絶滅の危機に瀕している春ソング!その理由はグローバルサウスの新興国躍進?
連載【教養としてのポップミュージック】vol.12 / 絶滅の危機に瀕している春ソング!その理由はグローバルサウスの新興国躍進?
将来なくなってしまうかもしれない “春ソング”
最近テレビを観ていると、ACジャパンの公共広告が繰り返し流されるので、なかやまきんに君、ゆうちゃみ(古川優奈)、近藤真彦らが何度も何度も登場するのが気になって仕方ない。そう感じているのは、決して僕だけではないだろうが、僕にはそれ以上に気になる映像がある。日本民間放送連盟の地球環境啓発CMである。
そのCMの最初に “2023年7月 世界平均気温が過去最高を更新” というメッセージが出てくるのだが、それが見過ごせないのだ。もちろん、今日ここで皆さんに地球温暖化の是非を問うつもりは全くないが、事実として、僕が住んでいる東京でも、夏はより暑く、より過酷になったし、春と秋はどんどん短くなっている。
皆さんご存知のように、地球上の気候は、緯度を元に熱帯(Tropical)、温帯(Temperate)、寒帯(Polar)などに分類されている。そして、現時点でポピュラー音楽の主要市場は北米、西欧、東アジアなので、その殆どが温帯に属する訳だが、温帯気候の最大の特徴は四季があることである。それ故に、ポップミュージックの楽曲には、昔から春夏秋冬の季節感を表現したものが少なくなかった。
なのに、地球温暖化で四季が二季になってしまったら、春ソング、秋ソングはどうなってしまうのだろう… 僕はそれが心配になってしまったのだ。そこで今回は、いよいよ足音が聞こえてきた “春” にフォーカスし、将来失くなってしまうかもしれない “春ソング” について考えていきたいと思う(秋ソングはまたの機会に)。
日本の美学 “侘び寂び” の概念と深く結びついていそうな J-POPの春ソング
J-POPでは、欧米のポップスに比べて、特に春の歌が多い印象がある。数えた訳ではないが、少なくとも桜や卒業式がテーマになっている楽曲が星の数ほど存在しているのは間違いないだろう。これには、おそらく日本特有の事情がある。
日本では4月から新学期が始まるし、国や地方公共団体、多くの企業で4月に新年度が始まるので、進学や就職、転校や転勤という別れと出会いがこの時期に集中することになる。そして、日本の事実上の国花である桜は、短い期間で咲き、散っていくところが美しさと儚さの象徴と言えるし、諸行無常を表す日本の美学 “侘び寂び” の概念と深く結びついていそうである。しかも、そのタイミングが3〜4月にぴったりと重なるのだ。
今のうちに味わっておきたい “春に合いそうな10曲”
そんなJ-POPと比べると、欧米の春ソングは、もう少しさらっとしている気がする。僕の印象では、暖かく優しい日差し、草花の芽吹き、小鳥のさえずりといった自然界の緩やかな変化が描かれていることが多く、それはそれで絶妙な味わいがあると思う。今日は、そんな中から “春に合いそうな10曲” を選んでみたので、皆さんの春のプレイリストに是非加えて頂きたい。
と、ここまで書いて改めて気づいたのだが、今後インドやインドネシアなど、グローバルサウスと呼ばれる国・地域が更なる経済発展を遂げ、音楽市場の主役に躍り出たら、そもそもポップミュージックに四季という概念自体がなくなってしまうかもしれない。だとしたら、なおさら今のうちに春ソング、秋ソングを味わっておかなければいけないな。
【第10位】エレクトリック・ライト・オーケストラ 「ミスター・ブルー・スカイ」
英国バーミンガム出身のロックバンド、通称 “ELO” が1977年にリリースした2枚組アルバム『アウト・オブ・ザ・ブルー』からの第2弾シングル。日本で何度もCMに使用されている彼らの代表曲の1つで、リーダーで作者のジェフ・リンがスイスのシャレー(木造建築の山小屋)に籠って曲作りをしていた時に見た、アルプスから覗く太陽の輝きにインスピレーションを得て制作したと言われている。確かにサウンドだけなら美しく暖かい春の日にピッタリな曲調で、なんだか前向きな気分になれそうな感じ。ミュージックビデオはちょっとイメージが違うけど。
【第9位】ナターシャ・ベディングフィールド 「アンリトゥン」
ロンドン出身のシンガーソングライター。2004年に発表した同名のデビューアルバムからの第3弾シングル。様々なドラマやビデオゲームなどで使用されていて、最近も映画『恋するプリテンダー』(Anyone But You)の挿入歌として使われたので、聴き覚えのある人も多いだろう。楽器が少しずつ重なっていって高揚感のあるコーラスに繋がる構成は、聴いていると心が明るくなると言うか、元気が出てくる気がする。とても春にふさわしい曲。ミュージックビデオも英国版と北米版の2つのバージョンがあるので、観比べてみるのも楽しい。
【第8位】コリーヌ・ベイリー・レイ 「プット・ユア・レコーズ・オン」
英国リーズ出身のシンガーソングライター。2006年にリリースされたデビュー&セルフタイトルアルバムからの第2弾シングル。サウンド的にはとてもオーガニックだし、曲もゆる〜く始まっているのに、何故だか元気が出る気がする。それもそのはず、歌の中で終始「♪頑張らなくていいんだよ」「♪貴方らしくいてね」と語りかけている。季節的には、春の終わりから初夏にかけて、天気の良い日に聴きたくなる曲である。ところで、B面でレッド・ツェッペリンの「貴方を愛しつづけて」(Since I've Been Loving You)をカバーしているのが渋い。
