【大学教授・齋藤孝さんが解説】魂が活性化し、自らをリフレッシュさせる「文化の力」
人生100年時代、60代は新たなスタートラインです! そんな大切な時期をいきいきと過ごすための、頭と心のコンディショニング法を紹介しているのが大学教授・齋藤孝さんの著書『60代からの知力の保ち方』(KADOKAWA)。本書は日々のちょっとした習慣を通して、60代からの知力を無理なく、そして楽しく保つ方法を優しく解説します。「まだまだこれから!」という意欲を応援し、後半生をより豊かにするためのヒントが満載です。60代は、これまでの役割が変わり、自分を見つめ直す時期。脳と心と体をバランス良く整え、知的な活力を高めていきませんか?
※本記事は齋藤孝著の書籍「60代からの知力の保ち方」から一部抜粋・編集しました。
文化に触れ、魂を活性化させる
学生に精神文化の継承というテーマで授業をしたことがあります。自分がどんな文化を継承し今に至るかを、二分の動画にまとめてもらいました。
文化が介在すると、自分のアイデンティティを確認しやすくなります。単なる自己紹介動画は押しなべて面白くありませんが、文化が入ると俄然輝き出します。
柔道をやっていた学生は、講道館柔道を創設した嘉納治五郎から始まって自分の試合映像で終わる自己紹介動画を作りました。
年中行事、和食、茶、花......。私たちの精神性を気づかぬところで支えているのが、文化の力です。文化の力は知性、教養と言い換えることもできます。
スポーツ選手が、シーズンオフに護摩行や滝行、禅寺で修行を体験するニュースを観たことがありませんか。自分が根づく土地に長く伝わる文化に触れると、魂が活性化し、自らをリフレッシュできるのです。
世阿弥が記した『風姿花伝』にある、老木の花の話は象徴的です。
「この頃よりは、大かた、せぬならでは手立あるまじ。/『麒麟も老いては駑馬に劣る』と申す事あり。さりながら、まことに得たらん能者ならば、物数はみなみな失せて、善悪見どころは少なしとも、花は残るべし」
五十二歳で亡くなった観阿弥が、死のわずか十五日前に駿河の国で舞う機会がありました。いつもは歳だから子の世阿弥に任せて、無理のない曲を演じるにとどめていた観阿弥ですが、この時ばかりは、芸の魅力が一層際立って見えたというのです。
「老木になるまで、花は散らで残りしなり」
芸が本物であるがゆえに、老体の身に花が残った。観阿弥が舞ったことにより、子の世阿弥に、精神文化の継承が行われたのです。
父・観阿弥の姿を見て世阿弥は自らに流れる精神文化の真髄を認め、覚悟を固めたのです。