何よりも美しくかっこいい魚<ヤマメ> その一生はひとつのストーリー?【私の好きなサカナたち】
Webメディア『サカナト』には様々な水生生物好きのライター(執筆者)が所属しています。そんなライターの皆さんが特に好きなサカナ・水生生物について自由闊達に語らう企画「私の好きなサカナたち」。今回はサカナトライター・かわおさんによる「私の好きなサカナたち」をお届けします。
渓流の女王(オスもそう呼ばれる)と呼ばれる魚、ヤマメ。紛れもなく僕が一番好きな魚。
おそらくバンクシーも唸る美しい模様と端整な顔立ち、魅惑のボディライン……。世界の名だたる女優界隈の中でも、最前線で戦っていけると思う。
ヤマメはやがて海を目指す
こんなにかっこよくてかわいいヤマメだけど、実は結構パワフルな生態をもつ。
晩秋、山間部にある綺麗な川で卵から孵ったベビーヤマメたちは、川で虫や小魚をもしゃもしゃ食べて成長し、じきに縄張りをつくって自分だけのオアシスを作って暮らすようになる。
「そこ、どかんかい」
「うるせえ、ここは俺が先に棲んでただろうが」
「やんのかてめえ!」
と、縄張り争いになるのは目に見えた話で。じゃあ、自分の縄張りを持てない個体はどうなるの?死ぬの?そんなこともなくて、ここからがヤマメの激萌えポイント。
争いに負けたヤマメたちは「散々やってくれたな、見てろよ。必ずデカくなって帰ってくるからな」と言い放ち、あろうことか海を目指す。
遠い海を目指すヤマメたち
せいぜい体長10~20センチくらいの身体の魚が、何十キロ下手したら数百キロ先の海めがけて下っていく。
鳥やら、でかい魚やらに襲われる危険がある中で。家にこもってYouTubeを見てる僕らからしたら、とんでもないことでしょ?
だって規模的には、僕らが山口の端っこから青森の端っこまで歩いていくようなもんだからね。
海で大きく育ちサクラマスへ
無事に海についたヤマメたちは海でもりもりエサを食べまくる。華奢な身体もいつしかムキムキの銀ピカボディに姿を変える。
ちなみに海に下ったヤマメたちの名前は「サクラマス」に変わる。
当然、もりもり食べられたりもする。海には血も涙もないようなタイプのこわい魚たちがいるからね。
その中で生き残ったサクラマスたちは最大70センチくらいまで大きくなって、桜の咲くころに自分たちが生まれた川を遡上する決意を固める。
サクラマスによる最期の決闘
サクラマスにとっても旅立ちの時期。超精鋭サクラマスたちが生まれた川を遡上していく。
途中、獣に襲われたり、堰(洪水防止のために作られる人工のプチダムみたいなやつ)に行く手を阻まれたりしながらも上流を目指す。
産卵ができる場所に到達してからは、オスがメスをめぐってお互い噛みつきあって最期の決闘を始める。
最後の力を振り絞り、命を繋ぎ新たなヤマメへ……
この頃になると、まただいぶカッコが変わる。ピンクというか、赤というか最期を飾るのにふさわしい情熱色を身にまとう。
ボロッボロになりながらも全エネルギーを使い果たして、繁殖までこぎつける姿には涙が止まらない。泣きたいのはサクラマスの方だろうけど。
そうそう、川で縄張り争いに勝ったヤマメたちはどうなっているのかというと、体長20~30センチくらい(多くはね、もっとでかいのもいるけど)で成長が止まっている。
いじめられて、川を追い出されたヤマメたちの方がデカくなるという皮肉。
遥か離れた海を目指し、海という厳しい環境で生き抜き、また生まれ故郷に帰る。
人間も同じだと思う。「井の中の蛙大海を知らず」ではデカくなれない。
ここまでかっこいい人生を歩む魚だから、自分の娘に「やまめちゃん」と名付ける人もでてくるに決まってんだよな。
あだ名は男でも女でも、女王になるけどね。
(サカナトライター:かわお)