子どもに急増中「マイコプラズマ肺炎」に抗生物質がきかない? 過去最多の感染拡大 親が知っておくべきことは何?〔医師が解説〕
子どもに急増中のマイコプラズマ肺炎の中には、抗生物質が効かない“マクロライド耐性”も増えているという。どう対処するべきか、小児科専門医の岡本光宏先生が解説。1回目/全2回
「手足口病」も急増中! 原因・症状・対処法を小児科医が解説2024年秋、過去最高の流行となっているマイコプラズマ肺炎。学童期以上の子ども・若者がかかりやすい感染症として知られています。熱と咳が長引くため、看病するうちに不安になる親御さんも多いのではないでしょうか。典型的な症状は? 熱はどれくらい続く? さらに最近聞いた抗生物質がきかないという話など、マイコプラズマ肺炎に関する心配事について、「おかもと小児科・アレルギー科」(兵庫県三田市)院長の小児科医、岡本光宏先生に解説してもらいました。
●PROFILE 岡本光宏(おかもと・みつひろ)
1982年生まれ。日本小児科学会小児科専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医。「おかもと小児科・アレルギー科」院長。新生児から思春期まで幅広く診察。3児の父。
大流行の2016年を上回る感染者増加数!!
──国立感染症研究所のデータでは、マイコプラズマ肺炎(以下:マイコプラズマ)の患者数が過去最多を記録しています(2024年10月現在)。現場ではいつごろから増えてきたと感じますか。検査キットが不足しているという情報もありますが、現場ではどうですか。
現在も患者数は上昇中です。2024年の発生数は2016年の流行期を超える勢いです。当クリニックでも、2024年5月ごろからマイコプラズマ患者が増え始め、7月ごろから「かなり多い」と実感するようになりました。8月にはクリニックでも検査キットがなくなりました。
検査が必要な症例だけを選んで検査するようにしたことで、検査キットの不足はある程度解消しつつあります。しかし、感染者数が高止まりしている現状ですから、今後も予断を許さない状況です。
──検査が必要な症例とは?
中には「咳が出たからマイコプラズマかどうか調べてください」と要望する親御さんもいますが、本来はそうやって使用するものではありません。なかなか熱が下がらないから風邪じゃないかも? と疑った場合、検査キットの出番となります。
ただ、この検査キットは感度が低いです。インフルエンザの検査のように発熱後24時間経てばほぼ正しい結果が出る、というものではありません。つまり、間違った検査結果が出ることもある、ということを前提としていただきたいです。
場合によっては検査しなくても、陰性が出たとしても、症状や状況によって“みなし陽性”とし、「マイコプラズマ肺炎」と診断することもあります。
──どのような症状が出るのでしょうか。
赤ちゃんやお年寄りはあまり感染しない病気です。感染していたとしても重症化しづらい。菌自体はそれほど悪さをしない非常に弱毒の菌です。
菌自体が暴れるというより、免疫反応が悪さをするタイプなので、免疫が弱い人にはあまり悪さをしません。だから免疫機能がしっかりしている年齢、つまり6歳以上から若者世代に強い免疫反応が出がちです。飛まつや接触で感染します。
一番の特徴はだらだら続く熱と咳、倦怠感です。風邪によく似た症状から始まります。熱は高熱になることもあり、通常は5日間程度で下がりますが、免疫機能が極端に暴れた場合は2週間程度続くこともあります。夜間に熱が上がりやすいです。
──受診のタイミングを教えてください。
いきなり熱が出たからといって、すぐに小児科にかかる必要はありません。風邪なら2~3日で熱が下がります。3~4日目になっても熱が下がらない場合は、「風邪じゃないかも?」と疑って受診したほうがよいでしょう。
睡眠をさまたげるほどの強い咳が出る場合も受診のタイミングです。乾いた咳から始まり、だんだん痰(タン)が絡んできます。熱は下がってもしつこい咳が2~3週間続くことも特徴の一つです。喉の痛みや鼻水の症状を訴える人はそれほど多くありません。
