輝く還暦アイドル ③ 松本伊代:花の82年組が1つのグループなら間違いなくセンター!
スリー・ストーリーズ by Re:minder
輝く還暦アイドル ③ 松本伊代
“花の82年組” のセンターは松本伊代
伊代ちゃんは私にとって、いや、きっと、TV世代の人にとって、ずっと安心して応援できる “愛される人” である。不機嫌な顔を見たことがない。今も昔も、いつも穏やかな笑顔。“えへへ” という吹き出しが常に出ているような。アイドルや芸能人に対しては、多少なりとも好き嫌いが出てくるものだが、伊代ちゃんはそのゾーンにいないのだ。彼女を見ると、ただただ、こう思う。あー、伊代ちゃん、今日も幸せそう、と。
彼女がデビューしたのは1981年10月。そのため、賞レースでは1982年デビュー組と競うことになり、“花の82年組” として紹介されている。この82年組はとにかく豪華。小泉今日子、堀ちえみ、三田寛子、石川秀美、早見優、中森明菜、シブがき隊… 。特にキョンキョンと明菜ちゃんは、昭和を代表する伝説のスーパースターとなった。
ただ、花の82年組を1つのグループアイドルとして仮定してみると、センターは、キョンキョンでも明菜でもなく、伊代ちゃんなのである。ソロアイドルながら輪の中心が似合う、稀有な魅力。TBS系バラエティ番組『パリンコ学園No.1』でも、キョンキョンと堀ちえみに挟まれて伊代ちゃんがセンターで、素晴らしく収まりが良かった。
豊かで骨太なボーカリストに成長した松本伊代
デビュー曲「センチメンタル・ジャーニー」を聴いたとき、多くの人は思ったはず。“伊代ちゃんが年を取ったら、この曲、どうするんだろ” と。「♪伊代はまだ 16だから」という名前と年齢が入った歌詞は、最高にキャッチ―だったけれど、同時に消費期限があまりにも短い印象。
そして、それは現実問題として降りかかってきた。年齢を重ね、本人も葛藤があったらしく、一時「センチメンタル・ジャーニー」の歌唱を避けていたという。けれど、それは彼女の歌に対する真摯な想いと愛情により、自然と克服されていった。
「だんだんと、(筒美)京平先生にも湯川(れい子)先生にも、曲自身にも申し訳ない、って思うようになったんです。ちゃんと歌ってあげたいな、って」
60歳になった今も、伊代ちゃんは「♪伊代はまだ 16だから」を、自然に、瑞々しく歌っている。彼女自身の見た目がキュートだからというだけではない。最たる理由は “声” である。16歳の頃と、ほとんど変わらない。いや、むしろ、声が年齢に追いついた。
「センチメンタル・ジャーニー」の作曲家・筒美京平が、“実にユニークな響きのある声。平山みき、郷ひろみとともに私の好きな三大ボイスの1つです” と絶賛した、どこかノイズすら感じる、粘っこくてザラザラとした不思議な聴き心地。16歳のときは低くて少しアンバランスにも思えたその響きに、表現力が加わり、いつしか松本伊代は、豊かで骨太なボーカリストに成長していた。
「♪伊代はまだ 16だから」と歌うことに意味がある
彼女は50歳のアニバーサリーの時、歌詞を変えた「センチメンタル・ジャーニー まだ50歳ver.」を発表している。これは「センチメンタル・ジャーニー」が大好きだった私にとって、待ちかねていた企画だった。伊代ちゃんと共に曲も年を重ねるなんてとっても新しいし、面白そう! 10年ごとに「♪伊代はまだ 60だから」「♪70だから」と作っていけば、“感傷旅行” は永遠に続く―― そんな風に簡単に思っていたのだ。
ところが、「センチメンタル・ジャーニー まだ50歳ver.」をいざ聞いてみると、意外なほど違和感があった。50歳に合わせた詞の世界観が悪いのではない。「♪伊代はまだ 50だから」のフレーズを聞いた時、コレジャナイ感がすごかったのだ。
ああ、伊代ちゃんが歌う「センチメンタル・ジャーニー」は、実年齢に合わせて歌う歌ではなかったのだ。彼女が還暦になっても、100歳になっても「♪伊代はまだ 16だから」と歌うことに意味がある。心に気持ち良い風が吹くのだ。松本伊代という人は、それができる唯一無二の歌手であり、この歌はそういう歌なのだと気づいたのである。
みなさん、16歳になっていただけますか?
10月4日・5日には、東京・大手町三井ホールにて、還暦を祝う『松本伊代 Live 2025 “Journey” and Sweet Sixty』が開催された。インタビューでライブに向けた抱負を語っていたが、「♪伊代はまだ 16だから」と歌い続ける意味の、答え合わせのような言葉があった。
『センチメンタル・ジャーニー』が困りどころですが、いつも『みなさん、16歳になっていただけますか?』ってお願いして歌っているので、一緒に16歳になっていつまでも歌えたらいいなって思います。ちょっと恥ずかしいですけどね(笑)
彼女が歌う「♪伊代はまだ 16だから」で、私たちは何度だって、青春旅行に出かけることができるのだ。