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デンゼル・ワシントン「私の仕事は魂に基づく」『グラディエーターⅡ』来日インタビュー

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名優デンゼル・ワシントンが出演する最新作『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』のため来日を果たし、THE RIVERによる単独インタビュー取材に応じた。リドリー・スコット監督による歴史的大作の続編となる本作で、ワシントンはある企みを抱える謎多き男、マクリヌスを演じている。ワシントンはこの取材で、映画の裏話や演技への心構え、さらに『ブラックパンサー』『トレーニング デイ』といった作品についても語ってくれた。

©︎ THE RIVER 中谷直登

©︎ THE RIVER 中谷直登

インタビュー開始前に写真撮影を行うと、ワシントンは東京の景色を眺めながら一人歌を歌い、ご機嫌な様子。しかし、いざ一対一で向かい合っての取材が始まると、あのデンゼル・ワシントンである。筆者が質問文を述べる間、ソファに深く腰掛け、あの眼差しで、じっとこちらを見る。見る、というより彼の場合、見極める、というような視線だ。深い夜の森の、さらに一番深いところにある木々の隙間から、叡智のフクロウが私を発見した時のように。彼はあくまでも柔らかかったが、しかし何かを試されるような、緊張のインタビューとなった。

©︎ THE RIVER 中谷直登

©︎ THE RIVER 中谷直登『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』デンゼル・ワシントン 単独インタビュー

──初めまして。あなたは最も尊敬する俳優です。好きな俳優は誰かと聞かれたら、必ずデンゼル・ワシントンと答えます。

どうもありがとう。

──あなたの演技の好きなところは、演技に見えないような自然な仕草です。例えば映画『フライト』(2012)で、バーを訪れるシーン。あなたはグラスをペーパーナプキンの上に置き、それをバーカウンターの上でクルクル回します。些細な瞬間ですが、この人物は今、不安に駆られれているのだということが伝わります。こうしたアドリブ的な仕草は、本作『グラディエーターⅡ』でも行われていました。あなたが主人公ルシウスと初めて出会うシーンです。両手指をパタパタして、さて、この男は何者かと見極めようとする。マクリヌスの人間性が現れるさりげない仕草です。

君にスクープがある。その仕草は覚えていないんだ。

──それは驚きです。あなたがこうした仕草を、どのように取り入れるのかに関心があります。キャラクターの癖やディティールを、どう作っているのですか?

ちょうど今、君がやったのと同じですよ。「キャラクターの癖やディティールを……」と言いながら、君は今、手ぶりを加えたね。

人には、その人が基づく何かしらのものがあって、それを持ち込むものです。そして今、君が私についてどう感じているか、私が何をしたかを知ることになった。それが役者というものです。脚本、状況、その可能性について感じたこと全てを持ち込んで、自分が誰であるかということに取り込む。そして、それがどうなるかを見てみるのです。その時には、こんなふうにしたくなるかもしれない(指をパタパタする)。ただ、今言われたシーンについては本当にわからないです。

私の仕事は魂に基づいています。魂の導くところに行くだけ。「まずこうして、次にこうしよう」という考え方はしない。それは(撮影から)2年が経って、東京で会う誰かさんにとって意味があることだからね(笑)。

だから、私の考えはそこにありませんが、君が方程式の最後の部分を担うことになったわけだね。君が、この映画を映画たらしめたんだよ。誰にも観られない映画というのは、映画じゃないから。

──凄いです。ありがとうございます。

いやいや、そんなに深い話じゃないよ(笑)。でも、こちらこそありがとう。私は誠心誠意、栄光のうちに魂を注ごうと試みています。私は今作で、先祖たちの魂をもたらそうとしました。我が先祖たちは痛めつけられた。私は祈ったのです。“どうか今日、私と共にいてください”とね。逆に、悪魔を呼ぶようなダークサイドな日もありましたよ(笑)。

私は、誰のために仕事をするのか、どこに行くのか、なぜここにいるのかをわかっています。それは映画を作るためではない。映画作りは一番の目的ではない。そのために、ここにいるのではない。私のことを人に知らしめるような映画を作るために、神は私をこの世にお造りになったのではありませんからね。

© 2024 PARAMOUNT PICTURES.

© 2024 PARAMOUNT PICTURES.

