安い、うまい、気楽の三拍子。日々の拠り所にしたくなるラーメン酒場【福岡市・薬院】
「うちの競合はコンビニです」。「OGASAWARA」のご主人・小笠原啓二さんは、そう言い切ります。すなわち「OGASAWARA」のモットーは、コンビニで調達する惣菜やお弁当とそう変わらない価格帯で食事を楽しんでもらうこと。特別な外食ではなく、日々通えるようなお店として長年続けてきています。
お店は薬院六つ角の近くにあります。開業して16年になりますが、入り組んだ町並みに溶け込むような佇まいで、初めての人にはややわかりづらいかもしれません。5席のカウンターに、4席のテーブル2卓の小さなお店で、小笠原さん1人で切り盛りしています。
小笠原さんは大手外食チェーンでマネージメントを勤めた後、旧知の先輩とともに起業した居酒屋を経て独立しました。「社会人になったときから『なんでもいいから30歳で独立を』と考えていました」と小笠原さん。経験からやはり飲食業界がおもしろいと自らお店をやろうと決め、目標どおり30歳で「OGASAWARA」を開きました。
もともとは蒸し料理を中心とする創作家庭料理のお店でしたが、コロナ禍を転機に業態を変え、創作家庭料理とラーメンが楽しめる「郷愁のラーメン酒場」となりました。「そもそもラーメン好きなんです。それでコロナ禍で時間がぽっかり空いたときに、自分でラーメンを作ってみようかなって思ったのがきっかけでした」。とはいえ、ラーメンは奥深く試行錯誤の日々が続き、「安定して出せるようになったのは、この1年ぐらいですかね」と振り返ります。
メニューは名物の「蒸し焼売」(1個100円)、「鶏もも唐揚げ」(1個100円)をはじめ、おつまみ・おかず系の一品が350〜750円、さらにセットや定食もあります。「コンビニが競合」とは言い得て妙ですが、注文の仕方によってはコンビニよりも安くすんじゃいそう。
メニュー数が多いのでどう攻めるべきか迷っていたら、小笠原さんから「ほとんどのお客さんがこれを頼みますよ」との助言が。まずその「晩酌セット」(1300円)を注文してみました。
「晩酌セット」は、小笠原さんが選ぶ3品と好きなドリンク1杯がセットになったお得なメニューで、あらかじめ苦手な食材を聞いたうえで出してくれます。自慢の「鶏もも唐揚げ」はレギュラーで出し、ほか2品は日替わりでこの日は「真鯛塩こんぶ和え」と「梅ひじき春雨」でした。
クリスピーに揚がった唐揚げは、外側はザクっ、中はジュワっと肉汁があふれるいい塩梅。醤油ダレに漬け込んだ鶏モモを使うため、竜田揚げのように味にパンチもあり、これはなかなかのビール泥棒ですね。一方、真鯛と春雨は、夏バテ気味の身体にちょうどいい優しい塩加減でした。なんでも唐揚げは小笠原さんのお祖母さん、春雨はお母さんのレシピをもとにアレンジしたものだそうです。
次に開店当初から出している「春菊の香味サラダ」(580円)をいただきました。春雨は茹でずに、生の状態のまま熱々のガーリックオイルをジャ〜っとかけて半レアに。生のシャキシャキした部分と、火が通ったしんなり部分で食感が異なり、味も少し変化して2重のおいしさ……いや、おもしろいですね。ちなみにこの料理は、奥さんのレシピが原案だとか。
続いて、名物の「蒸し焼売」をいただきます。左側の2つが「蒸し焼売」(1個100円)、右側の2つが「海老とレタスの蒸し焼売」(1個150円)です。
焼売は作り置きせず、注文を受けてから餡を包みセイロで蒸します。包み立て蒸し立ての焼売は皮がトゥルントゥルン。「蒸し焼売」は粗めに挽いたミンチで肉々さを残してあり、これまた肉汁たっぷりです。「海老とレタス」はエビがプリプリで豊かな旨味、かつ、レタスのシャキシャキも味わえました。
お腹も膨れてきましたが、これを食べずには帰れません。最後に「懐かしの中華そば」(600円)を頼みました。その名のとおりシンプルで昔ながらのビジュアルですね。ストレート麺、縮れ麺から好きな方を選べ、私は縮れ麺をチョイスしました。
鶏ガラと鶏モミジをベースに、豚ミンチや背脂、根菜などからも出汁をとったスープは、やや甘味のある優しい味わい。ですが、しっかりコクも感じられます。「1人で食べ切れるかなぁ」と思っていたけど杞憂にすぎず、具もシンプルだしスープもあっさりしているので麺がスイスイと入り、難なく完食できました。
なんとこの中華そば、唐揚げ2個とご飯が付くセット(900円)もあるんです。これにビールを追加してサクッと食べて帰るというのもありかもしれません。
そして、わかってはいたものの、やっぱりお会計で驚きました。つい「計算まちがっていません?」と口に出すと、小笠原さんは笑って、再度目の前で電卓を叩き金額を提示してくれました。「うちは家庭料理の延長的なお店ですから。料理好きのオヤジが、家に遊びに来た友人に自慢の料理をふるまうような感覚でやっています」。そんな小笠原さんの人柄も相まって、実際に毎日通う常連も何人かいるそうです。
家庭料理の延長とはいえ、そこはプロ。家庭では出せない味、豊富な品数はなかなか真似できません。家でご飯作るの面倒だなぁという日、お財布に優しくおいしいものを求めたい日に真っ先に思い出したくなる、頼れる友人宅のようなお店です。
OGASAWARA
福岡市中央区薬院2-16-1ロマネスク第3-1F
070-1990-0136