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泡と味わいに反映されるボデガのこだわり / カバ発祥の地スペイン・カタルーニャを訪ねて【vol.3】

料理王国

泡と味わいに反映されるボデガのこだわり / カバ発祥の地スペイン・カタルーニャを訪ねて【vol.3】

スペインのカタルーニャ地方、ペネデスで造られるスパークリングワイン、「カバ」。原料となるブドウはマカベオ、チャレッロ、パレリャーダという固有3品種が主体で、シャルドネやピノ・ノワールを用いることもある。温暖な気候のもとでブドウがしっかりと成熟し、収穫時の糖度が高いのが特徴。1回目の発酵が終わったあとに瓶詰めし、再び熟成している間に緻密な泡が蓄えられ、生き生きとしたスパークリングワインができあがる。

世界のワイン産地が影響を受けているが、気候に恵まれたここ、カタルーニャも例外ではない。干ばつが続き収量の確保が年々難しくなっているし、2024年の秋は地域全体が葉にダメージを与える蛾の被害に見舞われた。収穫後だったワイナリーは事無きを得たが、速やかな対策の必要に迫られている。持続的な生産活動のためにさまざまな施策を講じながら、個性あるカバ造りに取り組むワイナリーも多く見られた。

女性醸造家が取り組む未来のためのカバ造り
【ヴィラルナウ Vilarnau】

ピノ・ノワールとマカベオの葉を手にするエヴァ。

ブドウ畑の緩やかな丘を上っていくと、美しい設計の水路に囲まれたミュージアムのような建物が現れる。ヴィラルナウはカバ生産のメッカ、サン・サドゥルニ・ダノイアの中心部に位置するワイナリー。「生まれてすぐに洗礼を受けるとき、唇にカバを塗られたわ」と語る醸造家エヴァ・プラザス・トルネはこの付近の小さな村の出身で、大手ワイナリーで研鑽を積んだのち、地元にあるヴィラルナウで栽培と醸造を取り仕切っている。

テイスティングルームからはワイナリー裏に配された池が見える。

海抜200mにある畑は、南にある海洋山脈が海からの湿度を含んだ風を、モンセラット山がピレネー山脈から吹く冷たい風を遮るため、ブドウ栽培に適しているという。2016年に有機認証を取得。化学薬品や植物衛生処理を削減し、除草剤は不使用。性フェロモンによる害虫対策を行っている。さらに持続可能なブドウ栽培に向けてさまざまな施策を講じSO2削減に取り組む。干ばつが続くスペインにおいて特に火急なのは水源の管理で、雨水の貯蔵や地下水の利用などで水資源を確保。また敷地内に池を中心としたエコシステムを設置し、生物多様性の保全を推進する。

「スペインでは女性が昔からワイン造りに携わってきた」と話すエヴァ。

カバに携わる女性による団体「Woman in CAVA」の代表も務めるエヴァが目指すのは、華やかな香りと果実味を感じさせるカバ。ペネデスで伝統的に使われていた栗材の木樽で発酵させたスペシャルキュヴェなどユニークなアイテムにも取り組む。

(左)グラン・リゼルバ ヴィンテージ オーガニック 2016(グラン・リゼルバ)Gran Reserva Vintage Organic 2016(日本未輸入)
マカベオ40% パレリャーダ25%シャルドネ25% ピノ・ノワール5%、瓶内熟成7年
残糖3gのブルット・ナトゥーレ。一次発酵は30日かけてゆっくり行う。スッキリとしたアタックながら充実した果実味。

(右)アルヴェール・デ・ヴィラルナウ バレル・ファーメンテッド 2016(グラン・リゼルバ)Albert de Vilarnau Barrel Fermented 2016 (日本未輸入)
チャレロ100%、瓶内熟成期間は3年半。
ベースワインの半分を栗材の新樽で発酵、6カ月熟成後、瓶内二次発酵。ブルット・ナトゥーレだがマロングラッセのようなリッチで芳醇なニュアンスがある。

ヴィラルナウ
https://www.vilarnau.es/

日本での問い合わせ先:都光
https://www.toko-t.co.jp/

チャレッロにフォーカスした唯一無二のカバ
【スマロッカ Sumarroca】

圃場は3カ所にある。ここは草生栽培を行う畑。

1983年にファミリーでカバを造り始めたスマロッカ。地元の貴族が所有していた400haの優良畑を譲り受けて購入し、本格的にカバとスティルワインのボデガとして生産を始める。サン・サドゥルニ・ダノイアの標高550mから600mの高台に数カ所にまたがって畑を所有。高地の粘土質土壌にカバ品種を有機農法で栽培、砂質土壌に赤ワイン用の黒ブドウ品種を植樹。カベルネ・フランなどをギヨーで仕立て栽培している。チャレッロの中には古木も多く、90年を超えるものもあるという。

