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今年「オスピス・ド・ボーヌ」の競売会にかけられるキュヴェは、前年の753樽に比べ45パーセント減少の合計439.5樽

ワイン王国

今年「オスピス・ド・ボーヌ」の競売会にかけられるキュヴェは、前年の753樽に比べ45パーセント減少の合計439.5樽

「オスピス・ド・ボーヌ」は1443年の創設で、6世紀の歴史を持つ。今は博物館となっているが1970年代に新病院が建設されるまで施療院として機能していた。ここでブドウ栽培が始まったのはジャン・ギヨット・ル・ヴェリエが1457年に最初のブドウ畑を寄付してからである。以来、患者や地域の名士たちの寄付によってドメーヌは拡大を続けてきた。

収穫後間もない新酒(プリムール)を販売するワインオークションの催しは1859年から続くもので、現在のように11月の第3日曜日に開催されるようになったのは1925年から。長い間、オスピス・ド・ボーヌの関係者が競売会を仕切ってきたが、市場の広がりに対応するために2005年から競売会社のクリスティーズがオークションを担当するようになった。その後2021年から「サザビーズ」に交代し、今年で4年目になる。

「オスピス・ド・ボーヌ」の競売会は、オスピス・ド・ボーヌに隣接するボーヌ市食品市場を使って開かれる

伝統的に、地元のネゴシアン(ワイン商)が樽単位で落札し、それぞれの庫で熟成した後瓶詰して市場に出す方法が今も続いており、オスピス・ド・ボーヌのワインを樽のままブルゴーニュ地域から運び出すことはできない。従って、落札を希望する業者やワイン愛好家は、地元のネゴシアンを通して樽単位で落札し、地元で熟成し、瓶詰したものを引き取ることになっている。ミレジムによるが、1樽の落札価格は最も安いものでも日本円で150万円程度、高いものは5000万円を超え、個人ではなかなか手が届かない。このため、一ワイン愛好家が競売会に参加するには壁が少し高すぎた。しかし、2009年に、ボーヌのネゴシアン「アルベール・ビショー」が個人で1本単位で購入できる画期的なシステムを導入した。

オスピス・ド・ボーヌのワインを専門に扱う「アルベール・ビショー」のジャン・ダヴィッド・カミュ氏(左)。6本以上購入すると購入者の名前入りのラベルを張った特製ボトルが届く

例えば、今アルベール・ビショーのホームページ[https://boutique.hospices-beaune.com/fr/app/acheter-enchere-hospices-2024]に行くと、11月17日に競売に掛けられる2024年産の五つのキュヴェ(白2、赤3)の価格が表示されている。ここで、1本単位で申し込みが可能だ。落札前に、落札出来るかどうかわからないキュヴェの販売価格が表示されるのは不思議に思うが、実は次のような規定がある。例えば、今年の場合『ムルソー ヴィラージュ 2024年』は1本247,00€、『サヴィニー・レ・ボーヌ1er Cru 2024年』は1本122,00€と表示されている。これは事前の予想上限価格だ。申込時にこの価格の80パーセントを支払い、当日の実際の落札価格がもし提示価格を上回った場合は、注文は自動的にキャンセルされ全額払い戻される。その時、希望すればほぼ同じ価格のほかの落札キュヴェに振替えることも可能。反対に提示価格より安く落札できた場合は下落幅に応じて値引きされる。

落札された樽は18~24カ月間の熟成期間が必要で、瓶詰めされて配送されるのは、2024年産の場合2026年の秋になる。その際、調整した差額と配送料を支払う。直接アルベール・ビショー社に出向いて引き取れば配送料はかからない。ボトルにオスピス・ド・ボーヌの統一ラベルが張られるが、6本以上を注文した場合は、購入者名や会社名を記したオリジナルラベルの作成が可能。さらに50種のキュヴェについては半樽または1樽(288本分)の購入も可能で、その場合は、事前の注文でマグナムやジェロボワムで受け取ることもできる。ボトルが届くまでの間、アルベール・ビショー社からワインの熟成過程の情報提供を受け取ることができるほか、アルベール・ビショー社を訪問して実際に樽の状況を確かめることも可能だ。

10月23日、パリのサザビーズ事務所で164回「オスピス・ド・ボーヌ競売会 2024」に関する記者会見が行われた。今年競売にかけられる樽は439.5樽で、前年の753樽に比べ45パーセントも減少している。内訳は赤ワイン321樽、白ワイン117樽+3つの小樽(フイエット)。今年から、すべての畑で有機栽培認証を獲得し、公式オーガニックワイン認証マークを全てのボトルに添付されることからその評価が注される。

