【京都観光の予習】京の食文化~四季の食、味みやげ~
京都市は、三方を山々に囲まれ、寒暖の差が大きい内陸盆地特有の気候で、四季の移ろいが鮮やか。肥沃な土壌と、鴨川をはじめとした清流や豊富な地下水などの良質な水に恵まれ、自然との共生を大切にしてきました。
永きにわたり都がおかれ、日本の政治、文化、宗教の中心地として栄え、全国から多様なものが流入。その中で、人々は暮らしの営みを積み重ね、公家、武家、僧侶などとの文化的なかかわりから、その行事やしきたりが日常の生活に定着するなど、多様な文化の影響を受けながら、食文化を育んできました。
ハレの日のごちそうから普段のごはんまで、四季を大切にする京都のおいしい食べもの。その豊かな食文化を知り、旅を楽しみましょう。
四季を大切にした京のおいしい食べもの
美しい四季に培われた季節感を大切に、神仏とのかかわりの中で培われた自然やいのちへの感謝、無病息災や家内安全などの願いを込め、暦や年中行事に合わせて旬を味わう。京の食文化には、日本人の精神が息づいているのです。
春
タケノコ料理
西山や山城のタケノコは、色白でやわらかくアクが少ないのが特徴です。朝掘りのタケノコは、そのまま薄切りでワサビ醤油で食べられます。木の芽あえ、若竹煮、タケノコご飯と独特の風味があります。米のとぎ汁でゆで、薄味の昆布、カツオだしでゆっくり煮込んだタケノコは、いかにも京風の味です。
じゅんさい
スイレン科の多年生水草で、茎と葉の背面に寒天様の粘液を分泌するのが特徴です。池沼に自生しており、水面に紫紅色の花を開き、のち卵形の実を結びます。若芽・若葉は吸物の具などに使われます。北区の深泥池の水生植物群落(天然記念物)にも自生しています。
夏
鱧(はも)
毎年7月に実施される祇園祭のことを別名で鱧祭と呼ぶほど、鱧は夏の京料理に欠かせない食材です。冷蔵技術の発達していない時代でも、鱧は生きたまま浜から京都へ運んでくることができる数少ない魚でした。骨切りまでして味わい尽くすのは、やはり料理文化の発達した京都ならでは。1寸(3センチほど)に約24の切れ目が入るのが骨切りの上手な目安で、皮1枚を残してギリギリまで包丁を入れるのは、単純に見えて難しい技です。夏は「薄造り(刺身)」「落とし(湯引き)」「鱧ずし」、秋は松茸と合わせて「土瓶蒸し」や「鍋」で、食べると美味しいです。
秋
丹波くり
(社)京のふるさと産品協会
丹波は飛騨などと並び、江戸時代には栗の産地として名を馳せていました。伝統的な品種は「銀よせ」です。中くらいの粒で、ほくほくした食感は栗ご飯に適しているといいます。銀よせという名前は、栗を売ると熊手でかきあつめるほどお金が貯まったことが由来しているとか。栗はそのままでもおいしく、あく抜きのいらない木の実です。砂糖をたっぷり使った菓子が手に入らなかったころは、栗はまさに菓子でもありました。あの千利休の茶会にも頻繁に使われ、茶の湯の世界でも好まれました。当時、そういう京坂地域での需要をまかなったのが丹波栗だったようです。
冬
蒸しずし
白い湯気をあげた、ほかほかの蒸しずしは、冬の京都の風物詩。あちこちのすし屋で食べることができます。ただし、この蒸しずしは、単に冷たいちらしずしを温めるというわけではありません。蒸してさらにおいしくなるように、それに適したしっかりした味がつけてあり、生ものは入りませんが、刻んだ穴子がたっぷり入るなど、意外とぜいたくなすしなのです。店によって甘みがきわだったり、あっさりしていたり、それぞれを食べ比べるのも楽しみの一つ。「蒸しずし始めました」という張り紙を見るたびに、冬がやってきたことを実感する、ささやかなごちそうです。
白味噌雑煮
京都のお雑煮は白味噌仕立て。丸餅に頭芋(かしらいも=サトイモ)がメインのお椀ですが、シンプルな具だからこそ、濃厚な白味噌の風味を引き立たせてくれます。白味噌は京都の人々にとって特別な食材で、普段、毎日食べているわけではありません。もともと宮中を中心に作られてきた味噌なのです。うっとりするほどの甘みと複雑なうま味を持つのは、原料に大豆の2倍以上の米麹を使うため。米のデンプンを糖に変えることで、独特の甘みを引き出すのです。しかも、塩分が少なく日持ちがしないので、早く使い切ってしまわなければなりません。白味噌を使ったお雑煮はやはりハレの日の料理なのです。
