ASP、のんふぃく!、マザリ…… Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング2024」20選[前編]ヘヴィ&ラウド篇|「偶像音楽 斯斯然然」125回
2019年4月からスタートし、当サイト連載の中で最多更新を記録した『偶像音楽斯斯然然』。連載終了から約8ヵ月が経過した今回、新春特別企画として、毎年恒例「ギターがカッコよいアイドルソング」をお届けする。今回も冬将軍と当サイト編集長・鈴木による対談形式で、全2回にわたって公開。本記事は、その前編となるヘヴィ&ラウド篇。ギターと音楽への偏愛が炸裂する、少しマニアックなトークセッションをぜひ堪能してほしい。
『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である。
新年あけましておめでとうございます。冬将軍でございます。
ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載『偶像音楽 斯斯然然』が惜しまれつつ終了してから早8ヵ月……。毎年恒例のマニアックすぎて伝わらない読者おいてけぼり企画「ギターがカッコいいアイドルソング」は今年もやりますよ! おかげさまで今回でなんと6回目っ!!
楽器好きなら誰もがお世話になったことがあるであろう機材誌で有名な某出版社の名物編集者だった鈴木Pop’n’Roll編集長と、音楽事務所やレーベルでA&R制作ディレクターを勤めてきた私、冬将軍の筋金入りギターヲタク2人がギターサウンド&プレイの観点から、この1年にリリースされたアイドルソングを、一切の忖度なしに選んで語りまくる本企画。2024年にリリースされた多くの楽曲から各々が10曲を選出した全20曲、まずはヘヴィ&ラウドサウンドにまみれた前編10曲から。
マニアックすぎて読者さまはついて来られるのか……!?
◉AIBECK「Diver」(鈴木セレクト)
冬将軍:
まずはAIBECK。これはアツい! ボーカルもアツ苦しい!!(褒めてます)
鈴木:
この曲はイントロの単音の入れ方と、単音バッキングにピッキングハーモニクスが入るAメロが印象的ですね。
冬将軍:
CRAZEとかD-SHADEあたりの、ダウンピッキングしてたら思わずハーモニクスが出ちゃった的な、あの感じですよね。あと、楽曲の印象として、どことなくビーイングの香りもする。
鈴木:
そうそう! 今回選んだ曲は、ビーイングのハードロック系の匂いがするものが多いんですよ。思春期にビーイング直撃していたので、自分は改めてそっちが好きなんだなって思いました(笑)。
冬将軍:
鈴木さん、B’zが根底にありますからね。でもやっぱりKIX・SやFEEL SO BADとか、女性ボーカルにハードなギターの組み合わせは90年代ビーイングなくしては語れない。ZYYGの後藤康二氏もPAMELAHの小澤正澄氏もアイドル楽曲提供してるし。
鈴木:
それがカッコいいっていうのはありますね。この曲はソロにトレモロピッキングが出て来たり、エンディングが全然違うアルペジオで終わるっていうのがいいなって。
冬将軍:
いい余韻を残して終わりますね。
▼アンチテーゼ「秒殺ラストダンジョン」(冬将軍セレクト)
冬将軍:
これは王道的HR&HMギター。
鈴木:
このイントロのバッキング、ブリッジミュートの入れ方もカッコいい。
冬将軍:
カッコいいロックギターのパッセージが鏤められてる。バッキングもリフも、テクニック的なところがクオリティ高い。ギターはアニソンメタル的なアプローチで、そこにまとわりつくエレクトロサウンドもいい感じでハマってる。この辺りは一歩違えば古臭くなっちゃうんだけど、ウマく今どきなプロダクトでめちゃくちゃセンスよくまとめてるなと。こんなすごい曲、誰が作ったんだ?と思ったら、磯野涼だったんですよ!(笑)
鈴木:
まさかの!(笑)
冬将軍:
やられた!っていうのと、なるほどな!っていうのが同時に来た。自分、どれだけ磯野涼が好きなんだよって(笑)。磯野さんはTENRIN、よるあみ(夜光性アミューズ)を筆頭にHEROINES楽曲を多く手掛ける、この企画常連のクリエイターですけど、ここで登場してくるとは……。過去にもアンチテーゼの楽曲は書いてるんですけど、すっかり油断してた。
