潮騒が旅情を誘う、静岡県熱海市伊豆多賀地区。中心部から離れたのどかな風情【徒然リトルジャーニー】
雄大な相模灘が目の前に広がる南熱海・伊豆多賀地区。熱海市中心部の喧騒とは打って変わり、どこかのどかな風情が漂う。ややもすると見過ごしてしまいそうなスポットを巡ってから、良質の湯にゆったり浸(つ)かり、至福の一夜を過ごすことにしよう。
アクセス
鉄道:JR・地下鉄東京駅から東海道新幹線・JR伊東線で約1時間10分の伊豆多賀駅下車。
車:東名高速道路東京ICから同道・小田原厚木道路・西湘バイパスを利用し、石橋ICまで約70km。石橋ICから熱海市中心部を経て伊豆多賀地区まで約25km。
白砂の浜が目を引く、くつろぎのエリア
東京方面から熱海市中心部を抜け、さらに海沿いに5㎞ほど進むと、やがて緩やかに弧を描いた白砂の浜が目を引く長浜海浜公園が見えてくる。界隈は伊豆多賀地区と呼ばれ、南隣の網代地区にかけて温泉宿が点在するくつろぎのエリアで、個性的なスポットもあちらこちらにあるようだ。
まずは多賀神社に立ち寄り、徒然旅の安寧を祈願してから、近くの『蕎麦処 多賀』へ足を運ぶとしよう。庭園を前にした窓際の特等席では、歴史を有する建物ならではの風情を楽しみながら、何組もの先客が料理に舌鼓を打っている。こちらも負けじと胃袋を満たしてから、背後に迫る山並みの中腹にある『戸田幸四郎絵本美術館』を目指した。
時間をかけて展示室を巡り、庭のベンチで絵本を広げていると、水を飲むため噴水に来た野鳥が興味深げにこちらの様子をうかがっているのが面白い。眺めのよいカフェでひと息ついてから、『味と湯の宿 ニューとみよし』へと向かった。
貸切露天風呂三昧で心身ともリフレッシュ
こちらは各部屋の専用風呂のみならず、貸切風呂の充実ぶりで知られる温泉宿だが、2024年には新たに海に面した貸切露天風呂とサウナが合わせて7カ所も加わったとのこと。貸切風呂天国との形容がぴったりで、居ながらにして心ゆくまではしご湯を堪能できる。言わずもがな新鮮な磯料理も期待を裏切らない。
翌日、宿で教わった『菓子の木 多賀店』で熱海みやげの焼菓子を選んでから、最後に『八木酒店』を訪れた。冷蔵庫に居並ぶ地酒は新聞紙で丁寧に覆われ、それぞれに店主の八木さん自ら作成したラベルが貼られている。帰宅後、見繕ってもらった地酒を早速燗につけ、伊豆多賀で過ごした時間を静かに思い返していると、旅先で目にした光景が鮮やかによみがえってきた。
味と湯の宿 ニューとみよし
プライベートタイムを満喫できるくつろぎの湯宿
従来の本館・別館に加え、2024年には全室スイートルームの新館がオープン。全36室が相模灘に面し、33室に専用露天風呂が付く。特筆すべきは計14もの貸切露天風呂・サウナで、利用状況はスマホアプリで確認できる。「あえて大浴場は設けず、プライベートな空間を重視しています」と富岡宏泰専務。海の幸満載の食事も楽しみ。
味と湯の宿 ニューとみよし
住所:静岡県熱海市下多賀1472-1/アクセス:JR熱海駅から東海バス「網代旭町・弘法滝」行き約21分の「海水浴場」下車すぐ
多賀神社
古くより地域の信仰を集める上多賀地区の鎮守
延喜5年(905)に制定された延喜式神名帳にも記載された式内社。社殿裏手には縄文・弥生・古墳時代の祭祀用青銅鏡などが出土した磐座(いわくら)があり、この地は古(いにしえ)より多賀の聖地であり、多賀神社は氏神として尊崇されてきた。7月29日の例大祭本祭りでは、厄年の男子に担がれた御鳳輦(ごほうれん)が海へ入る「浜降り」の神事が斎行される。
多賀神社(たがじんじゃ)
住所:静岡県熱海市上多賀741-1
蕎麦処 多賀
歴史ある建物で石臼製粉の香り高いそばを
「香り高く、甘みを感じる自慢のそばを、喉越しとともに味わってほしい」と店主の渡辺裕(ゆたか)さん。茨城県佐島郡の契約農家から取り寄せたそばの実を毎日石臼で挽(ひ)き、梁(はり)が渡された客間で提供。そば前の一品料理も豊富で、注文に迷うほどだ。
蕎麦処 多賀(そばどころ たが)
住所:静岡県熱海市上多賀798/営業時間:11:00~15:00(土・日・祝は~16:00)/定休日:木(祝の場合は振替休あり)
戸田幸四郎絵本美術館
自然をこよなく愛した作家の筆致が伝わってくる
熱海自然郷と呼ばれる陽光まばゆい別荘地にあり、視線の先には伊豆多賀地区の青い海が広がる。1982年刊のロングセラー『あいうえおえほん』に代表される知育絵本や環境・昆虫絵本などを遺した絵本作家・戸田幸四郎の作品や原画を一堂に集めた私設美術館で、2フロアに分かれた館内はテーマ別に4つの展示室に分けられている。驚くべきはテーマごとのタッチの違いで、引き出しの多さに思わず舌を巻く。ミュージアム・ショップでは絵本のほか絵を配したオリジナルグッズも販売。
戸田幸四郎絵本美術館(とだこうしろうえほんびじゅつかん)
住所:静岡県熱海市上多賀1055-30/営業時間:10:00~16:00最終入館(カフェは11:00~16:00LO)/定休日:祝を除く火~木
菓子の木 多賀店
地域作家の雑貨も扱う気さくな洋菓子店
アーモンド風味のクリームが口の中でふんわり広がる看板商品のダックワーズ216円をはじめ、伝統的なフランス菓子をベースに、日本人の嗜好に合わせてアレンジした焼き菓子は手軽な熱海みやげにぴったり。季節感を重視した生菓子は15種前後で、こちらも欲しくなる。
菓子の木 多賀店(かしのき たがてん)
住所:静岡県熱海市下多賀572-27/営業時間:10:00~18:30/定休日:水・第4火
八木酒店
地酒への熱き思いがガツンと伝わってくる
「軟水で醸した個性豊かな静岡県の日本酒の魅力を、より多くの人に知ってほしい」と3代目店主の八木孝浩さん。県内全域の蔵元へ足を運んで集めた地酒が所狭しと並び、なかには滅多に見かけない銘柄も。何を買うか迷ったときは唎酒(ききざけ)師の八木さんが相談に乗ってくれる。
八木酒店(やぎさけてん)
住所:静岡県熱海市下多賀1424-2/営業時間:9:00~19:00(不在の場合あり)/定休日:水
【耳よりTOPIC】70年以上の歴史を誇る名物イベント
熱海港を大輪の花が彩る熱海海上花火大会が今年も開催。南熱海網代温泉旅館協同組合では、開催日に宿泊者専用の送迎バスを運行(各宿で要予約)。2025年の開催日は3月23日、4月20・28日、7月25日、8月5・8・18・25日、9月15日、10月13日、11月3日、12月7日。20時20分~40分(7・8月は20時15分~)。
取材・文・撮影=横井広海 協力=味と湯の宿 ニューとみよし
『散歩の達人』2025年4月号より