【発達障害・発達特性のある子】に家庭ができること 「療育の専門家」が教える我が子の幸せとは
発達障害・発達特性のある子どもを「幸せな人」に育てるために家庭でできること、気をつけることはなにか?毎日の生活のなかで保護者ができることを療育の専門家・原哲也先生に教えていただきました。
【画像多数】【発達障害・発達特性のある子】に家庭ができること 「療育の専門家」が教える我が子の幸せとは発達障害や発達特性のあるお子さんの保護者の方からのご相談に、言語聴覚士・社会福祉士であり、発達障害のお子さんの療育とご家族の支援に長く携わってきた原哲也先生がお答えします。お子さんとの生活が楽しくなり、保護者の方の負担が軽くなるような実践的なアドバイスをお伝えしていきます。第10回は、発達特性のあるお子さんに家庭でできることについてのご相談です。
【質問】発達障害の特性のある子どもに対して、家庭で気をつけることやできることを教えてください。
幸せとは何か
この保護者の方は、なぜ「家庭で気をつけることやできることを知りたい」と思われたのでしょうか。
私はそれは「我が子に幸せになってほしい」「そのために親としてできることをしたい」と思っているから、だと思います。子どもに幸せになってほしい。それはすべての親の願いでしょう。しかし、改めて「幸せ」とは何か、「幸せになる」とはいったいどうなることなのか、と問われると、これに明確に答えるのはむずかしい。
私は、療育の仕事に就いてからずっと自分が関わる子どもと家族に幸せになってほしいと考えてきました。ですから、めざすべき「幸せ」とはどういうものなのかをはっきりさせたくて、書籍や論文を読み漁りました。その中で出会ったのが、慶應義塾大学大学院の前野隆司先生の「幸福学」です。
その後、幸運にも前野先生の知遇を得、先生に拙著の解説を書いていただいたのですが、その中で前野先生は、幸せな人とは、「多様な仲間とともに、前向きに、自分らしく、わくわくしながら、やりたいことに チャレンジしているひと」と書いておられます。これは、私のイメージする「幸せ」にとてもマッチするものでした。以来私は、私の中で、これを幸せの定義として、関わる子どもと家族がこうなれるように応援しようとしてきました。
子どもを「幸せな人」に育てるために家族ができることは何か?
では、発達障害の特性のある子どもが「幸せな人」になるためには、保護者はどうしたらいいのでしょうか。すなわち、「発達障害の特性のある子どもに対して、家庭で気をつけることやできること」は何なのでしょうか。
1.健康を維持する
やりたいことにチャレンジするには、まず、健康でなくてはいけません。そのためには生活リズムを整えることが必要です。発達障害のある子どもは日常生活での心理的なストレスや感覚過敏によるストレスが積み重なり、その結果、どうしても生活リズムが崩れがちです。次のことに気をつけて、生活リズムを整えましょう。
①睡眠リズムを作る
第4回 子どもが寝なくて困っています参照
②決まった時間に食事をする
朝ごはんが食べづらいときは、起床後、少し時間をおいてから朝ごはんに向かう、散歩などで少し体を動かす、ということをしてみましょう。
③日光をしっかり浴びて運動する
日光をしっかり浴びることは良質な睡眠を取る上で大切です(第4回 子どもが寝なくて困っています)。運動は④快便にも効果的です。
④快便をめざす
週に3回より少ない、5日以上出ない状態が継続する、毎日出ていても、出すときに痛がって泣いたり、肛門がきれて血が出る場合、便秘と考えられます。
便秘は発達障害の特性のある子どもにはよく見られます。便秘は不快ですし、便が腸内で停滞すると腸内環境が悪化します。腸は免疫やアレルギーに深く関わること、「第二の脳」とも呼ばれ精神状態に影響すること、から、腸内環境が悪化すると、体調やメンタル面での不調につながっていきます。
たかが便秘と侮ることなく、遊びで体を十分に動かす、こまめに水分補給をする、食物繊維をしっかり摂るなどして便秘解消を心がけましょう。
2.「自分らしさ」を育てられるように関わる
子どもが「自分らしく」生きるには、親との関わりの中で「自分らしさを育てる」ことが大切です。子どもが「自分らしさ」を育てられる関わり、それは、子どもが「自分は人に影響を与えることができる」「自分は大切にされている」「愛されている」と感じられる関わりです。その安心感を支えにして子どもはさまざまなことにチャレンジし、その中で自分が何が好きで何が嫌いかを知り、「自分らしさ」を作り上げていきます。
では子どもが安心感を得るにはどうしたらいいでしょうか。それは、子どもからの働きかけに周囲の大人が「応じる」「真似する」「一緒に楽しむ」ことです。
まだ話せない子どもがじっと母親のほうを見つめたら「なあに?」と応答する。子どもがミニカーを楽しそうに動かしていたら、「楽しいね」「好きだよね」と子どもの気持ちを感じてことばにする。子どもが積み木をしていたら、同じように積み木を積むなど、子どもの行動を真似する。真似をすると子どもは自分の行動が周囲に影響を与えることを実感しますし、真似する親に意識を向け親近感を持つようになります。
ところで、「応じる」「真似する」「一緒に楽しむ」にはコツがあります。それは子どもに注目し、まず何をしているかを「静かに」観察し、子どもの発信を「待つ」ことです。何より先に子ども自身が何がしたいのかをとらえる。それには「静かに」が大事です。大人から「先に」働きかけてしまうと、子ども自身が何を発信したかったかがわからなくなってしまいます。そして発信を「待つ」。微妙なものであっても発信があったらそれを素早くキャッチして「応じる」のです。
見ていると往々にして大人は子どもに働きかけすぎます。大切なのは子どもが「能動的に発信したこと」を受け取ってそれに「応じる」ことです。このことはぜひ意識していただきたいと思います。家族という小さい安心できる集団の中で、発信し、応じてもらう経験は子どもが「自分らしさ」を築いていく上で大切です。「応じる」「真似する」「一緒に楽しむ」ことをぜひ心がけてほしいと思います。
3.ワクワクすること、やりたいことを持てるようにサポートする
①大人が楽しんでいる姿を見せる