27年のキャリアをもつ醸造家のサンドラ。

フリーラン果汁の比率が高いのも特徴。アルコール発酵後のベースワイン数種をタンクから試飲したがそれぞれに香りが際立ち、フルーティかつ凝縮感が感じられた。それでも「最終的な味わいはここから熟成と進化を予想して決めるのでこの時点での印象は参考程度」。スマロッカでは主要3品種の中でも特に、酸度が高く複雑な味わいも出るとしてチャレッロに注力している。

左から
2CV イナルテラット 2CV Inalterat(未輸入) 
チャレッロ100% 瓶内熟成15カ月、SO2無添加。
このタイプのカバが熟成するかどうか試みとして、2020から2022ヴィンテージまでを垂直試飲。シャープな酸が際立ち、いずれもフレッシュながらポテンシャルを感じさせる。

ヌリア オメナッジェ 2017(グラン レセルバ)Nuria Claverol Homenatge Gran Reserva 2017
チャレッロ100% 瓶内熟成40カ月
3haほどの単一畑に植えられたチャレッロから造るトップキュヴェ。低収量の古木ならではの凝縮感、生き生きとした酸と柔らかな口当たり、長い余韻。

スマロッカ
https://sumarroca.es/en/

日本での問い合わせ先:飯田
https://www.iidawine.com/

ペネデスのワインツーリズムを牽引する5つ星ホテル&ワイナリー
【マスティネル Mastinell】

輸出担当マネージャーのフアン・ホセ・グティエレス氏。泡をモチーフにしたレストランにて。

ヴィラフランカ・デル・ペネデスの街から約1km。5つ星ホテルとガストロノミックなレストラン、そしてスペイン王室御用達カバを擁するワイナリーがここ、マスティネル。1980年に創業した家族経営のワイナリーがロイヤルファミリーの心をわし摑みにしているのは、長期熟成を経てエレガントな雰囲気をもつカバである。

アーティスティックに並ぶジャイロパレット。6日間で動瓶できる。

その造りも緻密。約60haの畑から手摘みされたブドウは畑とワイナリーで2度の選果を行い、真空状態でプレス。皮の内側からも旨みを抽出するためにゆっくりと圧搾する。熟成庫にはスタイリッシュなケージタイプのジャイロパレット。注文が入ってから滓抜きをするため、ぎりぎりまで瓶内熟成の状態にある。

すべての客室からはブドウ畑を一望できる。

ペネデスのワインツーリズムを牽引し、高い評価を得ている点で注目されるワイナリーでもある。カバのボトルの列と泡をイメージしたユニークな外観のホテルは2013年にオープン。アントニオ・ガウディの技法であるトレンカディス(破砕タイル)を用いて、ソーラーパネルや雨水収集システムなど環境に配慮した設計も特徴だ。レストラン「エン・リマ」ではカタルーニャの新鮮な素材を使ったイノベーティブキュイジーヌに合わせて、マスティネルのカバを楽しむことができる。

ブリュット レアル 2015(グラン・レゼルバ) Brut Real 2015 
マカベオ チャレッロ パレリャーダ (比率非公開)、瓶内熟成8年。
ブラインドテイスティングによりロイヤルウェディングのパーティに採用された実績をもつ王室御用達のカバ。長期熟成ながらもフレッシュさを残し、熟したカリンや洋梨のコンポート、シフォンケーキのようなアロマが印象的。
レストラン「エン・リマ」のイベリコ豚の肩ロース 赤系果実のソースとともに。

マスティネル
https://mastinell.com/

畑をもたずして地域の農家と持続可能な生産方法を確立
【ヴァルフォルモサ Vallformosa】

すべてのポートフィリオを見ることができるテイスティングルーム。

確かな品質のカバを安定して生産するワイナリーは、海外に輸出されてD.O.カバの認知度を高めるだけでなく、事業の継続によって生産地域の発展にも寄与している。1865年に設立されたヴァルフォルモサは理念と独自の生産方法によって、カバの生産を通した持続可能なビジネスモデルを貫く生産者である。自社畑を所有せず、400もの栽培農家と提携して年間1200万本のカバを造り、50カ国に輸出している。

