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子どもと読みたい「お仕事漫画」5選 ゴミ清掃員・産科医・ケースワーカー…「お仕事」を学べるエンタメ漫画!〔マンガミュージアム学芸員が厳選〕

コクリコ

“漫画を読むプロ”に聞く、親子で読みたい漫画をテーマ別にご紹介。連載3回目は、京都国際マンガミュージアム学芸員・倉持佳代子さんに、“人とかかわる仕事”をテーマにした5作品、「ハコヅメ」「健康で文化的な最低限度の生活」「ゴミ清掃員の日常」「コウノドリ」「ナースのチカラ」を選んでいただきました。

ファッション業界をテーマにしたあの人気漫画も登場!

親子で楽しみながら学べる、「学習にもなるエンタメ漫画」を、“漫画を読むプロ”に教えてもらう連載3回目。今回は、京都国際マンガミュージアム学芸員・倉持佳代子さんに、人とかかわるお仕事漫画5作品を選んでいただきました。漫画を読むことで、子どもの職業選択のヒントになるかも!?

倉持佳代子(くらもち・かよこ)
1983年、埼玉県生まれ。2008年度より京都国際マンガミュージアムの研究員として入職。現在は学芸員として同館に在職。主に少女漫画やエッセイ漫画に関心を寄せ、研究を続ける。館で展示イベントを企画する傍ら、新聞・雑誌にコラムやエッセイなどの執筆業も。

自らの体験を描いた「エッセイ漫画」は説得力あり

──「仕事」を題材にした作品は数多くありますが、ここ10年のトレンドを教えてください。

倉持佳代子さん(以下、倉持さん):昔からお仕事漫画には高い人気がありますが、仕事観の描き方に変化があるように思います。たとえば、“働く女性”をテーマにした漫画はこれまで「男に負けるな」といったキャリア志向の強いものが目立っていました。

しかし、現在は仕事とプライベートとのバランスが大事、というニュアンスに変わってきています。現実で“働き方改革”が推進されてきたように、社会の仕事観は漫画にも影響を与えていますね。

ただし、結婚や出産といったライフステージの変化によって女性に負担がかかる姿は相変わらず描かれていて、社会の意識や構造がまだまだ追いついていないことを感じさせます。

また、「エッセイ漫画」の人気が高まっていることに注目です。実際、その職業に就いていた人、現在も就いている人が、体験を漫画として表現するケースです。

豊富な知識や体験に基づいて描かれたストーリーにリアリティがあり、最近は「ゴミ清掃員」など、一般の人がなかなか知ることのできない職業についての漫画も出てきています。今回は、“助けが必要な人に手を差し伸べる”をテーマに、楽しく学べるお仕事漫画5作品を選びました。

1.ハコヅメ ~交番女子の逆襲~

『ハコヅメ ~交番女子の逆襲~』著:泰三子(講談社)

あらすじ
辞表を握りしめた新米女性警察官・川合の交番に、刑事課から超美人の藤部長が配属されてきた! 架空の町にある岡島県警町山署の交番(=ハコ)を舞台に、女性警察官の日常をコミカルに、ときにシリアスに描いた異色の警察漫画。某県警に10年勤めた作者ならではの多彩なエピソードが満載。第46回講談社漫画賞総合部門受賞(2022年)。

倉持さん:『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』の作者は、元警察官という異色の経歴の持ち主。個性豊かな登場人物たちが活躍するコメディで、あくまでフィクションなのですが、警察官の実情の描写がとにかくリアル。

「警察官の仕事」がわかるだけでなく、警察組織の内情、女性警察官の苦労や悩みが満載。シビアな展開と笑いのバランスも絶妙で引き込まれます。

警察官に怖くて近寄りがたいイメージを持つ人もいるかもしれませんが、この作品を読むと本当に頭が下がる思いがしますし、私たちと同じ働く悩みを抱えていたり、ときに仕事を面倒だと感じたりすることもあるんだな、と親近感も湧いてきますよ。

『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』1巻22ページ。

『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』1巻23ページ。「地域の安全意識を高めるのも警察官の仕事。全国の子どもに聞かせたい名シーンです」(倉持さん)。

2.健康で文化的な最低限度の生活

『健康で文化的な最低限度の生活』©柏木ハルコ(小学館)

あらすじ
新卒公務員の義経えみるが配属されたのは福祉事務所。ケースワーカーとして生活保護にかかわる仕事に就き、生活に困窮する人々の暮らしを支援することに。日々奮闘するえみるや就労支援に奔走する同期たちの姿を描くほか、“生活保護の不正受給”“子どもの貧困”など、現代の日本が抱える問題を浮き彫りにする社会派作品。

倉持さん:『健康で文化的な最低限度の生活』は、ケースワーカーのお仕事漫画です。“生活保護”という言葉には、ややネガティブなイメージが付きまといますが、本当に困っている人がいて、生活保護が誰にとっても“命を守る最後の砦”ということがよくわかる作品です。

読むことで、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(日本国憲法第二十五条)という言葉の意味を、深く理解できると思います。

『健康で文化的な最低限度の生活』2巻50ページ。

『健康で文化的な最低限度の生活』2巻51ページ。「この仕事をわかっているつもりで、わかっていなかった、と主人公がハッと気づかされる場面が印象的。ケースワーカーという仕事の本質が伝わります」(倉持さん)。