大人が何かを楽しそうにやっていると子どもは「なんか楽しそう!」と真似をしてみたくなります。大人と同じようにできるかも! というのは子どもにとって心躍るワクワク体験ですし、やってみたら「できた!」という経験は子どもの自信を育みます。スクワットでも雑巾がけでも洗濯ものたたみでもいいのです。楽しんでいる姿を子どもに見せてあげてください。
②「心が動く」体験をサポートする
もう一つ大切なことは、子どもの「心が動く体験」をサポートすることです。
大好きな電車や飛行機、城を実際に見に行ったら、きっと子どもの心は躍るでしょう。自然もまた、子どもの心に感動を刻みます。ちらちらする木漏れ陽、見渡す限りの雲海、波の音、潮の香り、一面の向日葵の黄色、大木の荘厳なたたずまい、空高く飛ぶ鷹……。自然が私たちに与えてくれる強い感動をぜひ、味わわせてあげてほしいと思います。
③「好き」との出会いをサポートする
発達障害の特性のある子どもは遊びのバリエーションが少なく、大人になっても楽しめる趣味が少ない、ワクワクすることや好きなことが少ないという傾向があります。
ですから、子どものころから、子どもが「好きなこと」が見つけられるように、ワクワクと心が動く体験ができるように、意識していただきたいのです。子どもがまだ出会っていない、でも、もし出会ったら「やりたい!」「これ好き!」「これすごい!」と思うものは世の中にたくさんあります。子どもたちがそれに出会えるよう、さまざまな経験をさせてあげてください。それが将来の子どもの「幸せ」を支えるものになります。
4.選択の機会を作る
①選択場面を作る
前向きにチャレンジする自発性や能動性を育てる上で大事なのが、「選択場面を作る」ことです。選ぶ、ということは、自分の意思が尊重されるということです。自分で選ぶとき、子どもは能動的になり、最もよく学びます。
研究でも、子どもがお絵描きをするとき、指定されたクレヨンを使う場合と好きなクレヨンを使う場合では、クレヨンを選べるほうが集中力が顕著に長かったという報告があります。
ところが発達障害の特性のある子の場合、選択ができない、意思表出があいまいで何を選んだかわからない、周囲にとって困ることを選ぶ、などと思われてしまい、選ばせてもらう機会が少なくなりがちです。
選択の意思表出については、何をじっと見ているかを観察するなどこちらが理解の努力をすると同時に、選ぶものをイラストにして指さして示せるようにするなど意思表出の方法を教えます。また、選択肢には選ばれては困るものは入れないようにします。そのような工夫をした上で、遊ぶもの、服、ジュースなど、子どもが選ぶのに興味を持つことならどういうものでもよいので、どんどん選択する場面を作ってあげましょう。
ただ、自閉症スペクトラム障害の子どもの中には、選択することに心理的負担を感じる子がいるので、そのような場合は選択を無理強いすることはしません。
②助けてもらって成功する経験を積む
世の中、ひとりではどうしてもうまくいかないが、助けてもらえばできる、ということはたくさんあります。しかし、発達障害の特性のある子の場合、どうしても自分でやるなどのこだわりがある場合がある、人と関わることが苦手なため、周りにサポートを求めることが苦手、ということがあって、助けを求めず、結局、うまくいかなくて泣いたり、癇癪を起こすことがよくあります。
また、発達障害の特性のある子どもは不器用だったり段取りが苦手なことが多く、ひとりではうまくいかないことも多いのです。いつもうまくいかないと、自尊心が育ちにくくなります。ですから、ぜひ「人に助けてもらって成功する」力を育てたい。そのために、「人に助けてもらって成功した。人の行動を参考にしたらうまくいった、一緒にやるとうまくいった」という経験をたくさん積ませたいのです。
それには安心できる場である家庭での経験が大事です。成功する方法をさりげなく見せる。重いものを一緒に運ぶ、なぞなぞでヒントを出してあげる。どんな些細なことでもいいのです。人の助けを得るとうまくいくのだ、という経験ができるよう、意識しましょう。
最後に
私は保護者を対象とした講演でよく、「ご家族一人ひとり幸せになりましょう」というお話をするのですが、すると講演後、「自分の幸せなんて考えたことがなかった。驚いた」という感想をいただくことがあります。日々の大変さの中で心が硬直してしまっている、ワクワクなんてできっこない、ということなのかなと思います。
ただ、ある研究によると、子どものQOL(生活の質)には親のQOLが関係するといいます。つまり、親が幸福だと子どもが幸福になるというのです。
(「親の幸福は子どもの幸福」榊原洋一2017年9月22日掲載CRN (https://www.blog.crn.or.jp/chief2/01/36.html))
それなら!
保護者の方も幸せをめざしましょう。
小さなことでもいいのです。まずは自分は何が好きだったっけ? と振り返り、「やってみたいな」「これ好きだな!」という「心が動く時間」を持つことにチャレンジしてほしい。それが子どもの幸せにつながります。私は専門職としてそれを精一杯応援します。
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今回は、「発達障害の特性のある子どもに対して、家庭で気をつけることやできることを教えてください」という質問にお答えしました。まずは健康、そして自分らしさややりたいこと、自分で選択することなど、お子さんに対して心がけることと同時に、家族ひとり一人が幸せを感じることが大切というお話をうかがいました。
原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。
2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。
著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。
「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著
わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。