【東京ローカル・ホンクのCD「夜明け前」】 言葉をど真ん中に置いたバンドサウンド
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は、2025年2月発表の3人組バンド「東京ローカル・ホンク」の14年ぶりのアルバム「夜明け前」を題材に。
2014年11月の「しずおか連詩の会」に参加した木下弦二さんがギターと歌、全ての楽曲の作詞作曲を手がける。バンドは1994年に「うずまき」名義で活動を始め、2001年から「東京ローカル・ホンク」を名乗っている。
2005年の初アルバム「東京ローカル・ホンク」は久保田麻琴さんがプロデュースし、話題となった。はっぴいえんどやセンチメンタル・シティ・ロマンスといった名前とともに語られ、多くの音楽ファンの耳目を引きつけた。
コロナ禍を経ても、ギタリストが抜けても、しぶとくライブを続けてきた。「バンドを続ける」という意志そのものがアートだと思う。新作の収録曲はライブで練り上げられたものばかりという。何しろ前作「さよならカーゴカルト」から14年たっている。細部の細部まで血を通わせた11曲である。
決して息苦しくない。どちらかといえば、隙間の多いサウンドと言える。これは演奏に自信がないとできない。歌、ギター、ベース、ドラムス。それだけ。時々鍵盤楽器の音が聴こえる。精緻なコーラスが歌を支える。ベース新井健太さん、ドラムス田中邦雄さんのぶれないハーモニーに、高いミュージシャンシップを感じる。
思いっきりカントリーミュージックに寄せた「夏みかん」で幕を開けた新作は、レゲエ+音頭の「お手々つないで」、コードチェンジのたびにやわらかく哀楽を行き来する長尺の名曲「みもふたもない」、軽くGS的な感覚を漂わせた「軽い翼」など、3人が持ち寄ったルーツミュージックや歌謡曲をいいあんばいで煮込んでいる。
ブルースやロックがルーツなのは間違いないだろうが、曲の構造として「言葉」がど真ん中にあるのがこのバンドのユニークなところ。日本語の歌詞がちゃんと「字面」として伝わる。伝えようとしている。そのためにテンポを調節し、「タメ」やブレークをつくっている。ように聴こえる。
詩情と旋律が、分離されずに耳に届く。2020年代、こういう音楽は意外と少ない。
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