キングス初優勝の天皇杯で「悔しい思い」をした荒川颯…岸本隆一の言葉を“指針”に『自分で勝ち取れる』選手に
Bリーグ西地区首位の琉球ゴールデンキングスは9日、沖縄サントリーアリーナで同地区最下位の滋賀レイクスと対戦し、104ー73で大勝した。通算成績は37勝13敗。レギュラーシーズン全60試合中50試合を消化した節目のタイミングで、8大会連続となるチャンピオンシップ(CS)進出を決めた。 3月15日にあった第100回天皇杯全日本選手権決勝で初優勝を果たし、その後は目下9連勝中と好調が続く。西地区2位の島根スサノオマジックとのゲーム差は5。2シーズンぶりの西地区優勝に向けたマジックも6まで減らした。 チームが上昇気流に乗る中、強い危機感と覚悟を持って日々の試合に臨んでいる選手がいる。 3ポイントシュートとディフェンスを武器とする荒川颯だ。今シーズンは個人としてキャリア最高の成績を残しているが、チームが快挙を達成した天皇杯決勝では存在感を示すことができなかった。歓喜の金テープを浴びながらも「自分は悔しい思いをした選手の一人」と言い、CSに向けてさらなる向上を期している。
50試合“フル出場”の3人のうちの一人
キングスのメンバーのうち、これまで戦った全50試合にフル出場している3人のうちの一人である荒川(その他の二人は脇真大とジャック・クーリー)。平均スタッツの出場時間14分36秒、4.4得点、1.8アシストは、B1のキャリアで過去最高の数字だ。 特に最近は持ち味の一つである得点面での貢献が目立つ。今シーズン、二桁得点を記録した試合は6回あるが、その内の3回が直近の9連勝中。1試合で3ポイントシュートを3本成功(キャリアハイタイ)させた試合もこの間に3回あった。 セカンドユニットで一緒にプレーすることが多い伊藤達哉の存在に触れながら「達哉さんがボールを運んできてくれて、自分は得意なプレーができる環境になってきています。試合を積み重ねながら、一人ひとりがどういう役割を果たせばチームが強くなるかが明確になってきていると思います」と語り、本職のシューティングガードとして力を発揮しやすくなっているようだ。 さらに、直近の滋賀戦では8本のアシストを決めてキャリアハイを更新した。「ハンドラーとして自分がクリエイトする機会は多く頂いているので、自分で得点を取るのか、アシストするのかを考えながらゴールに近付けたらいいなと思っています。結果としてこのような数字が出て良かったです」と振り返った。
天皇杯決勝のプレータイムは「2分51秒」のみ…
今シーズンはポイントガードの岸本隆一、伊藤、平良彰吾がそれぞれ負傷離脱する期間もあり、先発を務めることもあった。3月7〜9日にあった東アジアスーパーリーグ(EASL)ファイナル4ではクロージング(試合の締めくくり)の時間帯にコートに立つなど、シーズンを通して存在感を増している。 しかし、まだまだ越えるべき壁がある。それを突き付けられたのが、アルバルク東京に60ー49 で勝利した天皇杯決勝だった。 チームはEASLからの苦境を跳ね返して見事日本一の座をつかんだが、自身の出場時間はわずか2分51秒。出場機会がなかった植松義也を除けば、チームで最も短いプレータイムだった。栄光の瞬間、蚊帳の外に置かれたような感覚に陥っても不思議ではない。 「僕は天皇杯で悔しい思いをしている選手の一人だと思っています。優勝という最高の形で終わりましたけど、僕自身は修正しないといけないポイントを感じました」と歯がゆい表情で振り返る。他力ではなく、自力で優勝トロフィーを掲げたいという思いは一層強まった。 「優勝チームの一員になれることは光栄なことですが、自分自身でつかみ取りたいです。僕自身がもっとコートに立って、日本一になるという目標が新たにできたという意味では、本当にいい経験になりました」
荒川はキングスが準優勝を果たした昨シーズンのCSでも、ターンオーバーや簡単なレイアップシュートのミスもあって存在感を示せず、第3戦までもつれ込んだファイナルでは初戦で3分10秒コートに立ったのみ。 オフシーズンに行ったインタビューでは「客観的に見て、僕の立場の選手がCSの大事な場面でああいうミスをしていたら、コーチは使いづらくなりますよね」と反省を口にしていた。 大一番の試合でプレータイムを伸ばすためには、何が必要なのか。先日の天皇杯決勝の内容を踏まえ、戦う上での気持ちの有り様をポイントに挙げる。 「僕がハンドラーになったタイミングで、リジェクト(スクリーンとは反対方向にドライブすること)して空いたのにシュートを打たなかった場面がありました。隆一さんがああいう試合は『理屈じゃない』と言いますが、本当に気持ちを前面に出して戦っていかないといけません。そうでないと会場の雰囲気に飲み込まれるし、勝利に結び付いていかない。ヘッドコーチも『あ、こいつダメだな』という印象を持ってしまうと思います」 「気持ちを前面に出す」というのは、言い換えれば、大一番でも臆することなく自身の強みを出し切るということでもある。 天皇杯決勝で言えば、11分22秒のプレータイムを獲得した平良が分かりやすい例だろう。今季途中にB3から加入したばかりにも関わらず、タイトル戦の緊張感に押し潰されることなく、大事な場面で3ポイントシュートやミドルジャンパーを決めて見せた。 拓殖大学時代もチームメイトだった同級生の活躍は、荒川にとって強烈な刺激になったはず。「試合が終わった後の後悔は大きかったです。試合結果はいい形で終われたので、ポジティブに、次に向けてやっていきたいと思っています」と前を向く。
大一番で輝ける日が来ることを信じて
B3や練習生も経験してきた苦労人の荒川は、常に「満足したら負け」と自戒する習慣が染み付いている。キャリア最高のスタッツを残している今シーズンも「自分に100点を与えられる試合はない」と言い切るほどだ。「オフェンスマインドで入った試合はことごとくうまくいっていないので、連勝中も波がありました」と改善点に目を向ける。 特にリーグの上位陣との対戦ではプレータイムを減らす傾向にあり、タイトルの懸かる試合で結果を出し切れないことと共通した課題を感じている。以下はCSに向けて伸ばしていきたい部分を問われた際のコメントである。 「上位のチームを相手に、どれだけ自分のプレーを出せるかというのが全てだと思っています。そこにこだわってやっていかないといけない。チームとして、どこが対戦相手でも自分たちの遂行すべきところを遂行して勝っていく。自分がチームのために何ができるかを常に考えてプレーをしています」 試合結果に関わらず、慢心はしない。常に反省し、成長の肥やしにする。いつか必ず大一番で輝ける日が来ることを信じて。