京都の恵みの食材
寒暖の差が大きい京都特有の気候と良質の水、肥沃な土壌によって産まれる京の食材たち。乾物や豆腐は禅宗の影響も受けた大切な食品です。
京麩
生麩の原料は、小麦粉と餅粉と水です。その成分のほぼ7割が水分といわれるように、みずみずしい食感の決め手となります。京都の麩は、伝統の技と良質な地下水によって支えられているといっても過言ではありません。古く中国から伝わり、鎌倉時代に禅宗の精進料理に取り入れられ、ついで茶の湯の世界で食べられるようになりました。江戸時代には焼麩が生まれ、種類も多種多様になりますが、主に寺院で食べられることが多かったようです。料理のほかにも、おせんべいや麩まんじゅうなど、お菓子としても親しまれています。
納豆
納豆には糸引き納豆と、粘り気のない塩辛納豆という二つの種類がありますが、起源をたどると、塩辛納豆の方が古く、寺納豆として、禅宗系の寺院で伝えられてきました。納豆菌ではなく、麹菌で発酵させるのが特徴で、味噌のような味がします。京都では、「大徳寺納豆」「一休寺納豆」が知られ、寺伝によると、中国からもたらされた製法を、説話で有名な「一休さん」(大徳寺の禅僧・一休宗純)が伝えたといわれています。現在でも、京都では、お茶受けや酒の肴、和菓子の素材など、幅広く使われています。
湯豆腐
京の冬の名物料理として知られる湯豆腐。豆腐そのもののおいしさを味わうには、もってこいの食べ方です。なぜ、おいしい豆腐が作られるようになったのか。よく言われるのが、豆腐作りに欠かせない良質な地下水に恵まれたことです。また、もともと中国から寺院を通して日本に伝わった食べ物ですから、京都に寺院が多かったことも理由にあげられます。名の通った有名豆腐店も数多くありますが、京都では各町内でそれぞれ地域に根差した豆腐屋があり、馴染みの店で購入することが多いようです。
京湯葉
中国が起源で禅宗の僧によって伝えられたといわれています。湯葉の製法は、大豆を挽いて絞った豆乳を湯せんし、上面に生じた皮を細い竹で引き上げるというもの。湯せん時間の微妙なタイミングを見計らって、作り分けていきます。朝一番に作る「汲み上げ湯葉」に「刺身湯葉」、「引き上げ湯葉」といった具合で、さらに煮詰まると「甘湯葉」や色の濃い「おこげ」になり、乾燥させたものは「干し湯葉」といいます。最初にできる湯葉は、豆乳をたっぷり含んでいるため、大豆の香りを味わうためにも、そのまましょうゆをたらして食べるのが美味。それぞれの種類にふさわしい食べ方で味わうのが、湯葉をおいしく味わうコツです。
京の味みやげ
旬の野菜を中心に発酵によって生じる奥深いうまみを持つお漬物や、良質な地下水によって生まれる酒。おみやげを上手に組み合わせ、食卓を楽しんでみませんか。
しば漬け
大原女(おはらめ)で知られる大原の名物。すぐきや千枚漬と並んで「京都三大漬物」の一つと称されています。由来には、平清盛の娘と大原の里人とのエピソードが秘められています。平清盛の娘とは、平安時代末期、壇ノ浦の戦いで生き残った建礼門院です。平家の滅亡後、大原の寂光院に隠棲することになった建礼門院を、大原の人々は自家製の漬物を献上しては慰めたといいます。その漬物が、ナス、キュウリ、ミョウガ、シソの葉、青唐辛子などを塩漬けにして乳酸発酵させて作るしば漬として今に伝わっています。
すぐき
京都市北区にある上賀茂地域で昔から作られてきたお漬物。もともと上賀茂神社の社家がすぐきの栽培をはじめたといういわれがあります。採れたてのすぐきと塩だけで漬けこみ、乳酸発酵による酸味と風味を味わいます。独特の味わいだけでなく、乳酸菌が豊富に含まれる食材として、最近では健康食品としても注目されています。夏に種をまき、収穫が始まる晩秋から漬け込みます。今では仕込みに約10日、温度管理された40度の室で1週間ほど発酵させて作るため冬の味覚となっていますが、天然発酵のみで時間をかけて作っていた江戸時代には夏の贈答品にされていました。
