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【横須賀 ショップレポ】渡辺園茶店-アンティークに囲まれた大正時代創業の不思議な老舗

湘南人

京急横須賀中央駅から徒歩16分の県道三崎街道から一本入った地域。かつてはアーケードもあり、池之端商店街として賑わった通りです。

令和の今、ポツリポツリとお店はありますが、閉まったままのシャッターが目立ちます。昭和は遠くになりました。しかし、この地には、通る人が必ず足を止めてしまうお店があります。実は筆者も足を止めさせられたひとりでした。

骨董店?茶店?のハテナ空間にようこそ!

あの日、数m先から、趣味の良い音楽が聴こえてきました。サックス系のモダンジャズです。なんだ?と思い、店先にしばし佇みました。

使い込まれた古道具や福助人形が並んでいます。その横には健康茶の立て看板。

何屋さんだろ?少し後ろに下がって軒上の看板に目をやります。『渡辺園茶店』。ほう、お茶の店か。それも、なんと創業大正7年!緊張しながらも、中に入ってみました。

わ!食器類を中心とした時代ものアイテムが、雰囲気ある照明の下、整然と陳列されています。お!店奥の棚には大きな茶壺もズラリ鎮座している。

つまり、骨董店であり茶店? やはり不思議な不思議な空間です。

コンサバと前衛のコラボとは?

「25年前ですね、この店で仕事を始めたのは」と店主の渡辺博之さん(48歳)。

渡辺さんはこの店の五代目。先先代だったお父様が早くにお亡くなりになり、お母様が四代目となり、やがて、博之さんが店主となりました。

「その頃、僕は原口典之さんの助手をしていました。原口さんは横須賀出身の世界的な前衛美術家です」。老舗茶店に前衛芸術家の助手。どう考えても真逆な取り合わせですが、「コンサバティブにアヴァンギャルドな風を吹き込んだら面白いなと思ったんですよ」。

以後、まるで画家が白いキャンバスに向かうように渡辺さんは新たなる理想の店を描き、動き出しました。コンセプトは前々から興味を持っていた〝大正時代テイスト〟そして〝自分にとっても居心地の良い場所〟です。

まず、それまで蛍光灯だった照明をアンティークシェイドの白熱灯に変えました。また、室内も自らの手でリフォームし、飾り棚まで製作したのです。「原口さんの作品は木材や金属板などを使用するオブジェが多く、それも随分と大掛かりな物でした。そこの助手ですから、いわゆる大工仕事に慣れていました」。

実は当初、四代目のお母様からはいろいろとクレームがついたとか。しかし、渡辺さんの〝筆〟のスピードは増すばかりでした。そして…。

「始めは、飾り棚に伝統的な茶器を並べてました。美濃焼などです。ただ、段々とつまらなく思えてきたんです」。
そんな時に出会ったのが大正時代の食器類。それも名のある骨董的名品ではなく、当時、日常使いされたであろう、作り手知らずのそれです」。

「例えばかき氷用のガラスカップを見ても、ところどころに気泡があったり、厚みが違っていたりする。でも、それが実に深い味わいがあって、そうだ、これだなと」。

以後、渡辺さんのお眼鏡にかなった品々が店内に並べられていき、やがて、店内は骨董店と茶店がコラボした現在の姿となりました。

健康茶もお店の顔に

今度はお茶の話です。渡辺園では急須を使う元来の緑茶、そして渡辺さん自身が考案した健康茶も取り揃えています。

「緑茶は主に静岡や鹿児島産を扱っていますが、各お茶の特性を考えブレンドしたタイプを販売しています。美味しかった昔のお茶を再現したい。こんな思いで作業をしています。ちなみに、奥に並んでいる茶壺は錫(スズ)製です。錫は熱伝導率が低いので冷蔵庫代わりにもなる。先人の知恵ですね」。

健康茶は、モリンガゴボウ茶、シナモンショウガ紅茶、そして、コラーゲン入り緑茶などが並んでいます。

「以前、体調を崩した時期があり、健康茶作りに目覚めました。今も化学的な勉強もして製品開発を続けています」。

例えばコラーゲン入り緑茶である『美麗』は緑茶の風味を壊さぬようにあえて、魚の、フィッシュコラーゲンを使用。飲みやすさも好評とか。

「愛用者にはピアノの先生もいらっしゃいます。以前、手関節の不調を訴えられていましたが、近頃は笑顔が増えた気がします」。

健康茶の各パッケージデザインももちろん、渡辺さん。アヴァンギャルドな香りが漂う絵柄もありです。

不思議が当たり前になってきた不思議

お話しの途中、店内のBGMをジョセフィン・ベイカーに変えられた渡辺さん。

「大正時代と同様、1910年後半から20年あたりのフランス、特にパリの文化にも惹かれているんですよ」。

〝狂乱の時代〟と呼ばれていたこの頃のパリ。芸術、文学、ファッション、エンターテインメントが交錯する国際的な文化都市として、ピカソ、シャガール、ヘミングウェイなど若き天才達が集結していました。

〝黒いビーナス〟と称されたジョセフィン・ベイカーもこの時代の人。歌手、俳優として一世を風靡した大スターです。

「今、僕が着ている服も当時のものです。サスペンダーもヴィンテージな逸品です(笑)」。

取材開始から約1時間。あらかたの話が済んだ頃、なんと渡辺さんに自慢の緑茶を淹れていただきました。ありがたく一服させていただきます。香り、コクが実に素晴らしいお点前でした。

改めて、店内を見回します。白熱灯に照らされた時代ものの食器類、錫製の茶壺、そして、センス良き洋楽のBGM…。初めて来た時と同じ景色です。

ただ、今は不思議な不思議な空間ではなくなっていました。極々当たり前の、当然のように昔からある景色に思えてきました。

まさにこのお店は渡辺さんの作品ですね? 最後にこう問いかけたところ、〝骨董仲間の先輩にも同じことを言われました〟とニッコリされました。今後はネット販売も徐々に力を入れていかれるとか。

「初めはちょっと入りにくい店ですが、いつも引き戸はオープンにしています。ぜひ、お気軽においでください」。

渡辺園茶店

営業時間

10:00〜18:00

定休日

日曜日・祝日

電話番号

046-822-1262

支払い方法

現金のみ

アクセス

京急横須賀中央駅から徒歩16分
京急バス(横須賀中央駅前より)にて8分

住所:神奈川県横須賀市上町3-14

駐車場:なし

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