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部下との関わり方。Z世代に「叱る」という手法は忘れたほうがいい。昔は「ほめる6割、叱る4割」だったけど今は。

ほぼ日

物心ついたときからインターネットやスマホが身近にあったZ世代。新感覚を持つ彼らは、どんなことを心地いいと感じ、どんなことをいやだと感じるんだろう?上の世代にしてみれば「仲良くなりたい、だけどちょっと気後れする」そんな存在でもある気がします。そこで、Z世代特有の発想や感性について、長年、若者研究をされていて、「さとり世代」や「マイルドヤンキー」といった言葉の生みの親でもある原田曜平さんに聞いてみました。もっと彼らに近づいていいんだ、と原田さん。しかも、いまは世界的に「Z世代の世紀」。理解を深めておくと、さまざまな場面でちょっと役に立つかも?しれませんよ。全5回でおとどけします。第3回目、Z世代と仲良くなるには?


──
「チル&ミー」なZ世代と仲良くなりたいと思ったら、たとえば親世代はどんなアプローチをしたらいいでしょうか?

原田
普通に考えると、“マイペースで自己承認欲求が高い若者”と接するのは大変ですよね。でも、意外かもしれませんが、親子は「仲良くなっちゃっている」というのが私の結論です。
昔の若者のほうがとがっていて、妙に意識して、親と距離をとっていた。私はいま40代ですけれど、自分の大学時代を振り返ると、母とはほとんどしゃべっていなかったなぁ。そういう人が多かったと思うんですよね。

──
お母さんに話しかけられても、「うるさいな」なんて言っちゃったり。

原田
そうそう。それがいまは、母の日にはお花をあげたり、TikTokにお母さんの若い頃の写真をアップしたり、親子で旅行に行ったりするのがスタンダードになっています。実際、ここ10年ほど「母の日」の市場は右肩上がりです。とくに若い男子がお母さんに花やプレゼントを贈るようになっているんですよね。

──
それ、お母さんのほうもうれしいですね。

原田
そうですよね。ただ3年くらい前に、若い子たちが「超いい」って言っていた広告があって、私は衝撃を受けたんです。
女子高生がカフェで彼とデートしてるんです。それで女子高生のお父さんがその様子をカフェの外から見ていて、支払いのときにお父さんが娘に電子マネーを1000円送金するんですよ。娘はそれに気づいて「あ、パパだ。パパ素晴らしい!」っていう広告なんですよ。
これ、私からすると不気味に見えちゃった。「うわっ、ヤバっ、このお父さん」って。家から追ってきたかもしれないんだよ。気持ち悪くない? って思ったんですね。
でも、若者に聞くと「このパパ、いい!」って言うんですね。「1000円もくれるし、娘のことも心配してくれてるし」とか言っているんですよ。なんじゃこりゃと思いましたね。もちろん、人によるかもしれないですけど。

──
だけどなんだか、仲の良い親子というのは昔よりずっと増えているというか。

原田
ええ。母子も父子も仲良くなってきているので、親子関係は課題が少ないかもしれないです。あんまり仲良くない親子もいるかもしれないですが、割合としては仲がいい親子が多い。
いまの学生は親を入学式に呼んで、一緒に写真を撮るのが普通ですよね。また、家族同伴の入社式をする企業もあって、就活生に人気です。企業も、親を巻き込んだほうが若い人材を採用しやすいという状況になっています。
こう考えると、親子関係は非常にいい反面、もしかしたら、自立しにくくて、たくましさが育ちにくくなっていると言えるかもしれないですね。

──
そうなると、親世代が経験してきたような「根性論」はもう通じなさそうですね。

原田
そうですね。親のほうも優しくなっていますよね。
昔は、『巨人の星』の星一徹みたいな、自分の価値観を子どもに押しつける頑固親父もけっこう多かったと思うんです。いまは時代的に親もやわらかくなっているし、若者も昔に比べて貧しくなってきているから、言ってみれば「共犯関係」が成り立ちやすいんですね。
子どもとしても「親と手を組んでおいたほうが得」というのもあります。
社会の厳しさを教える役割の人が家庭内にはいないので、そこは課題かもしれないですね。

──
職場の場合だと、Z世代の後輩、部下との関わり方については、どう思われますか?