──本作でのあなたの演技の重要な部分の一つは“人を見る”仕草でした。ギロリと睨む、その視線の動きをコントロールしています。これは『イコライザー』でも同様です。ロバート・マッコールは一瞬の視線で、誰がどこにいて、何が使えて、何が起こり得るかを見極めますね。

そう。大きな瞳でね。率直に言って、『イコライザー』の役が少し残っていたかもしれません。撮影が連続で行われたので、私の中に残っていたのかな。でも、両者ともにWatcherですね。それぞれ事情は異なるけれど、二人とも“見る”ことをする。

──本作ではリドリー・スコットが監督として続投を果たしました。彼のオファーならば何でも受けるおつもりでしたか?それとも、選択的になりますか?

“何でも”というのはわからないですね。何でもするというわけではない。何事も結果が伴うものです。もしも何か自分を妥協させなくてはいけないのなら、それは価値がないということです。

ただ、今回は何にだって挑戦したいつもりでしたよ。今作では、男性の手にキスをするシーンが使用されていましたが、実は彼の口にもキスをしたんです。そこはカットされました。きっとスタジオが「ちょっと待て、やりすぎじゃないか」と考えたんでしょう。「デンゼルにキスなんてさせたら、金を失ってしまう」ってね(笑)。あのキスは、死の接吻でした。相手の耳を掴んで、口付けをするんです。

© 2024 PARAMOUNT PICTURES.

© 2024 PARAMOUNT PICTURES.

──今回のリサーチの過程で、2017年公開の興味深いインタビュー動画を見つけました。あなたがソーシャル・メディアについて懸念していて、中毒性があり、特に若い世代にとっては良くないと伝えるものです。あなたは、一部の人々は“いいね”をもらうために何だってするようになってしまったと嘆かれていました。そして『グラディエーター』シリーズでは、“群衆の心を勝ち取れ(Win the crowd)”ということが一つのテーマになっています。現在ではこのためにSNSが使われることもあります。群衆の心を勝ち取るために、政治家もSNSを使用します。

私はSNSには加わりません。この業界にいながら、そっちには行かない。ソーシャル・メディアもやっていません。Instagramで探しても、私のアカウントはありません。私は群衆を追いません。

かなり若い頃に、二冊の本を読んだんです。『Future Shock』と『The Third Wave』という本で、情報社会の到来について語られたものです。ノンフィクション本というわけではないが、私は10代、20代の頃から、何が起こるか予測していました。だから、かなり早い段階から、自分はそこに加わらないようにしようと決めていました。もちろんインターネットくらいは使います。でも、それだけで十分。ツールですから、使えば良い。でも、今はもう後戻りはできません。

©︎ THE RIVER 中谷直登

©︎ THE RIVER 中谷直登

──策略家であるマクリヌスがもし現代に生きていたら、SNSを使っていたと思いますか?

そうだろうね。間違いない。かなり上手く使いこなすと思いますよ。

──『グラディエーター』1作目のラッセル・クロウとは、『アメリカン・ギャングスター』(2007)で共演されていますね。クロウはこの作品に参加できないことを恨めしく思っているそうです(笑)。

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──『グラディエーター』1作目のラッセル・クロウとは、『アメリカン・ギャングスター』(2007)で共演されていますね。クロウはこの作品に参加できないことを恨めしく思っているそうです(笑)。

彼(マキシマス)は死んだよね?

──死にましたね。

死んだら、出るのは難しいよな(笑)。

──本作について、彼とは何か話をしましたか?

いや、話していません。彼と交友関係があるわけではなく、『アメリカン・ギャングスター』以来会っていません。彼はどこに住んでいる?確か、オーストラリアに住んでいますね。

──例えば、彼にEメールを送るとか?

そら来た!これぞ情報化社会だろう?Eメールだって?君は彼のメールアドレスを知っているのかい?(笑)

──いえ、知りません(笑)

私も知らないよ。メールの打ち方もわからないくらいだ。

©︎ THE RIVER 中谷直登

©︎ THE RIVER 中谷直登

──少し前に、マーベル映画についてこんな話題がありました。という悪役を演じていたジョナサン・メジャースが解雇されてしまい、誰かが代わりにカーンを演じるかもしれない、デンゼル・ワシントンこそ最大の悪役に相応しいのではという期待です。あなたはまだスーパーヒーロー映画に出演したことがありませんが、実際のところ、マーベル・スタジオの誰かと話をしていますか?

ライアン・クーグラーとは話しています。

──えっ、『ブラックパンサー』ですか?

ライアンに聞いてみて……。まぁ、ライアンとは『ブラックパンサー』の話をしています。どんな役か、彼が何を書くのかまでは知りません。

──もしもチャドウィック・ボーズマンが存命だったら、『ブラックパンサー』で彼と共演したいですか?

