「子どもの近視にはメガネorコンタクト? それとも治療?」近視のリスクと最新治療を眼科医が解説
【子どもの近視予防】第4回「近視のリスクと最新治療」 増加する近視から子どもを守るため、目に関する最新予防知識を得よう!
中高生に「早寝早起き」を強いてはいけない 「寝た時間と昼間の生活」の関係とは「近視は治療が必要な『病気』である」と語る、眼科医の窪田良先生。子どもたちの視力低下が世界的な問題となっているなか、中国や台湾などでは独自の近視対策(#2、#3)をとって、近視の予防・抑制に取り組んでいます。日本でも近視の子どもは増え続けています。「親子で、もっと近視についての正しい知識を持ってほしい」と窪田先生は言います。
4回目は、「近視のリスクと最新治療」について。近年の研究で、実は、近視には将来失明などにつながりかねない疾患の原因になるリスクがあることがわかってきました。
近視は「目が悪くなってしまったからメガネをかけて解決」ではなく、しっかりと「予防」をし、進行を「抑制」して立ち向かっていく病気なのです。
近年広まってきた最新の近視治療に関しても解説。世界基準の正しい目の情報をお伝えします。
●PROFILE 窪田良(くぼた・りょう)
眼科医、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO。「世界から失明を撲滅する」ことをミッションに掲げ、眼疾患に関する研究開発を行う。近著に、『近視は病気です』(東洋経済新報社刊)。
開発が進む近視治療 子どもには何がいいの?
小4の我が子の近視治療に悩むママからの相談です。
「小4の娘の同級生が、最新の近視治療『オルソケラトロジー』をしたそうです。保険がきかない高額治療のようなのですが、日中はメガネを着用しなくてもすむようになったと聞いて気になっています。小学生のうちはメガネで、中学生になったらコンタクトをさせれば大丈夫と思っていたのですが、近視は治療ができるのでしょうか?」(Yたんママ・39歳)
この相談にDr.窪田こと、窪田良先生の答えは?
近視は失明のリスクにつながる重大な病気
目というのは、視力が下がってしまっても、メガネやコンタクトで矯正することができますよね。だから、「メガネかけたら大丈夫でしょ」と安易に考えている方が非常に多く、それが近視治療や目の健康に関する正しい知識と危機感を持てない大きな理由のひとつとなっています。
しかし私は、「近視というのは立派な病気」というスタンスです。近視は、「いろいろな目の病気を引き起こす原因になり得る」からです。具体的な病気は、「網膜剝離」「緑内障」「白内障」「近視性黄斑症」などがあります。
近視とは、「近見(きんけん)作業」(物を近くで見る作業)から、目の中の奥行き「眼軸(がんじく)」が伸びて屈折異常が起きた症状のこと。簡単に言うと、近視とは眼球が伸びてしまった状態なのです。
眼球が伸びれば当然網膜も伸び、薄くなって破れたり穴が空いたりしてしまいます。これが「網膜剝離」です。日本人の失明原因第1位の「緑内障」は、眼圧が上昇することで視野が狭まる病気。近視の人は、普通の人よりも眼圧にもろい状態なので、視神経に影響を及ぼすリスクが高いとされています。
「白内障」も、近視による眼球の変化が引き起こしていると考えられます。「近視性黄斑症」は、まさに近視が引き金になって起こる病気です。網膜が伸びて薄くなると、血流が悪くなります。その際、出血したり、物がゆがんで見えたりするようになるのが近視性黄斑症で、日本人の失明原因の上位を占める病気です。
近視が失明に関わる重大な病気を引き起こすリスクがあるというのは、なかなか想像しにくい事実だと思います。「自分が失明するなんてあり得ない」と考えている人は多くいますが、近視の方にとってこのような病気はけして他人事ではないと知っていただきたいです。
近視により将来的な病気のリスクが高まることが明らかになった。 引用:『近視は病気です』(窪田良著/東洋経済新報社刊)より
メガネやコンタクトの正しい選び方・使い方
話はそれましたが、最新治療について語る前に、子どものメガネ着用とコンタクト装着についてもお話ししましょう。
以前は「度の強いメガネをかけると、近視が進行する」と考えられていました。メガネで視力1.2や1.5まで見えるように矯正してしまうと「見えすぎて近視が進む」とか「よく見えることに慣れると良くない」のようなイメージが浸透しており、「子どもには、弱めの度数で矯正するのが安全だろう」という風潮もあったのです。
