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【アーツカウンシルしずおかの「超老芸術」新プログラム】 対話型鑑賞で個性を引き出す

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は1月20日から始まった、アーツカウンシルしずおかの「超老芸術」新プログラムを題材に。実施の様子は21日付静岡新聞にも掲載。(文・写真/論説委員・橋爪充)

アーツカウンシルしずおかのさまざまなプロジェクトの中で、ひときわ注目を集めている「超老芸術」。チーフ・プログラムディレクター櫛野展正さんが、2021年に静岡にやってくる前から取り組んでいる。

「超老芸術」の定義は、かっちり決まっているわけではないが、筆者なりの解釈では、次のような説明になる。

○高齢(例えば60代以上)になってから芸術活動に取り組んだ人、その作品
○過去に専門的な美術教育を受けたかどうかは関係がない
○自分の芸術活動を続けていること。多少ブランクはあってもいい
○モチーフや素材、画材、創作手法に一意専心が感じられる

こうした項目を全て満たしていなくてはダメだ、ということではない。どれか一つだけが当てはまる、という人もいるだろう。ただ、これだけは言える。櫛野さんの発掘してくる「超老芸術」は、「アート」という考え方のヒエラルキーや価値観を突き崩す可能性に満ちている。要するに「オモロイ」のだ。

櫛野さんは2023年、超老芸術家25人の作品とインタビューを収録した単行本「超老芸術」(ケンエレブックス)を発刊し、NHKの特別番組も担当した。静岡市駿河区のグランシップで「『超老芸術展』~遅咲きのトップランナー大暴走!~」も開催。キュレーターを務めた。世の中に、超老芸術という言葉がじわじわと、しかし確実に浸透しつつある。

そんな櫛野さんの頭の中では、「超老芸術」の次のフェーズが見えているようだ。「超老芸術」を、県内のあまたある高齢者施設の芸術活動に接続しようということ。もしかすると、新しい超老芸術家を発掘しようというたくらみもあるのかもしれない。

1月20日、沼津市の医療法人友愛会が運営する施設で繰り広げられた対話型鑑賞はその第一歩だった。今や「超老芸術」のトップスターとも言える本田照男さん(沼津市)の作品について、「デイケアさとやま」「聖人の家 風のガーデン」の利用者の皆さんと、ああでもないこうでもないと語り合う。

今年79歳の本田さんは60歳から絵の制作を始めた。極彩色の画面はとてもにぎやかだ。今回は富士山がモチーフらしい作品と抽象画2点が持ち込まれた。「こんな所を歩いてみたいねえ」「空が暗いから夕方かな」「どうしてこんなにカラフルにしたのかな」といった、見えているものに対する率直な感想がまず述べられる。

アートコンダクターの板野泉さんが、いろいろと投げかけをすると、自分の体験に引き寄せたコメントが出てくる。「私も(富士山の)お鉢巡りをしたっけねえ」「富士山はほとんどがガレ場でね」「東京の方(吉田口だろうか)からも登ったよ」。周囲で聴いているだけだが、このやり取りは結構面白い。

プログラムは1時間ほどで終了。次回は2月10日、本田さんがやってきて絵画制作のワークショップを行う。実際に手を動かして作品をつくるという。この2回が1セット。1,2月に県内の他2施設でも同じプログラムを実施する。

絵画を介した言葉のやり取りについて櫛野さんは、「誘導されて話しているのではなく、それぞれの主張が出ていた」と手応えあり、といった表情。「皆さんの個性を知る機会にもなった」と副次的な効果も強調していた。

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