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ジンベエザメ?ジンベイザメ? 標準和名が混同されがちな<サメ>の仲間たち5選

サカナト

ジンベエザメ(提供:椎名まさと)

サメの仲間はその独特な生態や流線型の美しい体、大きさ、そしてときにヒトを襲うこともある性質などから、テレビなどのマスメディアにおいてもよく登場する魚のグループです。

しかし、これらのマスメディアにおいては、たまに標準和名とは異なる名称で呼ばれることがあります。

今回は混乱を招くことがある、サメの標準和名について解説します。

標準和名とは

魚類における標準和名とは、「名称の安定と普及を確保するためのものであり、目・科・属・種・亜種といった分類学的単位に与えられる固有かつ学術的な名称である」と定義されています(日本魚類学会 標準和名検討委員会の「魚類の標準和名の定義(答申)」より)。

この標準和名は、自然科学や教育、行政など、分類学的単位を指定し共通の理解を得ることが必要な分野においては使用が推奨されていますが、ほかの地方名などの名称の使用を制限するものではありません。

一番左が日本産魚類検索 全種の同定 第二版(撮影:椎名まさと)

標準和名の起点は2000年に刊行された中坊徹次博士編の『日本産魚類検索 全種の同定 第二版(以下『魚類検索第二版』)』です。これは当時、日本から記録された魚種のほぼ全種が掲載されている本で、3863種(亜種や変異型をふくめると3887種)が収録されています。

その後、分類学的再検討で複数の種に分割されたり、逆に別種とされたものが同じ種とされたり、標準和名が差別的であるとか、一つの種に複数の標準和名がついていて統一されるべき……といったさまざまな理由で、標準和名が変更されることはあります。

呼称によって混乱が生じる様々なケース

魚種によっては呼称によって混乱が生じるケースが多々見られます。

例えば、ある魚種の標準和名がその種と同じ科や属の総称として使われるようなケース(例:オジサン)や、魚の地方名が別種の標準和名と同じで混乱を招きうるケース (例:ドンコ、アカメフグ)などもあります。

ですから、標準和名を魚そのものと結びつけて認識することが重要です。図鑑などでしっかり覚えましょう。

近年は生物多様性の保全がさけばれており、その中で地域に生息する生物のデータベース作成が行われることもあります。しかし、データベースのログつけの際に表記ゆれがあると、別の種として認識されることもありえます。

そういう意味で、標準和名を「しっかり、正しく」覚えることの重要性が従来以上に高まっているといえるでしょう。

なお、本記事ではタイトルを除き、現在使用されている標準和名についてはカタカナ、現在標準和名としては使用されない、または誤植とみなされる名称については、かぎかっこつきのひらがなで表記しています (例:ジンベエザメと「じんべいざめ」)。ただしこれらについても、本来はカタカナで表記されるべきです。

世界最大の魚類として知られる<ジンベエザメ>

少なくとも、現生のものでは世界最大の魚類として知られるのがジンベエザメRhincodon typus Smith,1828です。じんべいざめという表記をよく見かけますが、これは誤りです。

従来は全長20メートルに達するとされましたが、実際にはもっと小さく、大きくても13メートルほどです。

ジンベエザメ(提供:椎名まさと)

テンジクザメ目・ジンベエザメ科に属しており、この科唯一の種とされます。

巨大なサメではありますが、動物性プランクトンを捕食する温和なサメで、ヒトを襲うことはまずありません。ダイナミックな魚体が美しく、ダイバーにも人気の魚です。

その名の由来は、体側に白い斑点がある様子が夏によく着られる着物の一種「甚平(じんべえ)」を着た姿に似ているところから来たとされています。英語名は一般に”Whale shark”(クジラのようなサメ)といい、その姿からそうよばれているようです。

また海のごく浅いところをのんびり泳ぐ様子から”Basking shark”(日向ぼっこをするサメ)とも呼ばれることもあります。しかし一般にこの名称で呼ばれるのは本種ではなく、現生魚で2番目に大きく、やはりプランクトンを捕食するウバザメのことであり、間違えないように注意が必要です。

古くは「じんべいざめ」と表記も

ジンベエザメは古くは「じんべいざめ」と表記されることがありましたが、1982年の「日本産魚名大辞典」においては、「じんべいざめ」は別名とみなされています。

しかし、その後も一般的な図鑑などにおいては「じんべいざめ」表記は多く見られ、「ジンベエザメ」表記と「じんべいざめ」表記が入り混じるような状況でしたが、『魚類検索第二版』では「ジンベエザメ」として掲載されるので、標準和名はジンベエザメが正しいということになります。

