「さとり世代」「マイルドヤンキー」という言葉を生み出したマーケティングアナリストの原田曜平さん。若者研究は、どのようにしている?
物心ついたときからインターネットやスマホが身近にあったZ世代。新感覚を持つ彼らは、どんなことを心地いいと感じ、どんなことをいやだと感じるんだろう?上の世代にしてみれば「仲良くなりたい、だけどちょっと気後れする」そんな存在でもある気がします。そこで、Z世代特有の発想や感性について、長年、若者研究をされていて、「さとり世代」や「マイルドヤンキー」といった言葉の生みの親でもある原田曜平さんに聞いてみました。もっと彼らに近づいていいんだ、と原田さん。しかも、いまは世界的に「Z世代の世紀」。理解を深めておくと、さまざまな場面でちょっと役に立つかも?しれませんよ。全5回でおとどけします。最終回、若者研究をはじめたきっかけ。
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原田さんはもともと広告代理店に勤めていたんですよね。
原田
学生さんからよく「なぜ広告代理店に入ったんですか?」と聞かれるんですけれど、正直に言うと、最初から入りたかったわけでもないんです(笑)。
私は高校時代から「テレビ局に入ってドラマを作りたい」って思っていたんですね。大学時代はシナリオ教室に通っていたし、就職活動のときも、ドラマが強かったフジテレビとTBSしか受けなかったんですよ。
でも結果は、2社とも最終面接で不合格。当時は、就職氷河期だったので、「食いっぱぐれるぞ」と奈落の底に落ちかけました。
そんなときに声をかけてくれたのが、ゼミの先輩です。その先輩は大学時代には女性にモテる感じじゃなかったのに、社会人になって、スーツを着てすごくカッコよくなっていて、おしゃれなお寿司屋さんでごちそうしてくれて。「先輩、どこに就職したんですか?」と聞いたら「博報堂だよ」と。
テレビ局に入ろうと思っていたので他の企業のことをあまりにも知らなくて、博報堂のことも知らなかったんですよ。それなのに先輩の紹介で面接を受けたら、たぶんキャラクター採用のような感じで採っていただいたんですね。
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最初は希望して入った業界ではなかったけれど、先輩がカッコよくなってたのがきっかけで(笑)。
原田
そうなんです(笑)。
それで入社して最初に配属されたのが、マーケティング部だったんですね。大学のゼミでマーケティングを学んでいたのですが、最初はあまり興味がなくて、やりたくなかった。広告代理店に入ったからには、コピーライターとかCMプランナーとか、クリエイターになりたいと思っていたんですけれど、ここでも希望通りにならなくて。
だから最初は、本当にしんどかったんですよ。ただ、マーケティング調査でいろんな人にインタビューをして、年齢や性別・職業などの違いでずいぶん感覚が違うことを知って、だんだんマーケティングの仕事のおもしろさを感じてきました。
ところが入社2年目に、博報堂生活総合研究所に異動になったんです。生活している人たちの気持ちに寄り添って、マーケティングのアイデアを考えていこうという部署で、結果的にはここで長く若者研究をすることになりました。
でも、ここでも最初はやさぐれていたんですよ。あまり興味がなかった広告会社に行くことになって、広告会社でクリエイターになろうと思ったらマーケティング部に配属されて、そこもおもしろくなってきたらすぐに異動させられて、研究所ってなんじゃそりゃ? って。異動になったとき、母親に泣きながら「異動になっちゃったよ‥‥」って電話したことをいまでも覚えています。
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やさぐれている原田さんが変わったのはなにがきっかけだったんですか?
原田
当時の所長が関沢英彦さんというコピーライターの方で、やさぐれていた私を育ててくれたんです。
ただ、関沢さんに「君には若者研究をやってもらいたい」と言われたときにも反抗しましたね。「いや、俺、ガキに興味はないんで」なんて言って、出社拒否して映画を観に行ったりしてて(苦笑)。振り返ると私は本当にひどい若者でしたね。まさに「ばかもの」だったんです。まあ、昭和のいい時代ですよ。
関沢さんもあきらめず、そんななかで「よかったらおいで」って言ってくださって。だんだん関沢さんの人柄にひかれて、あるとき「若者研究ってなんでやったほうがいいんですか?」と聞いてみたんです。そしたら「若者マーケットは子どもが減ってもなくならない。研究する人も少なくなるだろうし、希少価値が高まる分野だよ」と。
さらに当時はガラケーが出始めたときで、「若者研究をすれば、デジタルの研究もできるし、絶対やったほうがいいよ」ともおっしゃいましたね。
それで、毎日のように渋谷のセンター街に行っては、ガングロギャルとお茶をしながら話すという感じで調査をはじめました。
彼女たちとは4〜5歳しか離れていないけれど、相当感覚が違うところもあって、途中から「あ、これおもしろいな」とハマっていって。気づいたらもう20年以上やっているんです。
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長年の研究のなかでは、大変さもずいぶんあったんじゃないでしょうか。
原田
自分もそうでしたけれど、いつの時代も若者はわがままで時間にもルーズ。だからまあ、日々大変です(笑)。若者を研究対象にするのは相撲部屋の女将みたいなものです。
特に壁を感じたのは、35〜36歳のころですね。それまでは10代後半〜20代前半の子たちとギリギリ同世代の感覚で話を聞けていたんです。地方の学生から「友だちを集めるからインタビューしに来てください」って連絡がくれば飛んでいって、彼の家に泊めてもらいながら話を聞く。労力はかかったけれど、感覚的に若者を理解できるという強みがありました。
それが35歳くらいになると、「あれ? なんか話が通じないな」と。日々、若い子たちとコミュニケーションをとり、流行も分析しているのに、肌感覚での理解ができなくなってきて。ジェネレーションギャップ、というやつですね。昔に比べると、自分のなかの感度が落ちているなぁ、という葛藤が続いた時期があります。
けれど「さとり世代」「マイルドヤンキー」など、私が作った言葉がブレイクしたのも、この時期だったんですよ。若者のことがよくわからなくなってきていながら、注目を浴びるという、ちょっと不思議な感覚の時期でしたね。
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「さとり世代」も「マイルドヤンキー」も本当に広く知られる言葉になりましたもんね。
その後、若い人たちとの年齢差はさらに広がっているわけですが、原田さんは、そのジェネレーションギャップにどう対処されているんでしょう?