しかし、これは大規模臨床試験によって「度の弱いメガネをかけている子どものほうが、近視がより進行する」と判明し、全面的に否定されました。私たち眼科医も、最新の研究によってこの事実を知ることになったのです。近年は、フルコレクション(完全矯正)と呼ばれる、しっかりと度数の合ったメガネをかけることが推奨されています。
コンタクトについては、中学生くらいから着用を開始する子どもが多いでしょう。何歳になったら、という明確な基準はありませんが、清潔に扱えるかがポイント。そして、装着時間をできるだけ短くすること、毎日一定の時間使用することなども重要です。
よく「メガネとコンタクト、どっちが目にいいですか?」と聞かれることがありますが、小さな子どもには、コンタクトレンズよりも扱いやすいメガネのほうがいいと私は考えます。
画期的な最新“近視治療”が続々
現在、自由診療であれば、近視の治療にはさまざまなものがあります。
角膜の表面にレーザー照射する「レーシック」、眼内にレンズを入れる「ICL(インプランタブル・コンタクトレンズ)」などの治療も徐々に主流になってきていますが、いずれも子どもには推奨されません。成長過程にある子どもは屈折力や視力が安定していないためです。
・コンタクトで治療する「オルソケラトロジー」
子どもに適応される近視治療としては、まず、相談者さんがおっしゃっている「オルソケラトロジー」があります。ハードコンタクトレンズを寝ている間に着用する治療法です。コンタクトレンズによって一時的に角膜をギューっと圧迫して形を変え、その形状記憶によって翌日の日中は視力が回復してメガネを着用しなくてもよい、というもの。
今ある最新治療の中ではもっともよい方法だと思いますが、使用できる子どもに限界があったりなどの課題もあります。初年度に15~30万円程度、2年目以降は3~6万円程度かかるので、高額な治療です。
・まぶしい目薬「アトロピン点眼薬」
もうひとつ、子どもの近視治療の選択肢として最近登場したのが、「アトロピン点眼薬」です。眼圧検査や屈折検査のときに用いる点眼薬で、点眼すると瞳孔が開き、まぶしく感じます。
この点眼薬を「低容量にして長期間差し続けると近視抑制に効果がある」とシンガポールの医師が発表し、現在、中国や台湾では臨床試験が行われています。日本でも臨床試験中で、現在は自由診療なので月に2500~4000円程度の費用がかかります。こちらは、遠くない未来に承認されるかもしれません。
・目の外遊びをめざした「クボタグラス」
私が経営する会社でも、近視治療を研究・開発しています。まずは台湾で義務化されている「1日2時間の外遊び」(#3参照)を日本の子どもたちにもぜひ実践してほしいです。とはいえ日本では義務化されていないので、難しい場合も多いでしょう。
そこで、1日2時間の外遊びをしたのと同じ効果が期待できる「クボタグラス」というメガネを開発し、2022年から発売しました。米国では子どもも使える安全基準を満たした医療機器として登録されています。現在も国内外でさまざまな臨床試験を行っていて、世界で近視予防や抑制につかえる技術になることを期待しています。価格は77万円と高額です。
これらの最新治療は、近視が増えているアジア圏で進んでいます。まずは「近視は病気」という認識を広めることで、さまざまな研究や開発が加速し治療法が確立していく、と私は考えています。
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眼科医として臨床や研究を重ねた後、眼科領域の治療に関する研究開発を行うベンチャーを起業した窪田先生。
「世界から失明をなくす」ことを使命に活動している窪田先生ですが、その前段階にある「近視」について、もっと多くの人に正しい知識と危機感を持ってほしい、とお話ししていました。子どもの近視、あきらめずに向き合っていきたいです!
取材・文/遠藤るりこ
「近視は治療が必要な『病気』である」という認識が、世界的に高まってきています。目に関するリテラシーを上げることが、今まさに必要。眼科医で創薬や医療デバイスの研究開発を行う窪田良先生が目について「役立つ」、「世界基準の」情報を伝える一冊『近視は病気です』(東洋経済新報社刊)。