獰猛な性格の<ホホジロザメ>

ホホジロザメCarcharodon carcharias(Linnaeus,1758)は全長6メートルになり(昔いわれていた11メートルになるという説は誤りとされる)、プランクトン食性の巨大な2種をのぞけば、現生のサメとしては最大のものです。

ホホジロザメ(提供:PhotoAC)

性格は獰猛で魚類やイカなどのほか、アシカなどの鰭脚類なども好んで捕食しますが、まれにヒトに対しても、大型の二等辺三角形の歯を多数備えた大きな顎で襲い掛かることがあります。ホホジロザメは、ほおじろざめと表記されることが多いですね。

英語名は”Great white shark”(すばらしい白いサメ)、ないしは”White shark”、フランス語で”Requin blanc”、イタリア語でも”Squalo bianco”、(いずれも「白いサメ」の意味)と呼ばれています。

一方で、その獰猛さゆえに”Man-eater shark”(人食いザメ)、”White death”(白い死)という、ありがたくない名前もつけられています。

ホホジロザメの歯(撮影:椎名まさと)

ホホジロザメは古い図鑑では「ほほじろ」という名前で掲載されたこともありましたが、1980年代以降は「ほおじろざめ」という表記がなされることも多くありました。

近年も「ほおじろざめ」という和名を使っているウェブサイトやニュースサイトなどは多いのですが、これもジンベエザメと「じんべいざめ」の関係と同様であり、本種の標準和名については、「ホホジロザメ」を使うべきでしょう。

実際に『魚類検索第二版』では、本種の標準和名は「ホホジロザメ」となっています。

「頬」に特徴がある魚

ホホジロザメの標準和名は頬を含む体の腹方が白っぽいことから来ているものと思われます。

このほかにも、魚によっては「頬」の部分に色がついていたり、模様があったり、棘があったりするものには、それにちなんだ標準和名がつけられます。

そしてその種によって、「頬」の表記が「ほほ」か、「ほお」か、変わってくることがあります。

フエフキダイ科のホオアカクチビ。「ほほあかくちび」は誤植(撮影:椎名まさと)

例えば、ウミヘビ科には頬が白いことから「ホオジロゴマウミヘビ」という標準和名をつけられた魚がいます。この場合「ほほじろごまうみへび」は誤植となるので注意が必要です。

このほか、種の標準和名で「ほお」との表記ははホオジロゴマウミヘビのほか、ホオベニオトヒメハゼ、アサバノホオカギハゼ、ホオアカクチビなどが該当し、「ホホ」表記はホホジロザメのほか、ホホグロギンポ、ホホスジシノビハゼ、ホホワキュウセン、ホホスジタルミなどが該当し、こちらのほうが数が多いようにおもいます。

White sharkと呼ばれるけど……シロザメとも別種!

先述のようにホホジロザメは英語圏では「白いサメ」を意味する”White shark”などと呼ばれています。

しかし、日本において標準和名でシロザメMustelus griseus Pietschmann,1908というのは全く異なるサメをさします。

三河湾で漁獲されたシロザメ(撮影:椎名まさと)

このサメはメジロザメ目・ドチザメ科・ホシザメ属のサメで大きくても1メートルをこえる程度の小型種で、見た目は同じ属のホシザメと似ていますが体は一様に灰色で、白い点がないのが特徴であるため英語名では”Spotless smooth hound”(星のないスムースハウンド)と呼ばれます。

なおスムースハウンドMustelus mustelus (Linnaeus,1758)というのは欧州近海にすむホシザメ属の一種で、その学名は「イタチ」に由来するサメの古名です。しかし、標準和名で「イタチザメ」というのはまた別のサメを指すなど、ややこしいところがあります。

シロザメは小型種でヒトを襲うことはまずなく、小魚や甲殻類などを捕食しています。底曳網で漁獲され食用になり、湯引きにして食べたところサメの仲間でも美味しいほうでした。

日本では、新潟県・三陸沿岸~九州南部、瀬戸内海、琉球列島に見られ、海外では東アジアの温帯域に見られます。

とてもユニークな特徴を持つ<メジロザメ>

メジロザメCarcharhinus plumbeus(Nardo,1827)は世界中の暖かい海に広く分布するサメです。

メジロザメ目・メジロザメ科・メジロザメ属の魚で、その名は目・科・属の名前に使われていますが、このメジロザメという種はそのメジロザメ属の中ではとてもユニークな特徴をもっています。

メジロザメ(撮影:椎名まさと)
メジロザメは

メジロザメ属の中でも、背鰭が極端に大きくなり、見分けが難しいメジロザメの中では比較的見分けやすいです。

本種は比較的おとなしく攻撃的ではないとされますが、それでも鋭い歯をもつため釣りあげたときや興奮したときなど咬まれるとけがをするおそれがありますので、注意が必要です。

