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在宅介護する人々を応援する商品を開発するピジョンタヒラ株式会社

TBSラジオ

嚥下障害がある人向けの商品「液体とろみ かけるだけ」

今回は介護用品を製造販売しているピジョンタヒラ株式会社を取材しました。同社が発売している「液体とろみ かけるだけ」という商品があります。

これは高齢や病気で食べ物・飲み物を飲み込むのが苦手な、嚥下障害と呼ばれる障害のある人が安全に口にできるようとろみをつける「とろみ剤」と呼ばれる商品です。商品名のとおり液状で、1回分がスティック状の個包装されているます。商品の箱にコーラの写真が載って「炭酸飲料に簡単にとろみづけ」とコピーが書かれています。これがこの商品の特徴です。「とろみ剤」はこれまで粉末・顆粒などが多かったのですが、冷たい液体にまじりにくくダマになったり、炭酸飲料をかき混ぜすぎると炭酸が飛んで風味が変わってしまうこともありました。ピジョンタヒラではこうした商品を当事者や介護をしている人の「炭酸飲料を飲みたいけれど、むせたりして難しい。どうにかできないか」という声をとりいれながら、開発したそうです。マーケティング部マネージャー中谷(なかや)拓真さんに開発のきっかけやユーザーの反応などを聞きました。

「在宅介護をしている中でどういったお困りごとがあるのかの調査で、結構お声として上がってきた食事のお悩みで、とろみ剤を使われているケースが非常に多いんですが、通常の粉末タイプのお困り事が非常に多く、それを解決するためにどういうものができるかを考えて作り上げたのが今回の「液体とろみ」です。食事をする際にとろみ剤を使うっていうところは指導はされるんですけど、炭酸飲料って飲むことができないっていうようなご認識の専門職の方も非常に多くいらっしゃって、ご本人たちもあきらめてしまうというケースが非常に多かったんですが、液体とろみで炭酸飲料にもとろみがつきますよっていう普及をし始めたのきっかけに炭酸飲料を諦めていたのを、「飲むことができるようになりました」と感謝のお声は結構多くいただきます」(ピジョンタヒラ株式会社 マーケティング部マネージャー 中谷拓真さん)

液体の「とろみ剤」の開発は簡単ではなく、水分の多い食品に混ぜるととろみがゆるくなり、粘度の保持が難しかったりで商品化まで苦労したそうです。現在は他社の競合商品もありますが、スティック包装で持ち歩きできるとか、炭酸飲料に混ぜる発想は現場リサーチがないと生まれなかった独自のものだそうです。ピジョンタヒラ株式会社は1971年にタヒラ商会として大人向けおむつ、おむつカバーなど介護用品の製造販売で創業し、2004年にベビー用品のピジョン株式会社のグループ会社になって現在に至ります。座面が平らになる車椅子「フルリクライニングキャリー」や利用者の座位姿勢を正しく保持する高機能の車椅子を「プロフィットケア」のブランドで販売しているほか、介助用スプーンなどの食具、エプロン、おしりふきや体ふき、口腔ケア用品など高齢者・障害者の清潔介護に関連する商品を「ハビナース」ブランドで、ドラッグストア、通販サイトなどで発売しています。中谷さんに会社がどういった姿勢で商品開発しているか聞きました

「現場でのお悩みをヒアリング、調査するところを商品開発を始める上で一番大事にしています。実際に在宅で介護されているご家族のお家にご訪問させていただいて1日の介護を観察させていただいたり、こういうことに困っているというお声を聞きながら、それを解決できる商品の商品化につなげていくのが基本的な流れです。車椅子でも、施設訪問で職員の方から「車椅子で座位姿勢の保持が難しい」というニーズを聞いて、「ラクリオ」「ラクレスト」などの車椅子の開発につながりました。現場からのニーズを長年、直接ヒアリングできていることは、お客様の本当のお悩みを商品開発に繋げる当社ならではの組織体制だと考えています」(ピジョンタヒラ株式会社 マーケティング部マネージャー 中谷拓真さん)

こうした課題に取り組む背景には在宅で介護をする人たちのニーズがあります。現在、要介護者のうち、在宅で介護される人の数が圧倒的に多く、2023年の厚生労働省発表では施設利用者97万に対して、在宅介護は425万人、約7割が在宅介護です。特別養護老人ホームに入れる条件が要介護度3以上で、要介護度1や2の人の数が圧倒的に多いのも理由のひとつです。ただ、親は自宅で介護したいという思いを持った人も多いことや、突然病気になって数日入院し、退院したあとに在宅で介護せざるをえないケースもあって、そうした緊急的な状況で在宅で介護をしている場合、医師や介護士の指導などがないと情報が届かない面もあり、便利な商品があることを発見できないことも多いそうです。ただ、ピジョンタヒラでは介護の現場で様々に役に立つ商品を発売しています。たとえば「簡単ポケット こぼさない食事エプロン」は食べ物をこぼしても床に落ちて汚さないよう受ける口の開いたの大きなポケットがついています。マジックテープで簡単に一枚に広げられ、食べこぼしの掃除が簡単です。「やわらかい介助スプーン」は介助して、食べさせるためのスプーンで、口に当たっても痛くないシリコン製、食べる人の視力が弱っていても識別しやすい赤い色で作られています。

こぼさない食事エプロン/やわらかい介助スプーン

ほかにも、耳の遠い高齢者に、ホースを介して言葉を届けるような伸縮する、「もしもしフォン」というシンプルな聴覚補助商品もあります。補聴器などを使わずに、当事者とコミュニケーションしながら言葉が伝えられ、 小さな子供がおじいちゃん、おばあちゃんに語りかけるのに面白がって使ったり、1984年の発売以来、ロングセラーを続けている商品だそうです。

もしもしフォン

商品の情報を伝える「お役立ち動画」

こうした商品は必要とするお客さんがドラッグストアなどで発見して購入しているそうですが、多くの人に情報が届いていかない面もあるそうです。そうした人たちに向けて、ピジョンタヒラは自社ホームページで「お役立ち動画」として「液体とろみ」の使い方やレシピのほか、清潔介護商品の紹介など50本近い動画が掲載されています。マーケティング部の中谷さんは、動画の役割についてこんなふうに話していました。

「本当に介護してる方は心身共に疲弊した中で介護をせざるをえない状況の中で、弊社の商品があることで、少しでもご苦労されてた介護が楽になったり、お役立ち商品があると知っていただければと考えてます。2024年に当社の存在意義というものを策定しまして、「不自由を抱えている方に寄り添い、“こうありたい“と思う生活をかなえ、『ああよかった』と思える瞬間を創る」を実現したいと考えて商品開発しています。お客様の本当のお悩みを商品開発につなげ、解決に貢献できることは、とても意義のあることだと感じています」(ピジョンタヒラ株式会社 マーケティング部マネージャー 中谷拓真さん)

介護状態は人それぞれで異なっていますが、メーカーとしてオーダーメイドのような一人一人にあった仕様での商品開発が難しいという課題があるそうです。それでも在宅で介護している人たちは、知らなかった介護用品の情報に触れる、使ってみようかなと思うことで気持ちがリフレッシュしたり、心強くなれると思います。興味のある方はピジョンタヒラのホームページ「お役立ち動画」を覗いてみて下さい。

ピジョンタヒラ株式会社 マーケティング部 島嵜明子さん 中谷拓真さん

(TBSラジオ『人権TODAY』担当:藤木TDC)

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