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【国際バカロレア】 人気の「認定幼稚園」を徹底取材 幼児期に「概念的な理解」ができると「考え方の応用」が身につく理由

コクリコ

国際的な教育プログラム「国際バカロレア(IB)」。認定園『町田こばと幼稚園』に取材。カリキュラムの内容や導入後の変化など(全4回の2回目)。

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国際的な視野をもった人材の育成を目指す教育プログラム「国際バカロレア(IB)」。意外と知られていませんが、実は幼児のころからプログラムを学ぶことができます。今回は、2019年に認定を受けた『町田こばと幼稚園』に、カリキュラムの内容や導入後の変化について、お聞きしました。

「東日本大震災」が導入きっかけだった

──『町田こばと幼稚園』は、2019年にIBの認定を受けられました。まず、IBを導入した理由について教えてください。

神藏かおる先生(以下、神藏先生):園では、「個性を伸ばし、自立心・自律心をもって互いに思いやりのある行動ができる人間を育てる」を教育理念としています。

1966年の創立以来、さまざまな活動や行事を行ってきましたが、園として大切にしてきたことが、IBの掲げる理念や学び方と重なる部分がとても多かったんです。

園長代理の神藏かおる先生。「国際バカロレアのカリキュラムは、私たちが目指していることにとてもフィットしていたんです」。

神藏先生:また、導入を考えるきっかけのひとつとなったのが東日本大震災です。

当時、苦しい状況に置かれながらも、秩序を乱さず互いに助け合う日本人の精神性やふるまいは世界中から賞賛されました。

報道を見て、日本人として自信や誇りを感じた方も多かったのではないでしょうか。それはひとえに日本の教育、特に幼児教育が育んできたものだと思います。

でも裏を返せば、外から評価されるまで自分たちの良さを自覚できていなかったということです。

世界に誇る資質・能力を改めて言語化し、さらに育てていくことが、予測不能な未来を生きていく子どもたちにとって大切なのではないかと感じました。IBはまさにその目的に適っていました。

6つのテーマに沿った探究活動を実践

──IBの導入後、具体的にどのようなプログラムを園で実践しているのでしょうか。

中嶋詩菜先生(以下、中嶋先生):基本的な理念や活動内容は創立時からほとんど変わっていませんが、指導法や学び方においてIBの枠組みを取り入れています。

IBでは3~12歳までを対象としたプログラムをPYP(Primary Years Programme)というのですが、学ぶべき6つのテーマ設定がされています。

【6つのテーマ】
・私たちは誰なのか
・私たちはどのような時代と場所にいるのか
・私たちはどのように自分を表現するか
・世界はどのような仕組みになっているのか
・私たちは自分たちをどう組織しているのか
・この地球を共有するということ

PYPコーディネーター補佐の中嶋詩菜先生。カリキュラムの作成や運営に関わる他、年3回、保護者向けに「こばとしんぶん」を発行し、取り組みについて理解を深めてもらうよう努めている。

中嶋先生:こばと幼稚園では、各学期に1~2つ、年間で4つの探究活動を行っています。毎回この中のどれか一つのテーマを探究のゴールとして設定しています。

たとえば、「私たちは誰なのか」というテーマはどの学年も必ず取り組むのですが、年少のクラスでは、「自分の好き」を見つけることから始めます。

自分の好きな色の服を着てくる日を設けて、「○色が多かったね」「みんな好きな色が違うんだね」「でもみんなで遊ぶと楽しいね」と、自分とお友達との違いを知り、認め合うきっかけにしています。

6つのテーマについて探究活動を通じて学んでいく。探究活動は、日々の生活や遊びと密接に結びついている。

物を大切にすることは地球を大切にすることとつながっている

中嶋先生:また、野菜を育てる活動は多くの園でやっていると思いますが、こばと幼稚園の年中クラスでは、「この地球を共有するということ」というテーマに関連させています。

植物がどんなふうに成長するかを観察し、植物にも命があって、生きていることを感じます。そして植物の成長には、水と土と太陽の光が必要で、人と植物はこの地球で一緒に生きていることを理解するところまで目指しています。

年齢に合わせた探究活動を通じて、「この地球を共有すること」を広く深く理解していく。

中嶋先生:年少さんは同じテーマを「ものを大事にする」という切り口で探究しています。家で「長く使っているもの」を探し、自分以外の人やものを大切にするとはどういうことかを考える取り組みです。

1つのテーマについて、いろいろな体験や遊びを通じて理解していくことで、より普遍的で汎用性の高い学びにつなげていきます。

遊びの中でスキルと人間性を育む

中嶋先生:さらに、これらの探究活動の中に、10の学習者像(1回目で紹介)の実現と、思考スキルやコミュニケーションスキルなど5つのスキルの成長と、「原因」「変化」「特徴」といった概念の発見と理解も組み込んでいきます。

──なんだかちょっと難しそうですね。

中嶋先生:5つのスキルは、遊んだり探究活動を楽しむ中で自然に養われていくようにカリキュラムを組んでいます。10の学習者像についても、「今、考える人だったね」とか、「挑戦する人だったね」など、その様子が見られたときにすかさずほめることで、子どもたちはそれが目指す姿だったのだと理解しています。

子どもたちが遊びながら光の不思議を探究できる「ひかりの広場」。

──概念というのは幼児でも理解できるのですか?

