【東京ローカル・ホンクの新アルバム「夜明け前」レコ発ツアー静岡ワンマンライブ】 隙間をあえて聴かせる演奏。木下弦二さんの「う」「お」の伸ばし方が魅力的
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は2月15日に静岡市葵区のライブバー「フリーキーショウ」で開かれた東京ローカル・ホンクのライブを題材に。2月5日発売の新アルバム 「夜明け前」のレコ発ツアーの一環。
2014年11月の「しずおか連詩の会」に参加した木下弦二さんがギターと歌を務める3人組。以後静岡との縁が深まり、何度も県内で演奏しているが、個人的には2015年2月に浜松市西区の「エスケリータ68」で見て以来のライブとなった。
1994年に「うずまき」名義で活動を始め、2001年に現在のバンド名になった。コロナ禍を経てギタリストが抜け、3人組に。メンバーは皆相応に年齢を重ね、還暦を迎えた者もいるが、演奏は老成とは無縁のみずみずしさだ。
いきなり「蛾が一匹」と歌い出す衝撃的な名曲「虫電車」など旧曲で幕開けし、新作の楽曲群につなげる構成。ブールス、カントリー、フォーク、ジャズ、ロックンロールをまぜこぜにして深蒸ししたような巧緻な演奏は10年前と変わらぬ印象だ。しかし、ギターが1本になったので、とても「隙間」が多い。
東京ローカル・ホンクは「そこをあえて聴かせる」演奏態度に打って出た。音の壁を作らずどの楽器も基本的にクリアなトーンで響かせているため、一音一音が余すことなく聴こえてくる。一つの楽曲の中で音がなっていない瞬間があるが、特に気負いはない。これは、曲や演奏によほど自信がないとできない。
新作からはレゲエと音頭をまぜこぜにしたようなホンク流ダンスナンバー「お手々つないで」、「3人ホンク」として初めて作ったという「あおいとりをたべる」が印象的。「あおいとりをたべる」は、8ビートの「きほんのき」のようなリズムと明朗な和音を採用していてしびれた。30年選手がひょうひょうとこれをやるのか。歌謡GSのような「軽い翼」は、音源ではザ・ビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」的な重層的かつ複雑なコーラスワークなのだが、3人でやり切った。
木下さんの歌声を聴くと、1970年代の日本のフォークシーンが頭に浮かぶ。自分はその年代ではないにも関わらず。切なさとエネルギーが、自分の中で同時に湧き上がる。メロディーの中で「う」「お」の母音を長く伸ばす場面があると、特にそうした印象が強まる。フォーク時代のRCサクセションや古井戸、西岡恭蔵さんなどをナマで聴いたらこんな気分になったのではないか。
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