昔は本種については「やじぶか」という和名で掲載されている図鑑が多かったのでした。

しかし、『魚類検索第二版』においては、メジロザメ(やじぶか)として掲載されています。英語名は”Sandbar shark”(砂洲のサメ)などと呼ばれており、河口や浅い湾にも見られるところから来ているようです。

最近ではメジロザメ科の、とくにメジロザメ属の魚を総称して「めじろざめ」と呼ぶことがありますが、種の標準和名に「メジロザメ」という魚がいる以上、混乱を招くおそれがあり、適切とはいえず、メジロザメ属で種がわからないというときは「メジロザメ属の一種」であるとか、「メジロザメ属未同定種」という言葉を使うべきでしょう。

純淡水域にも出現する<オオメジロザメ>

オオメジロザメCarcharhinus leucas(Valenciennes, 1839)はメジロザメ科のサメではとくに大きくなる種で、全長3.5メートルになることもあるといいます。

また純淡水域にも出現するサメとしても知られています。日本においては琉球列島に生息し、同地の河川においてもその姿を見ることができるといいます。

かなり獰猛なサメで、大きくなるためヒトに対して特に危険性のあるサメのひとつです。

オオメジロザメ(撮影:椎名まさと)

かつては「うしざめ」と呼ばれており、1980年度、本種に和名がつけられたときは「うしざめ」と呼ばれました。

その後、1982年に「おおめじろざめ」という和名を付けた報告文が出て、その後は「うしざめ」「おおめじろざめ」の両方が使われるようになっていましたが、「うしざめ」というのは、「おおめじろざめ」(うしざめ)というようにかっこ付きで表記されることが多くなっていました。

『魚類検索第二版』においては、標準和名「うしざめ」と記されています。

しかし、2006年に日本の淡水域から本種が報告された際に、本種の標準和名は「オオメジロザメ」に統一することが提唱されました、その後、2013年の「日本産魚類検索 全種の同定 第三版」では、本種の標準和名は「オオメジロザメ」と掲載されており、その後にかっこ付きで(うしざめ)と表記されています。

なお、英語では”Bull shark”と呼ばれています。「うしざめ」はこれを直訳したのかもしれません。

このほかEulamia nicaraguensis Gill,1877や、Carcharias zambezensis Peters,1852など従来それぞれ別種とされてきたものの、現在はオオメジロザメと同種とされた種もおり、それらのかつて別種とされていた当時の英語名、例えば”Nicaragua shark”とか、”Zambezi shark”などと呼ばれることもあります。

【番外編】 実はエイの仲間<サカタザメ>

最後に番外編。サカタザメRhinobatos schlegelii Muller and Henle, 1841 は日本の暖かい海に普通に見られる軟骨魚類です、英語圏ではサカタザメの仲間はその形状から”Guitarfish”(ギターフィッシュ)とも呼ばれており、本種は比Fishbaseにおいては”Brown guitarfish”と呼ばれています。

サカタザメは種標準和名に「サメ」とついているにもかかわらず、このサカタザメはエイの仲間です。エイの仲間は、尾部にある大きな棘に毒がある、というイメージが強いのですが、サカタザメの尾には大きな毒棘はありません。

サカタザメ(撮影:椎名まさと)

サメの仲間とエイの仲間は鰓孔の位置で見分けることができます。

体の側面に鰓孔が開くのがサメ、腹側に鰓孔が開くのがエイの仲間となりますが、エイの仲間であっても、サメによく似た姿をしたサカタザメ、トンガリサカタザメ、シノノメサカタザメ、ウチワザメなどの種は名前に「サメ」とついています。

そのなかでも、前3種は体が大きく鰭の形状もサメに似ており間違えられやすいようです。

サメの仲間の標準和名については混乱を招くものが多くあります。標準和名を図鑑で正しく覚えましょう。

(サカナトライター:椎名まさと)

参考文献

榮川省造(1982)新釈 魚名考、青銅企画出版、607pp.

松本瑠偉・内田詮三・戸田 実・仲谷一宏(2006)、オオメジロザメCarcharhinus leucasの日本の周辺海域および淡水域からの記録、魚類学雑誌 53(2):181-187.

中坊徹次編(2000)、日本産魚類検索 全種の同定 第二版、東海大学出版会

中坊徹次編(2013)、日本産魚類検索 全種の同定 第三版、東海大学出版会

日本魚類学会編(1981)、日本産魚名大辞典、三省堂、848pp.

冨山一郎・阿部宗明・時岡 隆(1958)、原色動物大圖鑑2巻.脊椎動物魚綱・円口綱,原索動物、北隆館

Fishbase
日本魚類学会 標準和名検討委員会

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