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真の昼飲み酒場を求めて。川崎大師『とと家』で至福の参拝帰り酒を!

さんたつ

【酒場ナビ】川崎大師「とと家」

「酒場で酒を飲む」=「夜」であるイメージが真っ当な社会人だと思うが、私のように真っ当ではない社会人からすると、夜はもちろん、昼に酒場で飲むことも大変重要なことなのだ。その昼飲みにおいて、非常に困難な命題がある。それが“ちゃんと酒が飲める”ことだ。どういうことかとございますと、暗にランチタイムの“ついで感”でないことだ。コロナ禍で劇的に発展したのが酒場でのランチ営業やお弁当だ。普段ランチタイムをしなかった酒場が、経営継続のためにランチ営業をはじめて、そこで定食や弁当を食べることができるようになった。これは非常に喜ばしいことで、夜に入れない人気店にも入りやすくなったり、なんといっても昼飲みができる場所が増えたのだから。コロナ禍で唯一の貢献といってもいい。ただね……ただですよ? なんか、ちょっと違うんですよ。確かに昼飲みができるが、結局ランチ営業のためにやってるサービスなんで、夜の料理が食べられなかったり、何よりスーツ姿のサラリーマンの中でゆっくり酒を飲むというのが、いくら真っ当でなくともいくぶん憚(はばか)られる。周りはさっさと定食を平らげて仕事に帰る中、「すいません、瓶ビールもう1本」なんて、なかなか言い出しにくい。だから私にとって、真に昼飲みできる酒場というのは非常に貴重でありがたいのだ。例えば、中休憩なしの昼時から営業していて、夜のメニューなんて関係なく、メニューにあるものはいつでも注文OK。あー、店の雰囲気的にも「えっ、こんな時間から飲むの?」みたいな空気は微塵もなく、さらに料理はおいしいのが理想だ。……という、くだらないことを述べているが、私は本気だ。そんな本気を、稀(まれ)に叶えてくれる昼飲み天国があるからヤル気が出ちゃう。

訪れたのは川崎の守護神「川崎大師」である。関東の人間なら一度は見たことがあるであろう、CMでも有名なあの川崎大師だ。とにかく厄除けに突出したお寺で、前から一度訪れてみたかった。

無事お参りを済ませると、アラ、時刻は昼時。参拝のあとには必ずお酒をいただきたくなる性分なので、ここはぜひとも昼飲みといきたい。

ただ、前述に申した通り“ちゃんと酒が飲める”昼飲みの場があるかが問題だ。下手に混んでいるところに飛び込んで、慌ただしく飲るのはごめんだ。この日はめちゃくちゃ暑く、手早く酒場に避難したい。それでいてしっかりと昼飲みできそうなところは……むむっ!?

見た目は小さなマンション風だが、1階には民芸風のたたずまいがチラリ。

近づけばやはり酒場で、うなぎ料理の品書きが並ぶショーウィンドウと焼き場の窓。その窓からは、タレのような跡がしたたり染み込んでいる。

ミニ丈の藍暖簾(のれん)には「とと家」と控えめに記されている。“飲めるうなぎ屋”といったところか、いいですねぇ……この感じは、少なくともランチ営業はやっているに違いない。とにかく、酒場のカンで中へ入ってみることにした。

「いらっしゃいませ」

おおっ……中もいいですねぇ! 民芸風の店内は、カウンター数席とテーブル席が数席のこぢんまりとした落ち着き。

何より目を引くのは、大量のメニュー札が店のいたるところに貼られていることだ。いくら丼、つりあじ、ぬた、ブリ大根……あれ、うなぎ屋かと思っていたが、完全に普通の……いや、それ以上の酒場メニューばかりだ。

魅力的なメニューばかりだが、問題はこれらが夜メニューじゃないかどうかだ。うーん……考える前に、まずは酒をいただこう。瓶ビール、そう、冷えた瓶ビールが飲みたい!