整然とした生産ライン。

ヴァルフォルモサが契約しているのは10ha未満の小規模農家がほとんど。一般的な価格よりも高額でブドウを購入するだけでなく、栽培者にサテライトによる栽培管理を始めとした最先端の栽培方法を共有し、パートナーシップを組んで共生を目指す。また、ワイン造りの将来を見据えた取り組みも積極的だ。ボトルの軽量化を図り、水の使用量を従来の50%以下に削減。ワイナリー内の廃棄物のリサイクル率は現在94%で、2025年にはゼロウェイストを目指す。

酸化を防ぎ、外れることのない強度をもったプラスティック栓。

さらに瓶内発酵時に王冠でなく独自開発したプラスティック栓を活用し、5回使用後にリサイクルするという。社会や環境に配慮した事業社を認定するBコープ認証をスペインで最初に取得したワイナリーとしても知られている。

ヴァルフォルモサの幅広いポートフォリオの中で新たにお目見えしたこのカバがユニーク。バルセロナ「エニグマ」シェフでエル・ブジでのキャリアをもつアルベルト・アドリアが監修に加わった、”マグロに合うカバ”。

クパージュ・ブルー・フィン(レゼルバ)Coupage Blue fin
チャレッロ マカベオ パレリャーダ(比率非公開)、瓶内熟成18カ月
香りは控えめ。ナッツのフレーバーと熟したリンゴのような甘さのある果実感。マグロの赤身に合わせて味わいを構築したという。残糖8~9g/L。

ヴァルフォルモサ
https://www.vallformosa.com/

日本での問い合わせ先:東酒類
https://www.azuma-shurui.co.jp/

ボデガに息づくカタルーニャの“モデルニスモ”
【カバス・ヒル Cavas Hill】

パーティやレセプションにも使用される地下セラー。

カタルーニャ出身の建築家 アントニオ・ガウディは郷土にさまざまな軌跡を残しているが、このカバス・ヒルのエステートとそのワインにおいても、それを見ることができる。創業は1887年に遡り、英国からの移民の子孫であるヒル一族がペネデスでワイン造りをスタート。19世紀に入り、カタルーニャ文化の代名詞ともなったモデルニスモはここ、ペネデスでも花開いた。創業一族の邸宅に造られたセラーはガウディを始めとしたモダニズムの建築家が用いた様式のパノ(六角形の装飾タイル)が使用され、さらにそれをラベルにあしらったカバのシリーズも造られている。

ペドロ・フェレール・ノゲル氏。パノ(六角形の装飾タイル)が使用されたセラーにて。

現在、カバス・ヒルの代表を務めるのは、スペインワイン連盟の会長でもあるペドロ・フェレール・ノゲル氏。カバス・ヒルはペドロ率いるフェレール・ワインズのグルーブワイナリーとして、リオハやリベラ・デル・ドゥエロ、プリオラート、またシャンパーニュやカリフォルニアなどスペイン国内外の銘醸地ワイナリーと情報共有や技術提携を行いながら、高品質なカバを生産している。

海のモチーフを意匠にしたパノをラベルのデザインに用いた「パノ・ガウディ」シリーズは、かバス・ヒルのアイコン。

左から
パノ・ガウディ・ピノ・ノワール・ロゼ(カバ・デ・グアルダ) Panot Gaudi Pinot Noir Rose
ピノ・ノワール100%、瓶内熟成9カ月
赤系果実のアロマとほんのりした甘みがチャーミングなロゼ。

コレクシオ プリヴァダ 2020(グラン・リゼルバ)COL·LECCIÓ PRIVADA Gran Reserva Brut Vintage 2020(未輸入)
チャレッロ パレリャーダ、瓶内熟成40カ月
微細でクリーミーな泡、アーモンドや白い花のアロマ、バニラシフォンのふんわりと柔らかなニュアンス。

カバス・ヒル
https://cavashill.es/

日本での問い合わせ先:アグリ
https://www.ywc.co.jp/

これらのワイナリーでは、テイスティングルームやレストランを備えていたり、ガイドツアーを用意していたりと、ワインツーリズムも積極的に行っている。カバの産地ペネデスはバルセロナから1時間ほど。日帰りも可能だし、サン・サドゥルニ・ダノイアやヴィラフランカ・デル・ペネデスを拠点にじっくり回ってみるのもよい。カバの生まれる場所で、その泡の神秘に触れてみれば、もうカバを好きにならずにはいられない。

スペイン生まれのスパークリングワイン「カバ」について知っておきたい3つのこと / カバ発祥の地スペイン・カタルーニャを訪ねて【vol.1】

知れば絶対飲みたくなる! ひと味違うプレミアム・カバの実力 / カバ発祥の地スペイン・カタルーニャを訪ねて【vol.2】

取材・文/谷 宏美

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