孫への「スキップ相続」で節税できる!? その仕組みと注意点を解説
現金、不動産などの資産を多く持つ人ほど気になるのが相続税です。できるだけ税金を抑えて、親族に多くの財産を受け取ってほしいと、誰しも思うはず。その相続税の節税に有効な対策の1つに、孫に1代スキップして財産を渡す、という方法があります。ただし、注意しないと、節税効果が得られないことも。そのメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
孫に相続するにはどうする?
節税の話をする前に、そもそも孫に相続するにはどうすればいいのか、について説明します。自分の意思で孫に遺産を渡すためには、次の(1)、(2)の方法があります。
(1)「孫への相続」を記載した遺言書を残す(遺贈)
「孫の〇〇に□□の財産を譲る」という内容の遺言書を書いておけば、自分の死後にその財産を相続させることができます。
逆に言えば、遺言書を残さないと、通常、孫への相続はできません。被相続人(亡くなった人)の遺言書がない場合には、法定相続人による遺産分割協議で分け方を決めます。被相続人の子ども(孫の親)は法定相続人ですが、孫は原則としてそれに該当しないからです。
なお、この法定相続人には、民法で法定相続分(受け取る遺産の割合)が定められています。これは一定の目安となるもので、遺産分割協議や遺贈によって、その割合を変えることは可能です。
一方、遺言書があっても、法定相続人(兄弟姉妹を除く)には、やはり法に基づく遺留分(最低限受け取れる遺産の割合)の権利があることには、注意が必要です。孫への遺贈がこの権利を侵害すると、法定相続人に遺留分侵害額請求を起こされるかもしれません。
(2)孫を「養子」にする
「被相続人の子どもは法定相続人」と言いました。孫を法的な「子ども」にする=孫と養子縁組することで、その要件を満たすことができます。遺言書を残さなくても、孫は法定相続分の遺産の取得が可能になるわけです。
ただ、遺言書と違い、被相続人が孫に渡す財産の中身や金額などを指定することはできません。
また、次の(3)の場合は、被相続人の意思に関係なく、孫が相続人になります。
(3)結果的に孫に財産が渡る「代襲相続」
相続発生時に被相続人の子どもがすでに亡くなっていた場合には、その子ども(被相続人の孫)がいれば、代わりに法定相続人になります。これを「代襲相続」といい、第1位の法定相続人(※)として、亡くなった親と同等の権利(法定相続分など)を持ちます。
※法定相続人には、被相続人から見て、第1順位=子ども(孫、ひ孫)、第2順位=親、第3順位=兄弟姉妹(甥、姪)という順位があり、上位の順位の該当者がいる場合には、下位の人は相続人にならない(被相続人の配偶者は、常に相続人となる)。
ですから、このケースでも、遺言書がなくても孫に財産が渡ります。相続人が別の人に移る、といったことはありません。
孫への相続で節税になる仕組み
では、孫への相続に節税効果があるのは、なぜでしょうか?
世代のスキップで、トータルの納税額を減らす
ごく単純化していえば、特定の財産を被相続人→子ども→孫と受け継げば、2回相続税を支払うことになります。一方、被相続人→孫ならば、納税機会は1回で済むでしょう。孫世代までの親族内の相続をトータルに考えた場合に、相続税を大幅に減額できるのです。
上記の(1)遺贈はもちろん、(2)養子縁組によって孫に一定の財産を直接相続させることでも、世代をスキップさせる効果が期待できます。(3)代襲相続では、自動的に「1代飛ばし」になります。
養子縁組をすると基礎控除額が上がる
(2)養子縁組のスキームには、別の節税効果があります。
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除額が設定されていて、被相続人の遺産総額からこれを差し引いた残りの金額が課税対象となります。孫を養子にすると、法定相続人の数は増えます。今の数式からわかるように、法定相続人が1人増えるごとに基礎控除額が600万円ずつアップしますから、相続税の課税対象額の減額=節税につながるのです。
課税上のデメリット
説明したように、財産を子どもを飛ばして孫に相続させることで、相続税の総額を抑えられる可能性があります。ただし、以下のようなデメリットがあることには、注意が必要です。
孫への相続は、税が「2割増」になる
高額の相続税が発生するのは、遺産額の大きい富裕層です。こうした人たちが、世代をスキップさせることで容易に節税できるのは、課税の公平性などの観点からすると、問題なしとはいえないでしょう。