とぅく……とぅく……とぅく……、グラスを持つ手に、麦汁の冷たさが逆熱伝導する。

ごぶんっ……ごぶんっ……ごぶんっ……、あぁぁぁぁうんめぇぇぇぇ! よぉし、ここまでは昼飲み完了だ。そう、ここまではどこでもあり得る昼飲みだ。問題はここから。あの魅力的なメニュー札の料理を頼めるかどうかだ。女将さんに尋ねる。

「あの、メニュー札の料理って頼めますか……?」

緊張の一瞬。女将さんの次の言葉は──

「はい、大丈夫ですよ」

ッッッッやったぁぁぁぁ! なんと心強いお言葉! もうね、この店の雰囲気とメニュー群を見る限り、完全なる“昼飲みの天国”だと確定した。そうなれば、料理を大至急いただくまでよ。

まずは大好物のつぶ貝刺し身から。大好物とは言ったものの、たまに水っぽいつぶ貝があるとガックリと嫌いなものに変わる。しかしここは素晴らしい!

水っぽさは皆無で、プツンプツンと小気味よい歯ざわりと貝の旨味。ひと口食べる度に、よりつぶ貝が好きになっていくのが分かる。

「うわっ」と声が出てしまうほど美しいサンマ刺し身がやってきた。もう、刺さってしまいそうなほど鋭利なキッツケは新鮮な証。

箸先に伝わるネットリ感……そのまま食べてみると、跳ね返ってくるような弾力と青魚の爽快感。サンマを生で食べる人種で、心底よかった。

ほら、見たことか! たった2種の料理でこの感動の有様だ。これ以上昼飲みで感動することがあったら、少し怖いくらいだが……酒場とは冒険でもある。

まるで神仏のお供え物かと思うほど神々しいエビフライが降臨した。なんですか、この三尾が天高くそびえるエビフライは。

肉厚であると尻尾を見るだけで分かる、それをムシャブるように食らいつく──旨いっ!! 過去イチ、身が詰まっているエビフライ。ザクリと衣を歯で破ると中からはブリュンブリュンのエビは食感と旨味。おまえがナンバー1だ!!

メニューを見ていて目に飛び込んだ瞬間に頼んだ岩牡蠣は1200円。普段ならスルーする金額だが、この店でそれは野暮でしかない。

とにかくデ・カ・イ! なんですか、ちょっとした恐竜の化石くらいデカいんじゃないだろうか。割り箸をしならせて持ち上げ、顔から一気にすすり込む。

クリーミー、アンド、海の恵み、アンド、クリーミー……これぞ「海のミルク」というにふさわしい濃厚さだ。1200円? 嘘だろ、安すぎるじゃないか。

味よし、量よし、値段よし。“しっかり昼飲み”酒場というだけでもうれしいのに、これだけ揃ったら罰が当たるんじゃないか不安になる。それに、心も胃袋もいっぱいだ。昼飲みの名店として、残りの料理をチビチビやろうと思っていたが……忘れてた!

本来はうなぎの店のようなのに蒲焼を頼まない手はない。思い切って「特上」を女将さんにお願いする。しばらくして、厨房から甘タレの焼けるいい匂いがしてきた。

「ドドンッ!」という音が聞こえてきそうな、迫力の蒲焼が目の前にやってきた。旨いんだろうなぁ……いや、きっと旨いんだろうな……などと、その美しいビジュアルになかなか手が付けられない。

川崎大師の五重塔から飛び降りる覚悟で、蒲焼に箸を入れ、持ち上げ、口に入れる──う・ま・す・ぎ・る! 表面は香ばしく、ふっくらとした身。それが甘いポーションと絡み、舌の上でとろけてはなくなる至福のループ。分かってはいたが、やはり旨い。

目の前には極上の刺し身、極太のエビフライ、とろける生牡蠣、そして最高の蒲焼がある。昼間っからこんな贅沢をして、川崎大師のお大師様に怒られないか心配である。

「はい、サンマとご飯ね」

少し前に入ってきたカウンター客の元へ、サンマとご飯だけのシンプルセットが届けられた。シンプルながら、なんと洗練された組み合わせだろう。サンマを箸でほぐしてご飯に一度バウンド、つづけて口の中へインサート。旨そうに食うなぁ……そこへ酒は入れるのか? いや、ささっと平らげて店を出て行った。

そうですね、昼食だけの客、ゆっくりと昼飲みを楽しむ客の両方が楽しめる昼飲みの場が結局一番だろう。

私は遠慮なく、

「すいませーん、チューハイくださいっ!」

と、昼下がりの酒場をまだまだ楽しむのだ。

とと家(ととや)

住所: 神奈川県川崎市川崎区東門前3-12-20
TEL: 044-288-1835
営業時間: 12:00~21:00
定休日: 火
※文章や写真は著者が取材をした当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。

取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)

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