もちろんだよ!彼がブラックパンサーなのであって、私がブラックパンサーになるわけではない。そんな脚本ではないことを願いますよ。オールド・パンサーみたいなね。もしかしたら彼の父親役をやれるかもしれないけれど、それはライアンに聞いてみてほしい。彼がどういう考えでいるのか、私は知りません。

──あなたはかつて、学生時代のチャドウィック・ボーズマンに資金援助をしたそうです。しかし彼と初めて会ったのは、『ブラックパンサー』のプレミアでのことだったそうですね。これは本当ですか?どうして彼と会う前から、彼に資金援助をしようと決めたのですか?

私は大した援助をしたわけではありません。フィリシア・ラシャド(俳優)が何人かを助けていて、私も手伝うことになったんです。そこで、私が手助けをすることになったのが、彼だったわけです。当時は彼のことを知りませんでしたし、いくら援助したのかも覚えていません。ただ、彼の学費を出しました。私が出したお金が彼に渡ることになったのですが、私はそのことも知りませんでした。それで彼に会って……、後のことは、君も知っているね。

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大きな喪失です。すごく、すごく、良い男だった。そして、すごく強かった。『マ・レイニーのブラックボトム』(2020)で一緒に仕事をしたのですが、その時、彼が病気だったとは全く知らなかった。ただ、何かがおかしいは思いました。妙に痩せていたんです。

ある日、彼のトレイラーに行くと、彼が疲弊しきっていた。私は周囲を見渡して、観察しました。何かが変だと。トレーラーもとても暑かった。何が起こっているか知りませんでした。病気のことを知ったのは、それよりも後のことです。

しかし彼は決して、決してそのことを口にしなかった。彼は強い。とても強い若者だった。誰にも、何も言わず、ただ自分の仕事をこなした。そして、家に帰った……。

──それで、彼とはもう……。

そう。それきり。それきりです。

──……。

……。……おいおい、悲しくなってしまったね!(笑)

──すみません、つい……(笑)。質問を変えますね。2年前にアントワーン・フークア(『イコライザー』『トレーニング デイ』監督)とんです。その時フークアは、『トレーニング デイ』の前日譚をやるつもりだと話していました。

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そうなのか?

──はい。脚本を書いているところということで、プロデューサーはロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ。でも、それからなかなか進捗がないんですね。

それは私も知らないね。

──『トレーニング デイ』前日譚についてご関心は?

ないです。知らなかったくらいだし。

──もしも息子さんのジョン=デイヴィッドが、あなたのキャラクターの若いバージョンを演じるとしたら?

彼もやりたがらないと思いますね。彼には彼のキャリアがあり、人生があり、自分の関心がある。彼の兄弟も映画監督やっていて、みんなそれぞれ違った方向性で仕事をしています。やらないんじゃないかな。もしも私が彼なら、やりたくないでしょう。ところで、アントワーン・フークアとは来年9月、『Hannibal(原題)』を撮影しますよ。ローマと闘った「ハンニバルの象つかい」の話です。

──それは楽しみです。直近の次回作は、プロデュースを手がけた『Piano Lesson(原題)』ですね。

そう。『Piano Lesson』は、(本国では)『グラディエーターⅡ』と同日リリースになるんです。私の家族が参加している作品で、父親としてとても誇らしく思っています。

──ところで、この週末に『天使の贈りもの』を観ていたんです。あなたがホイットニー・ヒューストンと共演した、1996年のクリスマス・コメディです。この季節に観ると素敵な作品です。

ありがとう。

──そこで思ったのですが、あなたはコメディ作品にはあまり出演しませんね。いつも素敵なユーモアのセンスを見せてくれているのにです。

コメディのやり方がわからないんですよ。私の初めての映画はコメディでした。でも、私は面白くなかった。笑いについての心得がないんです。

お笑いにはメカニズムがある。私は頭の回転が速く、即座に対応ができる。瞬間的なアドリブもできる。ただ、ジョークを組み立てて話したり、笑いを取ったりするのは、どうやるのかわからないのです。

笑いには素晴らしい監督が必要です。リドリー・スコットはわかっている方で、素材をカットして、ペーストして、面白く見せることができる方です。私がこんな顔をしていても(しかめ面で何かを見つめる表情)、彼なら、カットして、カットして、カットして……、それで成立させてくれる。『グラディエーターⅡ』でも、ユーモアのある軽い印象の場面は、彼は全て活用していました。私も完成版を観て驚きましたよ。まだ観客と一緒に鑑賞していないから、皆さんがどう反応するかが楽しみです。

──お時間になりました。本当にありがとうございました。

ありがとうブラザー。神のご加護を。

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』は2024年11月15日より日本公開。

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