中嶋先生:言葉の意味を説明しようとすると難しいですよね。でも、たとえば光で遊んでいるときに、子どもたちが発見したことや不思議に感じていること、心を動かされていることに対して、「ここが影になる“原因”はこれだったんだね」とか「ガラスには光を通す“機能”があるんだね」などと言葉を添えるだけで、「原因」や「機能」というのが、どういうことかをきちんと理解できるんです。

そして、全然関係ない場面でも、自然とその言葉を使うようになります。

概念的な理解ができるようになると、他のことを学んでいるときにも「原因は何だろう」とか「どういう機能があるんだろう」など、考え方や見方を応用できるようになっていきます。

問いかけ続けることで考える習慣がつく

──子どもの力はすごいですね。IBを導入したことで、子どもたちにはどんな変化がありましたか?

神藏先生:自分のことを客観的に表現できるようになったと思います。「今、僕は挑戦する人だから邪魔しないでね」なんて言ったりします。同時にお友達のよいところも「思いやりがあるね」とか「探究できてるね」など、言葉にして認められるようになってきました。

また、自分で考える機会もすごく増えたと思います。職員は、子どもの質問に対して正解を提示しないようにしています。合っているか、間違っているかも明言しない。答えを言ってしまうと、子どもはそれ以上考えないし、知ろうともしなくなります。

「なんでだと思う?」「どうやったらわかると思う?」「ここにこんな絵本があるけど読んでみる?」「○○ちゃんが上手にできていたから聞いてみよう」など、自分で考えたり学ぶ力を育てるために、職員はできるだけたくさん問いかけるようにしています。

──常に問いかけられていたら、自分で考える習慣がつきそうですね。

神藏先生:毎年、英会話活動のエキシビジョンは、ダンスと歌で幕を開けるのですが、曲を決めるところから、ダンスの振り付け、フォーメーションまですべて子どもたちで考えるんですよ。練習して、振り返りをして、どうしたらもっとかっこよく見えるかを話し合います。

年長クラスになると、最終的に20人で動きを揃えるところまで、ほとんど自分たちだけでできるようになります。先生は記録を取りながら、ときどきアドバイスをする程度です。

子どもたちのアイデアが本当に素晴らしくて、発表会当日は私たちも保護者の方たちと一緒に感動してしまいます。

日常の中で生きた英語を身につける

園長の神藏聖子先生。「子どもたちからは、大人には思いつかないようなアイデアがたくさん出てきて驚かされます」。

──園では、英語にも力を入れているのですか?

神藏先生:英語にはIBの認定前から取り組んでいます。言葉を覚えるだけでなく、文化の違いを感じることを目的としています。ただ、やり方は少し変わりましたね。

IB導入前は英単語を教える時間を定期的に設けていたのですが、今は週に2日、合わせて約2時間、ネイティブの先生に来ていただいています。英語のレッスンという形ではなく、一緒に遊んだり、散歩に行ったり、探究活動をする。その中で生きた英語が身につくようにしています。

中嶋先生:年少クラスは関係性を作るために毎回同じ先生に来ていただいていますが、年中と年長クラスでは、いろんな英語があることを知ってほしいので、国籍の違う3人の先生に交代で入っていただくようにしています。

──とても自然な形で英語に慣れ親しんでいるんですね。

神藏先生:幼児期は、国語や算数など教科ごとに区切られた学習ではなく、生活や遊びの中で、体験と実感を伴って多くのことを学んでいく時期です。

IBが薦める学び方は、まさにこういうことなんですね。幼児教育とIBは、そういう意味でとても相性が良いと感じています。

これから求められるのは、指示通りのタスクを実行する技術が身についているだけではなく、自分に自信を持ち、自らの頭で考え、周囲の人や自然環境にも思いやりの心をもって行動できる人です。そして、そのような人が、様々な課題を平和的に解決できる人間に成長するのだと思います。IBの学びを通じて、そんなふうに育ってほしいと願っています。

───◆─────◆───

『町田こばと幼稚園』では、子どもたちが遊びや生活の中で学ぶさまざまなことを、IBの枠組みでとらえ直すことで、自分の良さや友達の良さに気づき、思いやりと自信をもって成長していくことがわかりました。

次回3回目では、国際バカロレア認定校である中高一貫校、『さいたま市立大宮国際中等教育学校』の教育内容をお伝えします。

撮影/安田光優
取材・文/北京子

町田こばと幼稚園
住所:東京都町田市本町田2904番地
電話:042₋723₋1494
https://www.m-kobato.ed.jp/

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