核心を言い当てる様子は「ずばり」?「づばり」? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】
「ざあざあ」「じとじと」…Z音で始まるオノマトペのイメージとは? 秋田喜美さんの解説を紹介!
「ざわざわ」「じりじり」「ずどん」…オノマトペは擬態語や擬音語の総称です。
2024年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。
様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。
今回は『NHK俳句』テキスト2025年1月号から、「Z音」のオノマトペに宿るイメージについての解説をお届けします。
阻害音 Z音で始まるオノマトペ
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物事の核心を言い当てる様子は「ずばり」でしょうか、それとも「づばり」でしょうか? 十一月号で、ダ行の「ぢ」「づ」はザ行の「じ」「ず」に統合されているという話をしました。今回はそのザ行です。再び表記について考えることになります。
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濁音であるザ行(Z音)に対応する清音はサ行(S音)です。S音のイメージは「摩擦」や「静けさ」でした(八月号)。これを強めたZ音のイメージは、大きめの音を発する強い摩擦といったところです。「ざつ」と降る夕立の雨脚は強く、息を切らして帰ってきた犬の「ぜえぜえ」もよく聞こえます。子猫たちが歩く「ぞろぞろ」からは、そのスムーズな動きに「摩擦」が感じられます。
さて、問題の「じ」「ず」です。D音の時と同様、対応する清音始まりのオノマトペを探していきましょう。「じつとり」の句は届いた手紙が雨で濡れてしまったのでしょう。対応するのは「ちっとり」ではなく「しっとり」。心地よい「しっとり」に対して、「じっとり」は不快なほどの水分量を表します。一方、物言いの率直さを表す「ずばり」には、「すばり」や「つばり」といった兄弟が見当たりません。でも、よくよく考えると、「すっぱり」という親戚がいます。「すっぱり」は「ずばり」と同様、勢いのよい切り方を表します。物言いの「ずばり」は、ここから派生したもの。したがって、「づばり」ではなく「ずばり」という表記がよさそうです。
このように、親戚にまで捜索範囲を拡大することで、オノマトペの意味の理解はさらに深まるのです。
『NHK俳句』テキストでは、「ずけずけ」に対応する語、「じいじい」に対応する語などから、オノマトペの特徴について明らかにしていきます。
講師
秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ進化したか』、Ideophones, Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です
◆『NHK俳句』2025年1月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:『日本語のオノマトペ──音象徴と構造』(浜野祥子著・くろしお出版)/『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/『擬音語・擬態語辞典』(山口仲美編・講談社学術文庫)
◆トップ写真:(テキストへの掲載はありません)