倉持さん:また、ケースワーカーは、法律に精通していなくては務まりません。どのケースがどの支援に該当するかなど、専門知識が問われます。しかし、その豊富な知識だけでは救えないこともあります。

その人を見る、その人の人生にいかに耳を傾けられるかが大事、という主人公の先輩の教えは、ケースワーカーという仕事に限らず、すべての仕事、すべての人とのかかわり方に通じるものではないでしょうか。

3.ゴミ清掃員の日常

『ゴミ清掃員の日常』原作・構成:滝沢秀一、まんが:滝沢友紀(講談社)

あらすじ
定収入を得るために、ゴミ収集会社に就職した芸人・滝沢秀一。単純な仕事と思いきや、日々の仕事の苦労は想像を超えるものばかり。現場で出会うさまざまな人々、街の普段見られない姿、収集車での作業など、あまり知られていない仕事の裏側をほのぼのとしたタッチで描く。作画を担当するのは、滝沢の妻である滝沢友紀。漫画を描いたのは本作が初めてという。

倉持さん:お笑い芸人のかたわら、ゴミ清掃員として働く作者の体験をもとにした“エッセイ漫画”の人気作。カイロが凍ってしまうような氷点下の真冬でも、熱中症になりそうな猛暑でも、どんな天気であってもゴミ収集車は必ずやってきて、町のゴミを収集してくれます。

私たちにとって当たり前のことのようになっているゴミ収集の裏に、これほどの苦労があるのかと驚きがありますし、衛生的な暮らしを支えてくれる人がいるから、私たちは安心して健康的に過ごせるのだと改めて気づかされます。

──誰も見ていなくても、誠実にがんばっていれば周りが認めてくれるし、いいこともあると思わせてくれるエピソードにも心温まりますね。

倉持さん:年齢も生活環境も関係なく、チームの一人ひとりが力を合わせてやりとげる姿が清々しい。日常を楽しみ、地道な作業にも発見や学びを得る作者もカッコいいです。誇りを持って仕事をする大切さが伝わってきます。

『ゴミ清掃員の日常』48ページ。

『ゴミ清掃員の日常』49ページより。「お笑い芸人ならではの視点の面白さはもちろん、前向きで、優しいまなざしに心がほっこりします」(倉持さん)。

4.コウノドリ

『コウノドリ』著:鈴ノ木ユウ(講談社)

あらすじ
主人公は産科医として働きながら、天才ピアニスト“ベイビー”としても活動する鴻鳥(こうのとり)サクラ。緊急帝王切開、切迫早産などさまざまな出産に向き合い、母子の命を守るために日々奮闘する姿を描く。

倉持さん:産婦人科医についての漫画はほかにもたくさんありますが、これほど多様な症例を取り上げ、細やかに描いた作品はありません。

妊娠・出産は希望と絶望が表裏一体。ラクなお産なんてないし、奇跡の連続なのだと唸らされます。母子を守る医師たちの奮闘はもちろんですが、現代社会の医療の問題などにも触れてるほか、出産に伴う命の尊さや家族の絆への気づき、医師たちの人間ドラマ、主人公の過去なども物語にふくらみをもたせていて読み応えがあります。

ドラマ化もされていてすでに有名な作品ですが、多くの人に読んで、命にかかわる仕事の尊さを知ってほしい作品です。

『コウノドリ』11巻39ページ。

『コウノドリ』11巻40ページ。「産科は『生と死が壁一枚で隔てて存在する』場所です。日々さまざまな感情に心を揺さぶられながらも、仕事をまっとうする主人公の姿に心が震えます」(倉持さん)。

5.ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~

『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』©広田奈都美(秋田書店)

あらすじ
義母の介護をきっかけに、50歳にして新人訪問看護師になった幸代。訪問看護ステーションの同僚たち、利用者やその家族を描いた、命と看取りの物語。世代や立場の違うさまざまな人間のドラマが描かれている。

倉持さん:『ナースのチカラ』は、現役看護師でもある作者らしい、リアルなストーリー構成が見事な作品です。

訪問看護というのは、いろいろな事情があって病院ではなく自宅で療養したい患者さんをケアする仕事です。この作品がすごいのは、訪問看護という仕事に限らず、「人を助ける仕事」とは何かをズバリと表現しているところ。

患者と家族の意向・価値観の違いの板挟みになったり、理不尽な思いや割り切れなさを味わったりとジレンマを抱えながらも働く姿に、尊さを感じずにはいられない訪問看護という仕事。繊細さと温かなまなざしにあふれた作品になっています。

『ナースのチカラ』3巻118ページ。

『ナースのチカラ』3巻119ページ。「人を助ける仕事の核心をつくこのセリフは、心に深く響きます」(倉持さん)。

───◆─────◆───

今回、倉持さんが紹介してくれた漫画の多くは、奇しくも女性が主人公、もしくは女性目線の作品です。さまざまな分野で女性が活躍するようになった現代社会。職業に関する知識が深まるだけでなく、これから大人になるすべての子どもたちにはもちろんのこと、大人にも学びが多い内容でした。

次回4回目は、「ものをつくる仕事」をテーマにした漫画を、引き続き倉持さんに教えていただきます。お楽しみに!

取材・文/鈴木美和

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