主演・菅田将暉&井上真央『サンセット・サンライズ』は、3人の東北出身者=脚本(宮藤官九郎)、監督(岸善幸)、原作(楡周作)らが都会人へのメッセージを込めた笑いと涙のヒューマンコメディ
本作の楡周作の原作を読んでいないが、ちょっと待って、彼は犯罪小説や経済小説をジャンルにスリラー&アクションを描くいわばハードボイルド作家として定評があるはず。その彼が書き下ろした小説『サンセット・サンライズ』が、脚本・宮藤官九郎、監督・岸善幸によって、こんなに笑って、泣かされるヒューマンドラマになるとは! お互い、宮城県の宮藤、山形県の岸と東北人同士、原作者も岩手県出身。
で、ドラマの起点は、2011年3月11日の東日本大震災になるのは当然として、13年前の地震の揺れも津波のシーンもなく、穏やかだ。ただし新型コロナウイルスで世界がバンデミックの恐怖に包まれているさなか、ここ東北の南三陸(架空の宇田濱町)周辺も、皆がマスクで顔を覆い、人々は互いのディスタンスを意識しなければならない日常になってしまった。人口の空洞化が進み民家の空き家問題が大きな課題となっている宇田濱役場に勤める関野百香(井上真央)に、コロナ禍の真っただ中で辞令が下る。「空き家問題の解決を担当せよ」と。
だが、役場の担当として自分が所有する空き家があるのはいかがなものか。「こんな田舎に住みたい人はいるのか」と疑心暗鬼ながら、早速空き家情報サイトで居住者の募集をすると、「ほぼ新築、4LDK一戸建て、家賃6万円」のいわば〝神物件〟に飛びついたのが東京の大手企業のサラリーマン、西尾晋作(菅田将暉)。リモートワークならどこに住もうと同じ、まして釣り大好き人間の彼にとって、目の前に広がる海はこれ以上ない魅力だった。こうして移住先の大家さん、百香と出会い、百香を取り巻く小さな漁村の人々との交流と人間的な触れ合いが描かれていく。よそ者と地元民の確執は当たり前だが、あえて晋作は震災の悲しみには触れず、釣りバカに徹していた矢先のこと。「空き家問題は大きなビジネスチャンスだ!」と大津社長(小日向文世)から発破をかけられる。晋作は百香とタッグを組んで不動産屋として奔走することになる…。
コロナ禍を超えてなお、地方の空洞化、人口減少、高齢化、後継者不足…などによる空き家問題はいわば日本の政治問題でもある。空き家問題の解決は、行政によって私有財産の活用を図ることができないため、民間のビジネスとして関わることになるのだろう。コロナ禍以降もリモートワークが進む現状から、地域再生の物語として捉えても素晴らしいヒントがある。
本作は震災を起点にしているだけに、単に「がんばろう」とか「東北のために」という言葉だけが行き交うことに違和感があったという脚本の宮藤官九郎は、「ずっとモヤモヤしていたが、『ただ見でればいい。たまに見に来ればいいんでない?』というケン(竹原ピストル)のセリフが一番しっくりくるし、言いたかったこと」とコメントしている。同情の言葉ほど空虚なものはない。
震災後、コロナ後、リモートワークが進む中で地方へ移住する気概を、笑いと涙のエンターテインメントに仕立て上げ新しい幸せのかたちを見せてくれた佳作である。
『サンセット・サンライズ』
2025年1月17日(金)全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
出演:菅田将暉、井上真央、中村雅俊、三宅健、池脇千鶴、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、小日向文世ほか