流行っているものを「知っているアピール」は、ウザいって思われちゃう?Z世代との関わり方。
物心ついたときからインターネットやスマホが身近にあったZ世代。新感覚を持つ彼らは、どんなことを心地いいと感じ、どんなことをいやだと感じるんだろう?上の世代にしてみれば「仲良くなりたい、だけどちょっと気後れする」そんな存在でもある気がします。そこで、Z世代特有の発想や感性について、長年、若者研究をされていて、「さとり世代」や「マイルドヤンキー」といった言葉の生みの親でもある原田曜平さんに聞いてみました。もっと彼らに近づいていいんだ、と原田さん。しかも、いまは世界的に「Z世代の世紀」。理解を深めておくと、さまざまな場面でちょっと役に立つかも?しれませんよ。全5回でおとどけします。第4回目、Z世代ととのコミュニケーションのとりかたについて。
──
Z世代の人たちと関わるにあたって、若者のあいだで流行っているものを「知っているアピール」したりするのは、ウザいって思われちゃいますよね?
原田
いやいや、そうとも言い切れないんです。
昔の若者って、大人が「○○って若い子の間で流行っているんでしょ?」とか聞いてきたら、けっこう「気持ち悪っ!」とかって、嫌悪感が湧いてたと思うんですよ。
若者を知ったふうなテレビ広告を流す大企業とか、全部気持ち悪いと思っていた。なぜかはよくわからないけれど、昭和から平成のある時期までの若者は、権威だったり、大企業だったり、大人っていうのが無条件で嫌いだったと思うんですね。
いまの子たち、真逆という印象があります。
おそらく人口的にマイノリティであることが関係しているかもしれません。団塊ジュニアは1学年200万人いたのに、Z世代は1学年110万人くらい。ほぼ半分になっちゃったわけで、社会的にはマイノリティになっています。
日本の社会全体でいうと、圧倒的にマイノリティ。コンビニだって、平均ユーザーは50代です。コンビニにインスタ映えする商品ってほとんどないでしょう?Z世代を狙っていないわけです。
若者自身も、自分たちが社会の中心ではない、という感覚はうすうす持っている。だからこそ、自分たちに注目してくる人たちにはありがたいっていう感覚があるような気がします。
だから、あえて刺激的な言い方をするならば「若者には媚びよう!」というのが上の世代のみなさんへの私からのメッセージです。
会社が存続するため、商品を売るため、情報を拡散してもらうため、理由はなんでもいい。お互いにウィンウィンになるために、未来の消費者たちに媚びましょう(笑)。
──
はい(笑)。若者には媚びよう、と。
原田
こう言うと、日本人の、とくにおじさまたちは抵抗を示すんですけれど、論理的に考えたら、もうそれしか方法がない。
──
なるほど‥‥とはいえ媚びるって、むずかしいですね。
原田
むずかしいですよね。大人にはプライドもあるし、経験もあるし、ちょっと腹が立ってしまったりあるいは「この子をなんとかしてあげたい」という親心のようなものが芽生えたりもしますから。
それに、自分を振り返ってもそうでしたけれど、若者というのはまだ経験が少ないわけですから、「ばかもの」なのは当然なんですよ。失礼なことをしたり、とんでもない言い訳をする子もいますから。そこですべての感情を抑えて媚びるのはむずかしい。
でもそのとき、それはそれとして、弱みを見せたり人間くささが出たりしてもいいので、肩書きみたいな部分で近づくのではなく、素のままの自分で向き合うほうがいいと思います。
私でいえば、「たくさん本を出しています」「テレビ番組のレギュラーでコメンテーターをしていました」なんていうのは、彼らにとっては別にプラスじゃない。それより子育ての悩みだったり、父の認知症の心配だったり、人間くさい話をしたほうが若者の共感を得られます。
──
つまり「媚びる」というのも、へりくだってどうこうということではなくて、そのままの自分で接しよう、というか。それでもっと積極的に近づいていこうよ、みたいな。
原田
そうですね。
数年前に日本の大手企業の新入社員に「どんな上司像を求めるか」というインタビュー調査をしたことがあります。彼らの答えは「かわいい上司」。なんかすごく今っぽいな、と思って。
かつては野村克也監督、星野仙一監督みたいに、ときには罵倒するくらい厳しいけれど、成長させてくれて、チャンスも与えてくれる人が、理想の上司像だったこともありました。
でもいまの子にはそれは合わない。上下関係も薄れて、上司も部下も職場内の役割にすぎない。人間関係に配慮しながら上司の悩んでいる姿を見せるような接し方が合うんじゃないかなと思います。
──
いままでの話から考えると、中高年も自分からTikTokなどをチェックしたほうがいいかもしれませんね。
原田
そうですね。先ほども言ったように、いまは世代によって本当に情報源が違うので。TikTokから起きた若者のトレンドがテレビで取り上げられるのって、ずいぶんブームが過ぎたあとになってるんです。
たとえば2023年の新語流行語大賞に「蛙化現象」という言葉が入ったのはご存知ですか?
──
「好きな人の嫌な部分を見て幻滅すること」でしたっけ?
原田
心理学用語の「蛙化現象」は本来そういう意味ですが、Z世代の若者たちは、異性に感じたがっかりポイントをなんでも「蛙化」と表現するんですよね。
とはいえ、蛙化現象が若者の間で流行っていたのは実はもう2年も前なんです。若者からしたら、「なんでいまごろ流行語大賞?」という感じだと思います。
「蛙化現象」はほんの一例ですが、バズったネタのごく一部が、かなりの時差をもって大人に伝わる。そういう状況になっていて、若者の実態が昔よりだいぶ見えにくくなっています。
日本って、TikTokを本気で自社のメディアとして使っている会社がとても少なくて、うまく活用できているのは、ほんの数社です。つまり、本気で若者に媚びていないんです。まだまだ足りないと思います。
日本では若者の人口が少なくなっていますが、アフリカ、中国、南米では若い人が圧倒的に多い。東南アジアだって8億人マーケットで、平均年齢は20代です。グローバルな視点で見ると、いまはZ世代の世紀なんですよ。
──
言われてみれば。
原田
はい。そして、世界の若者の感覚は近くなっています。アメリカでも日本でも中国でも、若者は同じコンテンツを見ていて、同じような感覚を持つようになってきている。だから、Z世代にウケる商品、サービスを作れば、世界中で売れる可能性があるということなんです。
──
グローバルに展開したい企業ほど戦略として、もっとZ世代に向き合っていったほうがいいよと。
原田
日本にいると、彼らが中心の世紀だということが見えづらいですけれど、世界はまぎれもなく若者中心。その前提をまず頭に入れなければ、と思います。そういう意味でも、とことん媚びなさい、ということなんですね。
(出典:ほぼ日刊イトイ新聞「Z世代って、どんな世代?(4)グローバルではZ世代の世紀)
原田曜平(はらだ・ようへい)
1977年東京都出身。芝浦工業大学教授。大学卒業後、博報堂入社。博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーとなる。2018年に退職し、マーケティングアナリストとして活動。2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。
主な著書に『寡欲都市TOKYO─若者の地方移住と新しい地方創生 』(角川新書)『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)『アフターコロナのニュービジネス大全』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。