そうした意味もあって、(1)遺贈や(2)養子縁組によって孫に財産を譲ると、孫の支払う相続税は2割加算される、というルールがあります。通常の計算方法で算出された相続税が100万円ならば、120万円に増額されるということです。
ですから、孫への相続に節税効果があるのは、正確には、この2割加算があってもトータルの相続税がマイナスになるケースです。ざっくりいえば、加算が関係ないほど対象となる遺産が高額な場合、ということになるでしょう。損益分岐点は、遺産総額や他の相続人の状況などによって違ってきます。
なお、(3)代襲相続の場合には、この2割加算はありません。
養子には制限がある
(2)養子縁組に関しては、相続税を計算するうえでの養子の数に、「被相続人に実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人まで」という制限が設けられています。節税目的でいたずらに養子を増やすのを防ぐためであるのは、いうまでもありません。
さらに、その人数以内であっても、「養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合」(国税庁ホームページ)には、養子に含めることを認められない可能性があります。
孫への生前贈与という方法もある
一方、生前に孫に財産を贈与しておけば、相続時の財産が減り、相続税を減額することができます。相続税は、遺産額が大きくなるほど税率も上がっていく累進課税になっていますから、計画的な贈与は効果的といえるでしょう。
ただし、一定額を超える贈与には贈与税が課税されるため、相続税を支払う場合との比較も必要になります。
基礎控除を利用して贈与する
贈与にも基礎控除があり、年間110万円までは非課税です。これを利用して長期間贈与(暦年贈与)していけば、非課税ないし低い税負担で財産を譲っていくことができるのですが、特に孫への贈与には、メリットがあります。
暦年贈与の場合、被相続人=贈与者(財産を譲る人)の相続開始前3年間(制度改正により、2024年以降、段階的に3年から7年へと延長される予定)に行われた贈与は、被相続人の財産に戻され、相続税の課税対象とされます(生前贈与加算)。つまり、贈与税の基礎控除で譲った分(7年なら770万円)が、非課税→遺産額に加算となってしまうわけです。
しかし、この生前贈与加算が適用されるのは、子どもなどの法定相続人に贈与が行われた場合とされています。相続人ではない孫は対象外で、被相続人が亡くなる直前まで、基礎控除額を活用しながら贈与することができるのです。
贈与の特例措置を利用する
また、子や孫への贈与に関しては、以下のような特例の非課税措置が設けられています。これを利用することで、まとまった資金を渡すことが可能です。
●教育資金の一括贈与の特例(2026年3月31日まで)
30歳未満の子や孫への教育資金の贈与が、1,500万円まで非課税で行える制度です。教育資金には、入学金、授業料、入園料、保育料のほか、学用品の購入費、修学旅行費や学校給食費、学習塾やスポーツ、文化芸術活動に関する費用、通学定期券代などが該当します。
●結婚・子育て資金の一括贈与の特例(2027年3月31日まで)
18歳以上・50歳未満の子や孫に結婚や子育て用の資金を贈与する場合に、最大1,000万円までが非課税になる制度です。結婚資金については、最大300万円までとなっています。
いずれの制度にも適用の期限が設けられていますが、今後延長される可能性もあります。
孫への相続を失敗しないために
家族で十分話し合う
孫への相続が節税になるといっても、世代を飛ばす財産分与を行う遺言書がいきなり出てきたりすれば、他の親族は戸惑い、場合によっては争いになるかもしれません。孫との養子縁組についても、周囲の十分な理解を得たうえで進めるべきでしょう。
また、孫の年齢にもよりますが、高額な資産を渡すことが望ましいのかどうか、という問題もあります。孫への相続については、そうした視点も含めて、家族で事前に話し合い、了解のもとで実行する必要があります。
専門家の力を借りる
相続税の2割加算を加味した節税効果や、贈与との最適なバランスといった点に関しては、しっかりしたシミュレーションも必要になります。孫への相続を考える場合には、相続に詳しい税理士などの専門家に相談するのがいいでしょう。
まとめ
世代をスキップして孫に財産を相続すれば、節税が期待できます。ただし、その効果を高めるためには、注意すべきこともあります。早めに専門家に相談し、アドバイスを受けるようにしましょう。