症状の程度は人によって軽いものから重いものまでさまざまで、自然治癒する人、無症状の人もいます。必ず肺炎になるわけではありません。
──受診時に医師に伝えるとよいことはありますか。
受診の際、ぜひ周囲の流行状況を医師に伝えてください。インフルエンザ、コロナとの鑑別に、周囲の流行情報は大いに役立ちます。潜伏期間は約2週間ですので、ここ数日だけの接触歴ではなく、2~3週間前から思い出してください。
インフルエンザやコロナは潜伏期間が約2日間と短いので、周囲の状況は分かりやすいですが、マイコプラズマは知らず知らずのうちに感染していることが多いです。「軽い風邪だと思っていた」「肺炎と知らずに出歩いていた」ということも多いので“歩く肺炎”とも呼ばれています。
──マイコプラズマ肺炎には、どのような治療がなされるのですか。
通常の風邪はウイルスに感染するので抗菌薬(=抗生物質)は効きませんが、マイコプラズマは「肺炎マイコプラズマ」という細菌に感染する呼吸器の感染症なので、抗菌薬が有効です。
子どもに使える抗菌薬はいくつか種類がありますが、まずはジスロマックやクラリスといった「マクロライド系抗菌薬」(以下マクロライド系)を選択するのが一般的です。
ですが、今の流行には「マクロライド系」が効かない「マクロライド耐性」のマイコプラズマも含まれています。マクロライド耐性かどうかを疑うポイントは「マクロライド投与後およそ48時間で解熱しない場合」です。
──最近、その「マクロライド耐性」という言葉をよく聞くようになりました。子どもがよく処方されるジスロマックやクラリスといったマクロライド系抗菌薬が効かないケースもあるということでしょうか。
現在、日本のマイコプラズマのマクロライド系耐性率は約50%です。こう聞くと「マクロライド系以外の抗菌薬を処方してほしい」と思うかもしれません。しかし、こうした状況をふまえても、マイコプラズマの第一選択薬はマクロライド系です。
マクロライド系投与から48時間経過しても解熱しない場合に、マクロライド耐性菌を考えて別の抗菌薬に変更します。この順序を守ることが大切です。ですから、ジスロマックなどのマクロライド系を飲み始めて2~3日で熱が下がらなければ、再度受診するとよいでしょう。
なぜこの順序が大事かというと、マクロライド耐性マイコプラズマを過度に恐れ、マクロライド以外の抗菌薬(たとえばニューキノロン系など)を過度に使えば、耐性菌の問題が悪化する危険性があるからです。
耐性菌とは、抗菌薬への抵抗力が高くなって薬への耐性を持つ細菌のことです。抗菌薬をみだりに使い続けることで起こります。マクロライド以外の抗菌薬を最初から使うことは、抗菌薬の不適切な使用であり、抗菌薬の乱用といえます。抗菌薬の乱用は、耐性菌の増加につながります。
【1】通常の風邪に抗菌薬は無効であること
【2】抗菌薬は「ここぞ」というときに使うからこそ効果が発揮されること
【3】抗菌薬を乱用すると将来抗菌薬が効かない世界になってしまうこと
この3点を保護者がしっかり理解しておくことが大事です。抗菌薬は「とっておきの薬」と考えてください。
「マイコプラズマ肺炎が心配だからとりあえず抗菌薬を処方してほしい」と考えるのではなく、マイコプラズマ肺炎の可能性はどれほどなのか、抗菌薬が必要なのかを医師とよく相談して決めましょう。
また、抗菌薬の種類についても「マクロライド耐性マイコプラズマが怖いのでマクロライド系以外の薬を処方してほしい」と考えるのではなく、ガイドラインにしたがった正しい順番で抗菌薬の種類を決めましょう。
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次回は、マイコプラズマ感染症で高熱が出たときの対処法、解熱剤のタイミングなどについて、引き続き岡本先生に解説していただきます。
取材・文/大楽眞衣子