バレーボール男子日本代表ロラン・ティリ新監督、フランスを金メダルに導いた名将が指摘した「日本との差」
男子フランス代表監督として東京五輪金メダル
バレーボール男子日本代表の新監督に内定したロラン・ティリ氏(60)が2日、オンライン会見に出席した。
フランス出身のティリ新監督は、1982年から95年までフランス代表としてプレーし、1988年ソウルオリンピック(8位)や1992年バルセロナオリンピック(11位)に出場。引退後は指導者となり、フランスのASカンヌ監督として2005年の国内リーグ優勝、2007年の国内カップ優勝などの実績を残し、2012年から男子フランス代表監督として指揮を執った。
2016年リオデジャネイロオリンピックは9位だったが、2021年の東京オリンピックではフランス代表として初のオリンピック金メダルを獲得。2020年には、代表監督と兼任でパナソニックパンサーズ監督に就任し、現在も大阪ブルテオンで指揮を執っている。
代表選手選考などは並行して行うが、正式な代表監督就任はSVリーグの今シーズン終了後、2025年5月頃になる見込み。契約期間は2028年ロサンゼルスオリンピック後に開催されるアジア選手権終了後までとなっている。
会見の冒頭で挨拶した川合俊一日本バレーボール協会会長は「全会一致で決まった。ティリさんとは現役時代も対戦したことがあるが、1勝1敗でイーブンだった。その頃から頭脳的なプレーするし、トリッキーなプレーもしていた。次のオリンピックでメダルを取れるチームに引っ張り上げてくれることを期待している。結論としては万歳!という感じ。大喜びです」と笑顔を見せた。
フランス代表監督も同じフランス人のフィリップ・ブラン監督から受け継ぎ、日本代表監督としてもブラン監督の後任となったティリ新監督は「ブラン前監督には敬意を持っている。基本方針はしっかり継承して進めたい」とした上で、「指導者は時として、エゴイストとして信念を持って進める必要がある。他の方の言葉が邪魔をすることもある。私なりの考え方をチームに当てはめて進めていく」と言葉に力を込めた。
フランスと日本の違いは「経験の差に尽きる」
2024年パリオリンピックは7位だった男子日本代表。ミュンヘン以来56年ぶりとなるメダルを目指す2028年ロサンゼルス大会に向け、日本のバレーボールに携わって長いティリ新監督は、克服すべき課題もすでにインプットできている。
「フィジカル面を変えることは難しい。強豪国は200センチ以上の高身長の選手を揃えている。身体面の差をどう埋めるか解決しないといけない。パリ五輪はロス五輪に向けて貴重な経験でもあった」
フランス代表は東京、パリオリンピックを連覇。世界最強と言える母国と日本の差について問われると「経験の差に尽きる」と言い切った。「勝利だけでなく、ギリギリで勝利を逃した苦しい経験も重要。東京、パリでフランスが勝利を収めたのは苦い経験を乗り越えたからだ」と振り返る。
2016年リオデジャネイロ大会でフランスは2勝3敗でグループステージ敗退。その苦い経験がその後の金メダルにつながったと考えると、パリで涙を呑んだ日本代表にも可能性はあるはずだ。ポイントにサーブとレシーブを挙げる。
「サーブは体格差と関係ない。レシーブは全ての起点になる。ブロックは身体的な差があって苦しいが、レシーブで勇気をもって飛び込み、つなぐことが大事。日本はそれを越えない限り、世界で頂点に立つのは難しい。苦しい場面を乗り越えて初めて表彰台が見えてくる」
また、バレーボールに限った話ではないが、日本の学生スポーツの在り方に対しても問題提起した。
「日本は高校生、大学生などの組分けがしっかりしている。逆に違う年代の選手とプレーする機会がないので、もう少しあればいい。優れた大学生をプロレベルに上げても即戦力としてすぐに結果が出ない。制度の枠を越えて別カテゴリーに入って経験することが必要だ」
今秋からスタートしたSVリーグは2027年の完全なプロリーグ化を目指している。日本バレーボール界が過渡期にあるが、世界を目指すためには既存の枠にとらわれず、仕組みや制度そのものを常にブラッシュアップしていく必要があるだろう。
代表辞退の選手とは“対話路線”
山内晶大(大阪ブルテオン)や高橋健太郎(ジェイテクトSTINGS愛知)らのように代表引退を示唆したり、西田有志(大阪ブルテオン)のように代表としてのプレーを休む意向を示したり、心身ともに負担のかかる日本代表から距離を置く選手もいる。
「大切なことはコミュニケーション。選手たちは自己犠牲を払ってバレーボールに長い時間を捧げてきた。パリオリンピックを終えて気持ちが落ちる、体力的に疲れている選手がいるのは当然。代表として戦っていくには高いモチベーションが大切。しっかり対話して確認を取りながら進めていく」と“対話路線”を強調した。
日本代表監督を引き受けた理由について「チャレンジの機会をいただき、引き受けない方がいるだろうか。日本の将来に期待しているのも大きな理由だし、選手たちが練習に向かう姿、取り組む姿を見て日本に愛着を覚えたこともある」と説明したティリ新監督。誰よりも日本を知るからこそ、向ける眼差しは厳しい。本気でメダルを狙う新たな戦いが始まった。
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記事:SPAIA編集部