鈴木:
あと、トーンがすごくいい。噛み付いてくる感じ。
冬将軍:
太いけど、エッジがありますよね。サウンドメイクがいいのもあるけど、ギタープレイ自体がいいんだと思います。ピッキングに速度があるから音が立ってる。で、楽曲はサビで一気に明るくなって、アイドルソングっぽくなる展開もいいなって。
鈴木:
うんうん、ストレートに行っちゃうと泥臭いラウドロックになっちゃう。そしてしっかりブレイクダウンが入る(笑)。
冬将軍:
この辺はさすが安定と信頼の磯野涼だなぁって思うところ。グループのイメージにもマッチしていて。私は、マーキュロはダークヒロイン、MAD MEDiCiNEは魔王とか仮面ライダーのラスボス女帝とか勝手に言ってますけど、アンチテーゼはライブパフォーマンスを含めて正義のヒーロー(ヒロイン)感がすごくしていて。この曲はそれにすごくハマっているなと。メンバーが卒業したり、いろいろあったけど、新菜まこさんがカッコいいプリキュアハイキックで何度もバズったり、ライブもいいなぁと思っていたのですが、ここに来て現体制終了とは……。
◉Wez「KILLDOL」(鈴木セレクト)
冬将軍:
WezはYABACUBE所属のグループ。鈴木さん、前回はガンジャバンギラスを選びましたけど、この事務所は純粋にカッコいいロックをしっかりやってるんですよね。音楽好きな運営だなというのがちゃんとわかる。
鈴木:
プロモーションでは、論争を招くこともありますけど(笑)。曲とサウンドはすごくいいんですよね。これもAメロのハードなカッティングがメタルっぽくて。それでいてサビはアイドルらしくちゃんとキャッチー。ボーカルのメロディが1本だけじゃなくて、重なっていくのもいい。王道アイドル的な合唱になっていないのも印象深いですね。
冬将軍:
ちゃんと歌える子が揃ってるからこそ、できるところ。
鈴木:
イントロの高速リフやトレモロフレーズ、トリル、細かいキメが要所要所に入っていて、技巧的なギターだと思っています。
冬将軍:
効果音的なギター。かなり奇抜なことやってますね。
▼マザリ「一緒に死ぬ序でに愛して欲しい」(冬将軍セレクト)
冬将軍:
これはもうLeda氏のギター&ベースですよ。サウンドと音圧からしてすごい。
鈴木:
凶悪な音ですよね。
冬将軍:
自分の周りのアイドルに興味ないメタラーの音楽関係者にウケがいいんですよ、マザリ。Leda氏で興味持った人も多いようで。
鈴木:
自分の中では、LedaさんはStrandbergを使用しているイメージが強いのですが、1年に1回は7弦のヘッドレスギターが欲しくなる時期がある。そして、この曲を聴いた瞬間に、そうなりました(笑)。
冬将軍:
日本人初のStrandbergシグネチャーモデルはLeda氏ですからね。マザリはお披露目のライブレポートを書いたんですけど、名古屋だったし、みんな“どんなグループなんだろう?”という注目を浴びていたから、ライブの描写より、グループ特性や楽曲の方向性を中心に書いたんです。そうしたら、“Ledaさんがあたかもステージにいるようなライブレポート”ということで、Ledaファンの間で話題になったらしく(笑)。自分はそういうつもりで書いたわけではなかったんですけど、確かにそう読めるなぁと。ありがたいことに、Ledaさん本人にもXで触れてもらったりして。
鈴木:
まさかの(笑)。でも、音楽好きの観点からすると、マザリというグループに対する興味が強くなるレポートだと思いました。
冬将軍:
ありがとうございます。マザリは名古屋系、密室系に通ずるコンセプトと音楽性はもちろんのこと、パフォーマンス面でのポテンシャルも高いので今後が楽しみですね。蛇喰ホムラさんは加入前から知ってるんですけど、いいスクリーマーになったなと。いわゆる飛び道具的なグロウル〜ガテラル主体ではなく、喉にディストーション掛けて歌う洋楽的なタイプだし、クリーンも上手に使い分けるので、アイドル界のアリッサ・ホワイト=グラズ(ジ・アゴニスト〜アーチ・エネミー)になってほしい。
◉ジエメイ「REVOLUTION」(鈴木セレクト)
冬将軍:
安定のジエメイッ!
