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【「Shizubi Research+ 倉俣史朗と静岡」記録集】 静岡市美術館渾身の一冊。バー「COMBLE」完成までを語ったテキストは必読

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は3月31日に発行(奥付)された静岡市美術館の「Shizubi Research+ 倉俣史朗と静岡」プロジェクトの記録集を題材に。

プロダクトデザイン、インテリアデザインの世界で一時代を築いたデザイナー倉俣史朗(1934~91年)と静岡の関わりを調査し、トークイベントや美術館での展覧会で成果を発表してきた静岡市美術館のプロジェクトの記録集が出た。

倉俣がデザインした静岡市内のバー「COMBLE(コンブレ)」を糸口に、この世界的なデザイナーと静岡の関わりを、いわば「更地」から掘り起こした伊藤鮎学芸員の熱意をまずは称賛したい。当初、このような規模の成果が得られるとは、本人も思っていなかったのではなかったか。職業上の誠意を超えたエネルギーが、それまで知られることのなかった資料や事実を招き寄せたとしか思えない。

記録集に収録された伊藤学芸員の論考を読むと、ブロックを1個ずつ積み上げるようにして倉俣の仕事の全体像に迫ろうとしている。関係者へのヒアリングで事例を集め、人と人の関係構築から決定的な資料に巡り合う。この過程は謎解きミステリーにも似ていて、読んでいて興奮を覚える。

今回のプロジェクトは立地する地域の過去と現在に目を向け、街中に刻まれた優れたデザインをアーカイブ化している。公立博物館の重要な役割を果たしていると思う。

記録集は2024年11~12月に美術館で行った展覧会の展示内容が中心になっている。「タカラ堂」「トンボヤ」「スナック田園」など倉俣による麗しい内装デザインの写真や、設計図面など資料がまとめられている。

白眉はやはり「COMBLE」関係だ。展覧会でも映像が流れていた2023年12月3日開催のトークイベント「バーCOMBLEができるまで」の抄録テキストが秀逸。倉俣デザインの粋を集めた1989年4月オープンのこの店が、デザイナーや施主のどのようなやりとりで出来上がったのか。各所に使われた材の選択の意図は。トークに参加した、当時施工に関わった方々の話に、倉俣への追慕がにじむ。

読み進めて分かるのは、この店は「デザイナーがやりたいことをとことんやっている」ということだ。「それがなぜ許されるのか」もちゃんと説明されている。商業デザインのくびきから解き放たれた、奇跡のような店であることがはっきり分かる。

倉俣の作品を記録し続けた藤塚光政さんが撮り下ろしたCOMBLEの写真を見ていたら、マティーニが飲みたくなってきた。

(は)

<DATA>
■「Shizubi Research+ 倉俣史朗と静岡」記録集
サイズ:B5変形(156×234)全136ページ
価格:2200円(税込)
内容:
○倉俣史朗が静岡で手がけた店舗など一覧
○「アートからデザインへ―《トンボヤ》と《タカラ堂》が倉俣にもたらしたもの」橋本啓子(近畿大学建築学部教授)
○「倉俣史朗の静岡での足跡をめぐって」伊藤鮎(静岡市美術館学芸員)
○COMBLE2025 37年の時をつなぐ 撮影藤塚光政
○展覧会(2024年11月6日~12月15日)インスタレーションビュー  ほか
販売場所:静岡市美術館ミュージアムショップ、COMBLE(静岡市葵区呉服町2-7 静専ビル2F)

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