U2が “世界で最大のロックバンド” に復帰した「ビューティフル・デイ」
【第7位】U2 「ビューティフル・デイ」
アイルランドの首都ダブリンで結成。2000年にリリースした10枚目のアルバム『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』からの先行シングル。彼らは1990年代の試行錯誤(メディアからは “迷走” と言われた)を経て、本作で世界で最大のロックバンドに復帰したと言われている。この曲は2002年のスーパーボウルのハーフタイムショーでオープニングを飾ったように、彼らの代表曲となった。歌詞の中に春を直接的に描写している文言は見当たらないが、一年で最も恵み深き季節をイメージさせる比喩が満載。まさに希望に満ち溢れたナンバーだ。
【第6位】イン・シンク(*NSYNC)「イッツ・ゴナ・ビー・ミー」
フロリダ州オーランドで結成したボーイズグループ。2000年にリリースしたサードアルバム『ノー・ストリングス』(No Strings Attached)からの第2弾シングル。実はこの曲は春とは全く関係がない。当時まだ10代だったリードシンガーのジャスティン・ティンバーレイクが「♪It's gonna be me」と歌っているのが、どうしても「♪It's gonna be May」に聞こえるという噂がインターネット上で広まり、その結果、非公式に5月(May)= 春の歌になったという訳である。ちなみに、この変な訛りは、プロデューサーのマックス・マーティンの指示によるものだということが判明している。
【第5位】ファレル・ウィリアムス 「ハッピー」
春が訪れると誰もがハッピーな気持ちになる。そして、ハッピーと言えば、もちろんファレル・ウィリアムス。バージニア州出身の音楽プロデューサー兼シンガーソングライターである。セカンドアルバム『ガール』から先行シングルとして2013年にリリースされたこの曲は、ちょうど彼がボーカルとして参加したダフト・パンク「ゲット・ラッキー」の世界的大ヒット直後だったことも手伝って、全米全英を含む各国のヒットチャートで1位を獲得した。この曲に合わせて、世界中の人々が学校や職場など様々な場所で踊るトリビュートビデオが量産されたのも記憶に新しい。
【第4位】ジョニー・ナッシュ 「アイ・キャン・シー・クリアリー・ナウ」
テキサス州ヒューストン出身のシンガーソングライター。1972年に発表された同名アルバムからの先行シングル。1993年にはジミー・クリフにカバーされ、映画『クール・ランニング』の主題歌としてヒットしたので、日本ではそちらの方が知られているかもしれない。それにしても、こんなに楽観的な曲があるだろうか(もちろん良い意味で)。この曲が流れると、目の前に澄み渡る青空が広がってきたような気がして、自然に身体が揺れ始めてしまう。彼はボブ・マーリーとの交流でも知られるが、間違いなくレゲエを世界に広めた功労者の一人である。
“長く寒い孤独な冬” の後に “太陽が出てきた” と歌う「ヒア・カムズ・ザ・サン」
【第3位】ニーナ・シモン 「フィーリング・グッド」
ノースカロライナ州出身のジャズシンガー。アフリカン・アメリカンの自立した女性として差別や不正と闘ったアイコンでもある。この曲はミュージカル『ドーランの叫び、観客の匂い』(The Roar Of The Greasepaint-The Smell Of The Crowd)の挿入歌のカバーで、1965年にリリースしたアルバム『アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー』に収録。その後も数多くのアーティストにカバーされた。厳密には春の曲とは言えないが、歌詞の中で「♪空高く舞う鳥たち」「♪輝く太陽」「♪漂うそよ風」を描写していて、1年の最初の暖かい日に聴きたくなる曲である。
【第2位】ドナ・サマー 「スプリング・アフェアー」
ボストン出身のシンガーソングライター。通称ディスコの女王(Queen Of Disco)。四季をテーマに愛を歌った4作目のアルバム『フォー・シーズンズ・オブ・ラヴ』から先行シングルとして1976年にリリース。曲名通り “春に花開く熱烈な恋” について歌った曲である。春になると恋をしたくなる感覚は、万国共通ということだろうか。まるで “冬眠から目を覚ましてブギーを始めよう” と言われているかのような、とてもブギー要素の強いサウンドだ。元々8分の長さだったのをラジオ用に短縮したというのも、いかにもディスコソングっぽいエピソードである。
【第1位】ザ・ビートルズ 「ヒア・カムズ・ザ・サン」
4人揃ってレコーディングした最後のアルバム『アビイ・ロード』のB面1曲目に収録。1969年リリース。作者でリードボーカルのジョージ・ハリスンが「♪長く寒い孤独な冬」の後に「♪太陽が出てきた」と歌うこの曲は、4月の晴れた日にエリック・クラプトンの田舎の別荘で書かれたのだそうだ。彼らしい優しく温かいアコースティックギターの上に、レスリースピーカーを通したエレキギター、当時まだ珍しかったモーグ・シンセサイザーなどの音が緻密に積み重ねられたサウンドは、まさに史上最強バンドの本領発揮と言ったところか。ただ、収録直前に自動車事故に遭ったジョン・レノンの不参加が残念。