鈴木:
Aメロのバッキングは、左チャンネルの単音フレーズがカッコいいなと思ったのと、途中にクリーントーンでのコード弾きが入るんです。それがいいなと。ドラムパターンもスリリングで……この曲に限らず、ジエメイはキメのブレイクにハッとさせられることが多い。緩急の付け方がウマいと思います。
冬将軍:
メリハリがありますよね。楽曲自体を難しい展開に持って行きがちのアイドルソング界隈ですけど、バンドのアンサンブルアレンジの緩急だけで充分カッコよくなれるし、奇抜にもなれるっていう、いい例だと思います。この曲、ジエメイらしい強さを感じられてカッコいい曲ですけど、上モノの入れ方、ストリングスがずっと入ってるのが、これまでとは違う聴き心地になっていますね。
鈴木:
ギター的視点でいうと、ブレイク前のワーミーというか、ピッチシフター系のフレーズも耳を持っていかれました。そして、めっちゃマニアックな視点ですが、最後ピッキングハーモニクスで終わるのがよい(笑)。
冬将軍:
颯爽と現れて掻き乱すだけ掻き乱しておいて、颯爽と去っていく、まさにジエメイっぽい曲だな。
▼のんふぃく!「絶対優勝!おぎゃりマスター」(冬将軍セレクト)
冬将軍:
こちらも毎度お馴染み、ドカ沸きキラキラハードコア、のんふぃく!です。
鈴木:
この曲のインパクトはスゴい(笑)。ゆよゆっぺさんが手がけているんですね。
冬将軍:
グシャーとした分厚い極悪ディストーションギターとやかましいシーケンスに乗る意味不明な言葉の羅列。キュートなボーカルに誤魔化されるけど、とんでもない楽曲。トドメにのんふぃく!必殺の治安が極悪になるブレイクダウンがあって(1:30〜)。ブレイクダウンが一気に堕ちるのではなく、2段階になってるんですよね。この間、花冷え。のインタビューをしたんですけど、そういう2段階ブレイクダウンは日本独自のものだという話になって。海外フェスでめっちゃウケるらしいんですよ。
鈴木:
ああ、洋楽にはない展開ですよね。
冬将軍:
1回目でわーっとなって、2回目でみんな一列に座ってバイキングモッシュ(船漕ぎ)始めて、みたいな(笑)。花冷え。はアニソンやアイドルソングの影響を受けてるし、やっぱそういうのって日本人らしいキャッチーとラウドの組み合わせの結果だと思うんですよね。花冷え。はゆっぺさんがシーケンスアレンジしてる曲も多いから、ゆっぺさんのヤバさの話もしていたんです、バンドサウンドに対しての+αの詰め込み方がすごいって。この「絶対優勝!おぎゃりマスター」もパラパラ風のシンセとか、情報量がすさまじい。ゆっぺさんはBABYMETALでの功績もすごく大きいし、アンスリュームなどでお馴染みのクリエイター、katzさんもゆっぺさんの影響をかなり受けてる話をしていたし、アイドルを含めた女性ボーカルのラウド系ジャパニーズロックポップソングのあり方を変えた人だと思ってます。
鈴木:
シーケンスを取り込んで派手なサウンドを作ることは、誰でもできそうなことではあるけど、ボーカルをちゃんと聴かせられるアレンジにまとめるためには、センスと知識が必要になりますよね。
冬将軍:
そう、緻密に作っていかないとぐちゃぐちゃで何やりたいのかわからなくなってしまう。あと歌の強さは重要。これは大事なことなので何回でも言いますけど、のんふぃく!はとんでもないポテンシャルを持ったHEROINES随一の実力派グループだと思っています! 超激ムズ楽曲をキュートにサラッとこなしてるから伝わりづらいんですけどね。そこが魅力であり。全員すごいけど、やっぱり、こるねさんが強い。声量どんどん上がってハスキーボーカルがカッコいい。しゃべると愛嬌あって、でも物怖じせず言いたいことズバズバ言う、マイルドヤンキー具合いが最高です(笑)。
◉PLEVAIL「Plum」(鈴木セレクト)
鈴木:
この曲はさっきの話じゃないけど、自分の中では完全にB’zです(笑)。
冬将軍:
これめっちゃよかった! B’zはすごくよくわかるなぁ。ギタリストとボーカルがバチバチに闘ってるMVを勝手に思い浮かべてしまう(笑)。PLEVAILは昨年も鈴木さんが選んでいて。惜しくも2024年9月で終わってしまったグループですが……。このハネたリズムを、ノリ殺さずに歌えるのは何気にすごい。
鈴木:
そうですよね。ギターは歌の裏で細かいフレーズを弾きまくっている。間奏でいきなりジャジィになるのもすごくいい!
