特集「プレママの夏のすごし方」夏バテで栄養不足に?夏の感染症も気になる…猛暑の夏を健やかに乗り切る方法
夏だからこそ栄養には気をつけて
熱中症の症状はないのに、なんとなく食欲がなくなったり、疲れやすかったりするなら、夏バテの可能性も。吉村先生によると妊娠中の栄養が足りないことが原因で、からだの不調を訴えるプレママも少なくないとのことで、夏バテぎみの方は注意が必要かもしれません。
厚生労働省の指針によると(※1)、妊娠中に多く必要となる栄養の代表として、細胞の新陳代謝をうながす葉酸と赤ちゃんの骨や歯を作るカルシウム、赤ちゃんに栄養と酸素を届ける血液の成分になる鉄分が挙げられています。
緑黄色野菜に多く含まれる葉酸は、妊娠初期は推奨量240㎍に加え、400㎍をサプリメントなどで摂取することが望ましく、中・後期には480㎍が推奨されています。豆製品や魚、肉に多い鉄分も、妊娠初期は普段より2.5 mg、中・後期は8.5 mg多く摂取することが望ましいとのこと(※2)。食卓に乳製品が少ない日本人はもともとカルシウムが不足しているという指摘もあります。
吉村先生も「葉酸は必要量を食事で摂るのは難しい」として、サプリメントの上手な活用をおすすめしています。
「鉄はたんぱく質やビタミンCと一緒に摂ると吸収がよくなるなど、知識があれば改善できることもあります。また、日本人の女性はやせ志向が強くて、炭水化物などエネルギーも足りていません。普通体重(BMI18.5以上25.0未満)の方なら、出産時には妊娠前より10~13㎏、やせている方(BMI18.5未満)なら、12~15㎏ぐらい体重が増加しているのが理想(※1)なんです。栄養状態を改善するためには、医療機関などで食事指導を受けるのも有効ですよ」(吉村先生)
妊娠しても体重がそれほど増えなかったママから生まれる赤ちゃんは、低体重(2500g以下)になりやすいと言われています。小さく生まれた赤ちゃんは、子宮内の低栄養にさらされた代謝経路を持ったままで成長するために、成人してから生活習慣病になるというDOHaD(ドーハッド)仮説(※3)が、最近の医学界では主流になっています。国立成育医療研究センターの研究でこの仮説は、日本人においても当てはまり、低出生体重の赤ちゃんは心血管疾患や生活習慣病リスクが増加することが明らかになりました(※4)。
「夏だから、暑いから、食べられなくても仕方がない…というのではなく、少しずつ何回にも分けて食べる“分食”など、自分なりに工夫して十分な栄養を摂り、体重の維持、増加を心がけてください。それでも食べられなかったら医療機関で点滴を打ってもらうなりしてください。なにもしないで放置するのが一番よくないですよ。わが子の将来のために、健康なからだの基礎を作ってあげられるのは、ママだけなのですから」(吉村先生)
夏の感染症〈手足口病&プール熱〉は気にしなくていい?
夏になると、手足口病、プール熱などの感染症について、気になるプレママもいるでしょう。特に兄弟や姉妹がいる場合、上の子が外で感染症をもらってきて……ということも十分に考えられます。こうしたリスクについて吉村先生は、「そんなに心配する必要はない」と語ります。
「たしかに手足口病やプール熱など、大人がかかると高熱や発疹に悩まされることはあります。もし妊婦さんがかかったらつらいでしょう。しかし、夏特有の感染症には、明らかに母子感染するものは少ないのです。つまり、おなかの赤ちゃんに先天的な異常が起きるような深刻な病気ではない。おなかの赤ちゃん第一主義で考えれば、そこまで心配するような感染症ではありません。それにそうした感染症で高熱が出たら、医師に相談したうえで解熱剤を使っていただいても構いませんよ。発熱で脱水症状を起こさないように水分補給を心がける方が先決です」(吉村先生)
夏特有の感染症は特に気にする必要はないという吉村先生ですが、麻疹、水ぼうそう、風疹、リンゴ病など、通年の感染症の場合は母子感染の可能性があるので、感染の疑いがあった場合はできるだけ早く医療機関を受診した方がいいとのことです。
水分と栄養と睡眠を十分に摂りリラックスして毎日をすごして
最後に吉村先生は、プレママが夏を元気に乗り切るための心得について、こんなふうにアドバイスをしてくださいました。
「もちろん医者としてはこうした方がいいですよ、というお話はいたしますが、だからと言って『こうしなければいけないんだ!』『こうしないと健康な赤ちゃんが産めないんだ!』と思いつめないでくださいね。そういう極端な思考に陥るのはよくないです。たとえば妊娠したからといって、無農薬野菜でなければ口にしないなどと過剰に気にしても精神的に追い込まれるだけだと思います。そんな難しいことは考えなくていいし、“潔癖”になる必要もないんです。水分と栄養と睡眠を十分に摂って、リラックスして毎日を送ってもらえればいい。酷暑って言ったって、一日中、炎天下に放置されるわけではないんですからね。あと、これは大前提ですけど、妊娠前から一般的にバランスの良いとされる食事と規則正しい生活を心がけることが、おなかの赤ちゃんとプレママの健康につながっていくんです。そんな特別なことは必要ないのです」(吉村先生)
〈参考文献〉
(※1)妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針(厚生労働省)
(※2)日本人食事摂取基準2025(厚生労働省)
(※3)DOHaDとは(昭和大学)
(※4)日本人の出生体重と循環器疾患や生活習慣病有病率との関連(国立成育医療研究センター)
【監修】吉村泰典(よしむら・やすのり)慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医
1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。