原田
前提として押さえておきたいのは、時代背景として、「すべての産業が若者に媚びざるをえない状況にある」ということです。
たとえば学習塾でも、厳しく指導して辞められたら困ってしまうわけです。大学だってそう。昔の大学の先生って授業中に寝ている学生がいたら「寝るなら出てけ!」なんて言って偉そうにしていたでしょう?いま、そんな先生、あまりいないですから。
会社も同じで、地方の中小企業など特に、給料を上げても人材がなかなか集まらない状況。若者におもねらないと生き残れないんです。
そしてZ世代は、中学生のときから自分のSNS投稿に「いいね」を押されて、そういうコミュニケーションのなかで生きてきた人たち。もちろん家庭や個人によりますが、「ネガティブな経験をしていない子が大半である」と思ったほうがいいです。
ですから昔は「ほめる6割、叱る4割」とか言ってましたけれど、いまは「ほめる8割、改善提案2割」。

──
叱るんじゃなく、改善提案をする。

原田
「叱る」という手法は、もう忘れたほうがいいです。若い人たちを育てるという意味では、方法として成り立たなくなっちゃった。叱ってしまうと、効果がないどころか関係が悪くなってしまいかねない。上司や先輩側が自分の感情を発散させる場になるだけですね。
だから基本的には褒めて、インスタグラムの「いいね」のように気持ちよく承認する。ただ成長してもらわなきゃならないんで、2割ぐらいは「こうしたほうがもっとよくない?」という言い方をするといいですね。

──
なかなか難しさも感じますけれども。

原田
とはいえ、良いコミュニケーションを築けている人たちも、やっぱりいますから。たとえば、元侍ジャパン監督の栗山英樹さんとか、青山学院大学駅伝部監督の原晋監督は、いまの時代に合ったみごとな指導者だと思うんです。
原監督とは私も親しくさせてもらっていて、共著本を書いているくらいなんですけど、合宿に何度も見に行かせてもらったんです。
そうすると、練習後の雰囲気が男子学生たちが放課後に遊んでいるみたいな空気感なんですね。原監督が冗談を言ったら、選手が「監督、そんなこと言わないでくださいよー」ってツッコんで、みんなで「あははは」って笑ったりしている。昔の体育会系の世界からしたら信じられないですよ。つまり、上下関係がないんです。
指導する役目の人、走る役目の人がいるだけで、どちらが上でどちらが下、とかではない。そういう感覚を持たないと、いまの子には響かないと思います。

──
上から何かを言われること自体に嫌がられる?

原田
彼らはそういう経験をしてきてないですからね。
露骨な話をすると、昔は上司にパワハラまがいのことをされても、それに耐えれば得られる “果実”があったと思うんです。「俺もこのポジションになったら、経費も使えるし、給料も上がるからがまんしよう」とか。だけどいまはがまんしても果実が少ないから、耐える意味を見出せない。
「上司だから立場が上」といった感覚がないZ世代には、「俺が教えてやる」というスタンスではなく、上司は「教える役割」で、部下は「教えられる役割」。上下ではないというスタンスがいいと思います。 日本や中国、韓国など東アジア圏は儒教の影響が強くて年長者は敬うべきという文化がありますけど、とくに上の世代ほど「年齢は関係ない」という感覚を意識的に持つようにしたほうがいいでしょうね。
(出典:ほぼ日刊イトイ新聞「Z世代って、どんな世代?(3)「叱る」という手法は忘れたほうがいい)

原田曜平(はらだ・ようへい)

1977年東京都出身。芝浦工業大学教授。大学卒業後、博報堂入社。博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーとなる。2018年に退職し、マーケティングアナリストとして活動。2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。
主な著書に『寡欲都市TOKYO─若者の地方移住と新しい地方創生 』(角川新書)『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)『アフターコロナのニュービジネス大全』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

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