基本的には、「二者択一の決定を迫る人」を信用してはいけない。
「やるの?やらないの?どっち?」
という質問をする人は、基本的には頭が悪いか、信用してはならない人物だと、私は教わった。
というのも、ゲームと違って、現実世界は「選択肢」が無数にあるからだ。
例えば
「会社を辞めるか、辞めないか」
という選択肢で悩む人は多いが、実際には、無数のグラデーションとして、次のような選択肢が存在している。
・部署異動で環境を変える
・グループ会社/関連会社へ出向する
・週休三日・時短など勤務形態をカスタマイズする
・副業を正式に申請して“複線化”する
・業務委託や嘱託に切り替える
・長期休職・サバティカルを申請する
・社内ベンチャー制度に応募する
・社内外のコミュニティでポジションチェンジを模索する
実際に詳しく考察していくと、「その間」というよりも、「その枠組を超えた選択肢」も含めて、多様な道が存在している。
繰り返しになるが、現実はゲームと違う。
結婚しますか?(Y/N)
という、シンプルな選択肢は存在しない。
だから、「やるの?やらないの?どっち?」と聞く人は、グラデーションが見えていない、つまり頭が悪いか、質問の受け手の選択肢を意図的に狭めようとしている。
つまり、相手をコントロールしようとする、悪いやつだ。
信用してはならない。
逆に、視野を広げてくれる親類、知人、友人は歓迎すべきものだ。
行き詰っている相手に対して、
「もっといろいろな選択肢があると思うよ」
「こんなやり方はどうかな」
「一回引いて考えたらよいかも」
こんなことを言ってくれるのが、「親身」というものだろう。
*
しかし、こうした状況をわかっていても、自分のこととなると急に、「二者択一」でしか思考できなくなるケースがある。
例えば、
「起業するか、会社員のままでいるか」
「投資をするか、しないか」
「地方移住するか、都市に残るか」
「住宅を買うか、賃貸に住むか」
「大学に進学するか、就職するか」
といった、重要な意思決定のときにすら、往々にして人は二者択一で考えがちである。
しかし、覚えておいていただきたいのは、視野は常に、広く保ったほうが良いという事実だ。
たとえば「プロスペクト理論」でノーベル経済学賞を受賞した、ダニエル・カーネマンは、著書の中で
「広いフレームで考えたほうが、明らかに良い決定につながる」
と述べている。
たとえば、五つの単純な選択(二者択一)を同時に行うと考えてみよう。広いフレーミングでは、三二通りある選択肢のうちの一つの問題を考えることになる。狭いフレーミングでは、五つの選択を順次行うことになる。この場合、一連の五つの選択は、広いフレームにおける三十二の選択の一つになるはずだ。これで最適な決定が下せるだろうか。もちろんその可能性は皆無ではないが、高いとは言い難い。
ではなぜ、私達は「二者択一」に陥ってしまいがちなのか。
これについても、カーネマンは次のように述べている。
そもそも私たちは「見たものがすべて」と考えやすく、頭を使うことを面倒くさがる傾向がある。このため、問題が持ち上がるたびに場当たり的に決定を下すというやり方をしがちだ。たとえ問題をまとめて総合的に判断するように指示されていたとしても、である。
要は「考えるのが面倒くさい」から、(無意識に)2択に絞ってしまう、というだけなのだ。
もちろん、立ち食いそば屋に入ってまで、「そばを食べるか、うどんを食べるか」ではなく、「いや、本来カレーか、ラーメンか、イタリアンも視野に入れて議論すべきだった」などと考えていたら、何もできなくなる。
些細な問題まで、フレームを広げる必要はない。
しかし、人生の重要局面では、「立ち止まって、ゆっくりフレームを広げて考えること」が絶対に必要な場面がある。
自分で考えることもせず、適当に周囲に流されて
「大学行く?(Y/N)」
程度のフレームで済ませていたとしたら、それは人生を棒に振っているのと同じだ。
そして、悪い人が近づいてきて、
お金ほしいよね、
「退職金で投資やる?(Y/N)」とか
「仮想通貨やる?(Y/N)」とか
「マルチやる?(Y/N)」とか、
こんな選択を迫ってきたとき、二者択一しかしてこなかった人は、騙されてしまうのだ。
それだけが選択肢ではないのに。
もちろん、騙すほうが悪い。
騙された方は、悪いのではなく、愚かだというべきで、視野狭窄の代償は大きい。
***
【著者プロフィール】
安達裕哉
生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」82万部(https://amzn.to/49Tivyi)|
◯Twitter:安達裕哉
◯Facebook:安達裕哉
◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書)
Photo:Jon Tyson