冬将軍:
っていうか、ギターめちゃめちゃウマい! ギターヒーロー的なプレイ。
鈴木:
ですよね。で、ラストサビ、ここもめっちゃB’z!
冬将軍:
この積み上げていくメロディ。いやぁ、やっぱりこの歌のノリ出せるアイドルそういないですよ。いいグループだったのになぁ。
鈴木:
アウトロで弾きまくってるのもいいんですよね。
冬将軍:
歌に絡んでいくのがたまらないですね。
▼ASP「MAKE A MOVE」(冬将軍セレクト)
冬将軍:
UKのユニット、ウォーガズムのサム・マトロック提供曲。プロディジー譲りのデジタルハードコア。これはずるい。サウンドも音像も別格で、完全に洋楽です。アタリ・ティーンエイジ・ライオットの雰囲気もある。ASPはこの前にプロディジーのマキシムの原曲提供を受けていたり、真摯にEBM(エレクトロ・ボディ・ミュージック)をやってるんですよね。
鈴木:
英詞を含めて、完全に洋楽ですね。
冬将軍:
ウォーガズムは2024年1月の初来日公演のレポートを書いたんですよ、2日間。その時ASPがオープニングアクトを務めたんですけど、ちゃんと洋楽ファンにも受け入れられていましたね。そのあと、ウォーガズムの2人にインタビューしたんですよ。それでASPのこともチラっと聞いてみたんですけど、面白がってましたよ。アイドルに限らず日本人アーティストに海外アーティストが楽曲提供することって、ビジネスな側面が強い場合もあるけど、ASPに関してはリスペクトを持ってやってるんだなっていうのがわかりました。渡辺淳之介氏の渡英があったり、WACKがロンドン公演<WACK in the U.K.>を定期的に開催していたりと、ちゃんと関係があるからこそ成立したんだなって。
◉MAGMAZ「Spicy」(鈴木セレクト)
鈴木:
この曲は、ギターのカッティングが左右のチャンネルで会話をしている感じなんですよね。
冬将軍:
これもリズムがハネていて、アイドルソングっぽくない曲ですね。
鈴木:
ホーンもいい感じ。ちょっと系統は違うんですけど、エクストリームの3rdアルバム『III Sides to Every Story』(1992年リリース)を思い出すんですよ。あれもホーンが入っていて。
冬将軍:
はいはいはい。好みが分かれたやつ! 確かにヌーノ(・ベッテンコート)がやりそうなファンクっぽさがある。あと、スティーヴィー・サラスの『Stevie Salas Colorcode』(1990年リリース)辺りの、あの感じとか。
鈴木:
そう! 確かにサラスっぽい。ロックの人がやっているファンクというか。
冬将軍:
うんうん。さっきのB’z繋がりじゃないけど、当時、サラスとTAK松本が雑誌『GiGS』で対談やってたのを思い出しました。ここのグループは、やっぱりハルカキルサージさんがカッコいいんですよね。前のグループの時よりかなり音楽性が広がっていろんなことやっていて、彼女の器用さが光る。
鈴木:
ラウドな曲もありますよね。その中で、このテイストの楽曲があるのは振り幅があっていいなと思います。
▼YOLOZ「ディアブロ」(冬将軍)
冬将軍:
これはゆよゆっぺさんがやってるバンド、N.I.C.K.(Naked Identity Created by King)のギタリスト、Nishi Astukiの曲。以前コラムで取り上げたことありますけど、TENRINの曲なども書いてます。この曲はデジロックアイドルソングの真骨頂。大好きなタイプのヘヴィロックリフですね。
鈴木:
uijinのありぃさんプロデュースグループですよね。
冬将軍:
そうです、ANTVOX。おすし(On the treat Super Season)の曲を引き継いだりもしてますけど、raymayの要素もあったり、ちょっと変態チックなデジロック。あと個人的に4人組が好きなんですよ。ステージ前方に並び出た時の構図がカッコいい、センターがいなくて四天王っぽさが出るから。YOLOZは壱さんのロックで引っ張っていく感だったり、リンドウ=リンさんの美少女感だったり、四者四様のキャラによる、立ち画がいいなぁと思います。
(後編へ続く)