三毛猫・サビ猫の毛色の神秘が解き明かされる 研究者が「DNAの欠如」を初めて確認 米国・日本
猫の毛色と性別の関係は…?
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茶トラ、三毛、サビ…こうした猫の毛色は、どのような遺伝子の働きによって決まるのでしょうか。
このたび米国と日本の大学研究者が、猫の毛色発生のしくみについてそれぞれの研究結果をまとめました。
2つの研究はともに初めて「DNA変異の存在」を発見したという、画期的な内容です。研究結果は2024年11月に同時に発表されています。
黒猫と、茶トラのようにオレンジがかった茶色の被毛を持つ猫を両親にもつ「三毛猫」と「サビ猫」の存在は、長い間科学者を魅了してきました。
これらの毛色の猫はほとんどがメスであることから、三毛やサビの毛を茶色や黒にする遺伝子の変異は、性別を決定づける「X染色体」上にあるとされてきました。
メスの胎児は両親からX染色体を1つずつ受け継ぎ、X染色体を2つ持つことになりますが、各細胞はどちらか1つの染色体をランダムに選んで成長させ、選ばれなかった染色体は不活性なボール状になります(X染色体不活性化)。
三毛やサビの猫は、両親から黒のX染色体と茶のX染色体を1つずつ受け継ぎますが、体の部位ごとにどちらの染色体が不活性になるかで黒毛になるか茶毛になるかが変わり、その結果、サビ猫が発生するというわけです。
三毛猫の場合は、黒のX染色体と茶のX染色体に加え、毛を白くする「色素生成をしない遺伝子」を一部の細胞が持っているため、3色となります。
なお、黒猫と茶トラの親をもつオスの場合は、たいてい黒か茶色の「単色」になります。オスはX染色体を1つしかもたないためです。
茶トラ猫には「DNA領域の欠如」が
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では、そもそも茶トラ猫の明るいオレンジがかった茶色は、どのように生まれるのでしょうか。
米国スタンフォード大学の遺伝学者Greg Barshさんらは、動物病院で茶トラ猫とそれ以外の猫の胎児4匹ずつから皮膚サンプルを採取し、皮膚細胞「メラノサイト」(「メラニン」と呼ばれる色素を産生する細胞)が生成しているRNA(※)の量を測定しました。
※RNA:DNAの遺伝情報を写し取ったり、その情報を読み取ってタンパク質を合成したりする役割を担う
その結果、茶トラ猫のメラノサイトは「Arhgap36」 と呼ばれる遺伝子から、通常の13倍ものRNAを生成していることがわかったのです。この遺伝子はX染色体上に存在しているため、研究チームはこれがオレンジ色の発現の鍵を握っていると考えました。
さらに、茶トラ猫のArhgap36の遺伝子配列を調べたところ、DNA領域の一部が欠如していることがわかりました。この欠如が、毛色を決定づけるタンパク質をどれだけ生成するかに影響すると考えられます。
この発見をもとに、研究チームは188 匹の猫のゲノムのデータベースを調査しました。そして茶トラ、三毛、サビ猫のすべてに、まったく同じ変異があることを発見したのです。
この報告は2024年11月に査読前の研究発表サイトである「bioRxiv」に投稿されています。
日本の研究者も同様の発見
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同時期にやはり「bioRxiv」に投稿された別の研究でも、同じ発見が報告されています。日本の九州大学の佐々木宏之特名教授をリーダーとする「三毛猫遺伝子探索プロジェクト」がまとめたものです。
この実験では、日本の野良猫と飼い猫24匹、世界中から集めた猫のゲノム258匹分を調べています。そして米国の研究チームと同様に、遺伝子の欠如を確認したのです。
あわせて三毛猫の皮膚の茶色の領域には、ほかの部分よりもArghap36 RNAが多く含まれていることも発見しました。このArghap36 RNAは、X染色体不活性化の影響を受けることもわかっています。
両研究チームはおたがいの研究成果が似通っていることを知り、同時に発表することを決めました。どちらの研究でも、 Arhgap36の量が増えると「細胞内で赤い色素を生成する分子経路(※)が活性化する」ことを発見しています。
※分子経路:細胞内の複数の分子間で起こる一連の反応
必要なことは、すべて猫から学べる
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専門家はこの2つの研究結果に注目しています。
「これは画期的な研究成果です」と話すのは、米国ミズーリ大学のLeslie Lyonsさんです。
「この変異が最初に現れたのはいつなのか、ぜひ知りたいですね。エジプトでかつてミイラ化された猫が茶トラだったという証拠もあります。猫の毛色に関する研究が進み、環境が遺伝子発現にどのような影響を与えるかなど、さまざまなことが明らかになってきています。遺伝学について知る必要のあることは、すべて猫から学べるのです」と彼女はいいます。
出典:Gene behind orange fur in cats found at last