今年の特別慈善樽「キュヴェ・プレジダン」として選ばれたのはボーヌ1級畑レ・ブレッサンド。この畑は丘の上部に位置し、軽い泥灰質土壌と石灰質粘土を持つ2.95ヘクタールの区画で、1958年から1960年に植樹された古木が植えられている。熟成に使われる樽はビヨン社がブルゴーニュのベルトランジュの森で育った最高級のオーク材を使って制作した特製樽。今年は、「国境なき医師団(MSF)」と「グローバル・ギフト・ファンデーション(GGF)」に特別慈善樽の収益が寄付される。競売会には俳優のジャン・レノ、エヴァ・ロンゴリア、ドミニク・ウェスト、ザブー・ブレットマンらが参加し慈善活動への支援を呼びかける。

今年の特別慈善樽「キュヴェ・プレジダン」として選ばれたのはボーヌ1級畑レ・ブレッサンド

昨年の落札総額は23,279,300ユーロ(約37億円)、特別慈善樽(グランクリュ・マジ・シャンベルタン)の落札金額は350,000ユーロ(約5600万円)。今回は競売に掛けるキュヴェの数が大幅に減少することから落札総額は前年を下回ることが予想されるが、一樽当たりの平均落札価格は、数量が少ないことから2022年の約35,974ユーロ(約575万円)、2023年の30,839ユーロ(493万円)を上回ることも考えられる。

記者会見の冒頭、サザビーズ フランス代表取締役のマリー・アンヌ・ジヌーさんは、「4年間にわたりボーヌ慈善病院の素晴らしいチームと協力できることを喜ばしく思う。これらのユニークなワインをソウル、ドバイ、モナコ、台中など世界中の名だたる都市で紹介してきた。ブルゴーニュ・ワインへの関心は依然として非常に高く、ボーヌ慈善病院のワインは世界中で高い評価を得ている」と挨拶した。

左から「サザビーズフランス」代表取締役のマリー・アンヌ・ジヌーさん。ボーヌ市立病院財政担当理事マリー・カトリーヌ・モライヨンさん、国境なき医師団(MSF)」のオレリ・デュモンさん、「グローバル・ギフト・ファウンデーション・オブ・アメリカ」のマリア・ブラヴォさん

今回の特別慈善樽の収益金が寄付される「国境なき医師団(MSF)」は1971年に設立された国際医療人道支援団体で、70カ国以上で活動を展開し、2023年には69,000人のスタッフを擁している。今回の寄付金は、主に熱帯地域の貧困層に影響を与える「顧みられない熱帯病」との闘いに充てられる。一方「グローバル・ギフト・ファウンデーション・オブ・アメリカ」は、2013年にスペインの女優で実業家のマリア・ブラボーさんによって設立された非営利団体で、今回の寄付金は、マルベーリャの脆弱な立場に置かれている子どもたちとその家族のためのデイケアセンター「カサ・アンヘレス」に充てられる。

2015年からオスピス・ド・ボーヌのワイン生産責任者を務めるリュディヴィーヌ・グリヴォーさん

オスピス・ド・ボーヌのワイン醸造責任者、リュディヴィーヌ・グリヴォーさんは、2024年を「前例なき気候変動との対峙の年」と表現した。そして、個々の気象現象は「通常」の範囲内だったものの、その組み合わせと発生タイミングが特異なパターンを示したと、次のように述べた。

2023年から2024年の冬は温暖化が顕著で、凍結日数が平年より30日以上少なく、総降水量は670mmを記録。この異常な暖かさは冬季の農作業に影響を及ぼした。2024年の生育は年明けから既に前年より8日早く始まったが、4月には熱帯的な暑さから氷点下までの極端な気温変動に見舞われ、353ミリメートルという異例な降雨を記録。この時期の寒暖の激しい交替により、花芽が蔓に変化する現象が多く観察された。

6月の開花期には雨による花ぶるいで収穫量が減少。特にコート・ド・ニュイはボーヌの約2倍の降雨量を記録し、被害が顕著だった。7月は暴風雨と猛暑が交互に襲い、8月初めには灰色カビの被害も確認された。

収穫は9月11日に開始され、例年の14日間に対し9日間という短期間で9月22日には終了。醸造面では、ピノ・ノワールは長期の低温マセラシオンにより、フルーティーで柔らかなタンニンを持つワインとなり、シャルドネはピュアで真っ直ぐな味わいと良好な酸を持つワインが生まれた。

2024年は花芽への寒害、開花期の花ぶるい、生育後期での病害など、さまざまな試練が重なったが、生産者たちは強靭さと結束力でこれらの困難に立ち向かった。今年は気候変動時代における新たなワイン生産のあり方を模索する転換点となった。そして、予測不可能な気候変動への対応と品質維持の両立という課題に対する貴重な経験を蓄積したミレジムとして歴史に刻まれることになるだろう。

2024年オスピス・ド・ボーヌ競売会出展キュヴェ

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