「習字の筆」で海の生き物を捕まえる!? 潮干狩りで楽しむアナジャコ採り体験
潮干狩りに出かけた干潟で、カニや貝とは違う、丸くて大きな“穴”を見かけたことはありませんか? 実はそれ、「アナジャコ」という不思議な生き物の巣穴なんです。見た目はエビとシャコの中間、そしてなんと“筆”で捕まえるというユニークな方法も。この記事では、潮干狩りのついでに楽しめるアナジャコ採りの魅力や、釣りエサ・食材としての活用法まで分かりやすくご紹介します。
潮干狩りで見かける謎の穴
潮干狩りで訪れた干潟で、海底にいくつもの穴が空いているのを見たことはありませんか?
直径2.5cmほどの大きな穴もあり、カニや貝の巣穴とは明らかに違う雰囲気を漂わせています。
特に初夏から夏にかけて、河川が大量に流れ込む浅い内湾では、こうした穴が密集して見られることがあります。潮干狩りのフィールドとして人気の場所でも、意外とよく目にする光景です。
気になるその深さと正体
潮が引いて海底が露出すると、これらの穴は一見わからなくなりますが、表面を少し掘ると、ポコポコと顔を出します。まるで地中ですべての穴がつながっているかのように、海水が噴き出すこともあります。
棒などを差し入れても底に届かないほど深く、時にはハゼなどが利用していることも。潮干狩り中に気になって棒を差し込んだ経験がある方もいるかもしれませんね。では、一体この穴の主は何者なのでしょうか?
巣穴の主は「アナジャコ」
実はこの穴の正体は、「アナジャコ」という生き物の巣穴です。アナジャコは干潟に1〜3mもの深い竪穴を掘り、その奥でひっそりと暮らしています。
見た目はエビとシャコの中間のようですが、実際は「アナジャコ下目アナジャコ科」という独立した分類に属し、エビでもシャコでもない不思議な存在です。シャコのような鋭いカマは持たず、代わりにハサミのような爪を持っています。
殻が柔らかく臆病な性質
鋭い爪を持っているため獰猛そうに見えますが、実際はとてもおとなしい性格で、巣穴の外に出ることはほとんどありません。泥に含まれる有機物を食べて暮らしています。
体長は最大で15cm程度まで成長しますが、殻が柔らかく、外に出ればすぐに捕食されてしまうため、基本的に巣穴の中で一生を過ごします。
潮干狩りスポットでも、その存在に気づかなければ見過ごしてしまうような、そんな静かな暮らしをしている生き物です。
筆でアナジャコ採り
アナジャコの巣穴は非常に深く、動きも素早いため、普通に掘ってもなかなか捕まえられません。そこで活躍するのが、なんと「筆」。書道で使う太筆を使って、アナジャコを巣穴から誘い出すことができるのです。
アナジャコには、巣に異物が入ると押し出そうとする習性があります。巣穴に筆を差し込み、ピストンのように動かして水流を送り込むと、異物を察知したアナジャコが上がってきます。
潮干狩りの合間で楽しめる
臆病な性格ながらも、筆の柔らかさには警戒心を抱きにくいのか、果敢に攻撃して押し出そうとします。巣の入り口付近まで上がってきたところを素早く抑えれば、見事に捕獲成功です。
潮干狩りの合間に試してみるのも面白く、タイミングや駆け引きがハマると夢中になること間違いなし。子どもも大人も一緒に楽しめる、自然体験としておすすめです。
アナジャコは高級釣りエサ
捕まえたアナジャコは、釣りエサとしても大変優秀です。釣り業界では「カメジャコ」とも呼ばれ、マダイやスズキなど大型の高級魚を狙うエサとして高く評価されています。
地域によっては、ウナギ釣り専用の“特餌”としても知られています。潮干狩りでアナジャコを見つけて、自分で採ってウナギ釣りに使う――そんな楽しみ方をしている人も少なくありません。
特に川を遡らず河口で暮らす「ガニクイ」と呼ばれるウナギは、アナジャコなどを好んで食べており、味も良いと言われています。
アナジャコは魅力的な食材
アナジャコは、実は人が食べてもとても美味しい生き物。瀬戸内海沿岸や有明海沿岸では鮮魚店でも販売されており、岡山では特に人気が高く、料亭などでも使われています。
殻が柔らかいため、そのまま天ぷらにして丸ごと食べることもできますし、茹でた後に殻を剥いてシャコのように楽しむこともできます。加熱すると美しい赤色になり、見た目も食卓を華やかにしてくれます。
潮干狩りの成果にもう一品――そんな楽しみ方ができるのも、アナジャコの魅力のひとつです。
アナジャコ採りで楽しい潮干狩り
捕まえて楽しい、釣っても使える、食べても美味しい――三拍子そろったアナジャコは、東京湾などの身近な内湾でも出会える生き物です。特別な道具も不要で、危険も少ないため、潮干狩りとあわせて誰でも気軽にチャレンジできます。
最初の1匹を捕まえるまでには少しコツがいりますが、夢中になれる自然遊びとして、子どもから大人まで幅広くおすすめです。潮干狩りのついでに、干潟に潜む“穴の正体”を確かめてみてはいかがでしょうか?
<脇本 哲朗/サカナ研究所>