千枚漬
もともと刻んだ聖護院かぶを塩で漬けたものだったようですが、現在のような薄い輪切りの浅漬けスタイルになったのは幕末のこと。御所の料理職人を勤めた大藤藤三郎が考案して「千枚漬」として売り出したといわれています。見た目に優雅な美しさが漂うのは、きっと宮中の料理文化にはぐくまれたからなのでしょう。漬け方は酢や砂糖などを入れた調味液に漬け込む方法と、調味液は使わず、塩と昆布のみで作る方法に大きく分かれます。調味液を使わないタイプは、自然の乳酸発酵による抑えた酸味が特徴です。聖護院かぶの旬にあたる、11月から2月ごろまでしか食べられない京の冬の味覚です。
七味
江戸時代に生まれた日本の薬味。薬にヒントを得て作られたといわれ、七種類の原料を調合して独特の香りとピリリとした食感を出します。原料は地方や店によって異なり、唐辛子、白ごま、黒ごま、シソ、青のり、山椒、麻の実、陳皮(ちんぴ)、しょうがなどが入ります。昔から関東では七色、関西では七味と呼んだようです。江戸後期には麺類にかける薬味として広く普及しました。京都でうどんなどを食べると、山椒の香りが際立つ七味に出合うことが少なくありません。料理によって、数種類使い分けるのもおすすめです。
ちりめん山椒
生魚が手に入りにくい京都では昔から定番の食材。京都市内には、有名店から住宅街の小さなお店まで、ちりめん山椒を製造販売する店が数多くあります。ちりめん山椒とは、ちりめんじゃこと山椒の実をしょうゆや酒、砂糖などの調味料で炊いたもの。ごはんにかけて食べる、いわば、ぶぶ漬(茶漬け)のお供です。手作りする人もいますが、お店によって味や食感もいろいろ。甘みを抑えて色白にやわらかく仕上げたものや、甘辛くかために炊き上げたものまで、好みに合った味を探すとよいでしょう。
木の芽煮
洛北の鞍馬は山椒の産地。この山椒を醤油で長時間炊き上げたもの。木の芽だきともいいます。その昔、鞍馬山で修行の牛若丸が食べた山椒とアケビのつるの塩漬の‘木の芽漬’から発達し、今の木の芽煮になりました。
酒
かつては京都の中心部にたくさんの酒蔵がありました。良質の地下水と酒づくりに適した気候風土に恵まれた京の酒の歴史は古く、平安時代(8末~12世紀)には、大内裏(だいだいり)に「造酒司(みきのつかさ)」が設けられ、高度な技術で酒づくりが行われました。やがて、その技は洛外(らくがい)の地域へも広まり、安土桃山時代(16世紀)に豊臣秀吉によって伏見城が築城されてからは、次第に伏見の酒造家が増え、今日の銘醸地としての基盤が整いました。
また、京都の酒は京料理とともに発展してきました。繊細な料理を引き立てます。
茶
美しい緑色の煎茶を飲むようになったのは、江戸時代中期以降のこと。宇治田原の永谷宗円が、茶の新芽を蒸して手でもみながら焙炉の上で乾燥させるという方法を生みだしてからという説があります。それを当時「京もの」がもてはやされていた江戸で販売したところ、宇治製煎茶としてヒット商品になりました。その後、玉露という新しい銘柄も創製されます。いくつもの茶の伝来説があり、茶の湯文化の中心地である京都は、昔から「茶」と縁が深い土地ですが、現在でも宇治茶が全国的に知られているのは、そうした背景によるようです。
また、京都ならではのお茶といえば、「京番茶(刈り番茶)」。玉露を摘んだ後に刈り取った茶の木の枝や葉、茎を蒸してもまずに乾燥させ、高温の鉄板で炒ったもので、カフェインやタンニンが少なく、独特の風味で愛されています。
参考文献
「京都」×わカル - 京都の伝統・文化・暮らしのガイド 京都市産業観光局観光MICE推進室
記事を書いた人:京都観光Naviぷらす編集部
「京都観光Naviぷらす」は、京都市観光協会が運営する「京都旅をより快適により深く楽しむ」記事サイトです。旅のいろは、交通活用術、京文化の入門知識、京都人への取材記事などをお届けします。