていても、椅子に座った状態でもできるため、日常生活の中で気軽に続けられ、やり方も非常に簡単です。
【骨盤底筋トレーニングの方法】
息を吐きながら、肛門を締めるようにグッと力を入れる。そのままの状態で10秒程度キープ、10秒休憩を交互に繰り返す。2の動作を10回1セットとして、1日3セット以上おこなう。
骨盤底筋トレーニングは、尿漏れの予防や勃起力の改善、性的満足度の向上などに寄与します。2~3カ月ほどで効果を感じ始める方もいますが、大切なのは継続すること。毎日の習慣として無理のない範囲で続けてみましょう。
まとめ
性生活を充実させることは決して恥ずかしいことではなく、むしろ人生を豊かにすることにつながります。いくつになってもパートナーと性行為を営めるのは、健康な証拠でもあるでしょう。加齢に伴って体の変化や性的トラブルが生じることもあるかもしれませんが、それは誰にでも起こりうる自然な現象です。悩んだり困ったりしたときはひとりで抱え込むのではなく、パートナーや医師に相談するのも方法の1つ。生活習慣の見直しや骨盤底筋トレーニングなど日々の生活の中でできるセルフケアも取り入れながら、いつまでもパートナーとの性生活を楽しみましょう。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
取材・文/生垣育美
産科・婦人科領域の医療現場において医師の事務作業を専門にサポートする産婦人科ドクターズクラークとしての勤務を経て、第1子出産をきっかけにWebライターへ転身。夫・息子と3人暮らし。やんちゃな息子に振り回されながら、なんとか仕事と家庭を両立させる日々……。