原田
私は1977年生まれですから、年齢でいえば、いまは親と子ぐらいに離れてきていますよね。でも、いまはSNSの発達で、若者の情報が圧倒的に得やすくなったんですね。北海道や沖縄にいる子にもオンラインでインタビューできるし、TikTokを見ていれば彼らの間でバズっているものが見えてくる。若者研究はやりやすくなりました。
自分の肌感覚は当然ズレてきていますけれど、それも悪い面だけではないんですよね。
若いころは、感覚的にわかった分、客観性は低かったと思うんです。いまは、かなり客観的、定量的に研究できています。一方で「不憫かわいい」みたいに理屈は説明できても、感覚的には共感できない、ということも多いから、いつの時代もプラスもあれば、マイナスもある、という感じですね。
──
Z世代の後ろには、α世代が控えていますけど、どんな特色を持った世代になりそうですか?
原田
α世代の研究は、まだ始めたばかりなんですね。そして低年齢のうちって、親の影響が大きく、なかなかその世代の特徴をとらえづらいんですよ。彼らが高校生くらいにならないと、しっかり調査をするのもむずかしい部分はあります。
ただ仮説として私が思っているのは、第1に、かなりグローバルな感覚を持つようになるだろうということ。α世代の親世代は、団塊ジュニアやポスト団塊ジュニアと言われる人たち。彼らは日本人の世代のなかで、旅行や留学でもっとも海外に行った人たちなんです。本当の意味でのグローバルな感覚というのが、子ども世代に伝わると見ています。
それからα世代は、Z世代よりもさらにスマホを持つ年齢が低年齢化しています。スマホで撮影する技術とか動画への感覚とか、鋭くなっていくでしょうね。すでにInstagramが普及して、若い子のビジュアル的な審美眼が上がっています。
TikTokやYouTubeで増えている短尺動画(3分以内の動画)を見て育つ世代だから、これからますますおもしろい映像が世の中にあふれるようになるでしょう。
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原田さんは若者研究と並行して、大学の先生としても教壇に立たれていますよね。
原田
ド文系の商学部出身の私が、芝浦工業大学という工学系の大学で教えているんで、不思議なものですよね(笑)。
理系は、再現性が大切ですから、統計学的に証明しないといけないんですよ。
お恥ずかしい話ですが、実はいま、週に1回、家庭教師に数学や統計を教えてもらっています。「原田さん、復習って言葉、知っていますか?」なんて怒られながらで。しんどいんですけれど新鮮です。これはやはり理系の大学にご縁をいただいたからで、マーケティングも統計学的に証明できなければいけない。
──
原田さんも試行錯誤の途中なんですね。
原田
私にとって理系の大学というのはいままで見てこなかった世界ですからね。人生ときめくには、このくらい違ったところに行ったほうがいいんじゃないかな、って。これまでの経験からも、きっと適応できるんじゃないかという根拠のない自信もあります。
統計学や数学的な技術が身につけば、マーケティングもさらに奥深いものになると思うし、世の中にももっと注目していただける成果が出せるようになるのではないか、と。
学生のほうが数学や統計が得意な子もいるので「先生、教えてあげましょうか?」なんて言われながら、なにくそと踏ん張っています(笑)。
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今日はありがとうございました。Z世代の若者と仲良くなれるヒントとともに、ご自身も学びながらのチャレンジしている姿に刺激をいただきました。
原田
がんばります! ありがとうございました。
(出典:ほぼ日刊イトイ新聞「Z世代って、どんな世代?(5)若者研究は、相撲部屋の女将のよう)
原田曜平(はらだ・ようへい)
1977年東京都出身。芝浦工業大学教授。大学卒業後、博報堂入社。博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーとなる。2018年に退職し、マーケティングアナリストとして活動。2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。
主な著書に『寡欲都市TOKYO─若者の地方移住と新しい地方創生 』(角川新書)『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)『アフターコロナのニュービジネス大全』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。