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「カラクテール」の新章:イタリアン × フレンチの愛されレストラン、7年目の星!

料理王国

「カラクテール」の新章:イタリアン × フレンチの愛されレストラン、7年目の星!

「西ロンドンにカラクテールあり」と食通ロンドナーの間で賞賛されてきた地元志向の伊仏レストランが、今年になって突然ミシュランの星に輝いた。創業7年。なぜ今ミシュランガイドに注目されるのか、その理由をひもとく。

どの都市でもそうだと思うが、時代に応じて少なからずエリアの興亡というのがある。ロンドンでは1990年代までトレンドは西ロンドンにあったが、次第に閑静な住宅地として安定していき、21世紀になるとそのバトンは東ロンドンへ渡った。しかし時代はめぐり、トレンドのバトンがふたたび今、西ロンドンへと戻りつつある。特に飲食店に関しては、西がとことん熱い。

その中心的エリアであるノッティング・ヒル界隈は特に強豪が多いのだが、2018年秋に同エリアにオープンしたモダンフレンチ × イタリアンの「Caractère カラクテール」が辿った旅路は、目を見張るものがある。まず共同オーナーシェフ夫妻の経歴が、ともにすごいのだ。

かたや英国レストラン業界きっての名門シェフ一族の3代目、Emily Roux エミリー・ルーさん。彼女は昨年惜しまれつつ勇退閉業を選択した老舗レストラン「Le Gavroche ル・ガヴローシュ」(英国で最初の三つ星レストランでもあった)を営んできた父のミシェル・ルー・ジュニアさんをはじめ、ルー一族のDNAを受け継ぐサラブレッドであり、ご本人もトップシェフ。そしてイタリア生まれで14歳から業界に入り独自の道をトップ・レストランで切り拓いてきた元ル・ガヴローシュのヘッドシェフDiego Ferrari ディエゴ・フェラーリさん。この二人が最初に出会ったのは、モナコにあるアラン・デュカスさんの三つ星レストラン「Le Louis XV ル・ルイ・キャーンズ」の厨房だった。

温かみにあふれた非常に落ち着ける内装。

3コース・ランチの最初にサーブされるカナッペは3種。こちらはワサビ風味スモークサーモン、クリスピー・リーク、鱒イクラ。タラモサラタのタルトレット。

カナッペのもう1品は、魚の骨の形に成形した鰹節入りクラッカー、燻製ウナギのムース。そして芸術品のような田舎パン。

お二人はその後ともにパリに移り住み、3年に渡って名だたる星付きの厨房で経験を積み、エミリーさんの故郷ロンドンへ。ディエゴさんはル・ガヴローシュのヘッドシェフに就任。そんな充実の中でもフランス時代から温めていた「自分たちのプロジェクトを立ち上げる」という夢を忘れず、ディエゴさんの故郷イタリアの食文化と、夫妻がフランスで吸収した全てを融合させ、西ロンドンの今の場所にパブを改装したカジュアルで居心地のいいレストラン「カラクテール」を立ち上げたのだ。

このカラクテールが、創業7年目の今年、ミシュランの星を初めて獲得した。創業時のカラクテールの素晴らしさを知る身としては本当に嬉しいことであるが、当時すでにミシュラン級のテクニックと味わいを誇っていたと確信している。

創業直後に訪問した私は、カラクテールをこうレビューしている。「真の意味で人を満足させる料理を追求したレストラン」だと。当時から味においてもストライクゾーンのど真ん中にバシンと決めた美しい料理をサーブされていた。もともと三つ星や二つ星で働いていたお二人なので、繊細な料理を作るのはたやすいことだろう。しかしカラクテールではあえて地域に根ざした「ネイバーフッド・レストラン」を目指し、人々に愛される気さくな優良店として共に成長してきた歴史がある。

星を取った後に改めて食事をしてみて感じたのは、これまで通り伊仏折衷の個性あふれる料理の融合は変わらぬまま、より細やかで、世界レベルのテクニックを惜しむことなく投入する形にシフトしていることだ。いつ頃に路線を変更されたのかは知らないのだが、もともと持っていたスキルが反映された結果であり、自然な流れの中での受賞なのだろう。つまり、能ある鷹がいよいよ本来の姿でファイン・キュイジーヌに参入してきたということだ。

創業当時からメニューにあるシグニチャーの一つ、セロリアックのカチョ・エ・ぺぺ。イタリア料理のルーツを感じる一品。

スコットランド・オークニー産のホタテのローストはブール・ノワゼットとパセリ・オイルで。パリパリの白昆布とワイルド・リークをトッピング。

ホタテのタルタルを盛り付けた海苔のタルトレット。ブラックトリュフのペスト・ソースで風味を添えて。

仏語「カラクテール」は英語の「キャラクター」。メニューはそれぞれ味の個性によって「好奇心」「デリケート」「濃厚」など分かりやすくセクション分けされ、コースを選べるようになっている。

3コースのランチ・メニューは心躍るようなカナッペから始まり、海と陸が奏でる最高のメドレーを順次堪能していく。嬉しかったのは創業当時にいただいたシグニチャー「セロリアックのカチョ・エ・ぺぺ」がほぼオリジナルのまま前菜メニューに残っていたこと。これはローマとサルディニア産のペコリーノで作る濃厚なソースを、平打ち麺状のセロリアックに絡めた変化形カチョ・エ・ぺぺで、熟成バルサミコ酢をテーブルにてスポイト・サーブし、アクセントとする。クセの少ない根菜だからこそ完成させられた、イタリアの心意気を感じる逸品だ。

一つの素材を多面的に味わってもらうため、メインの皿とは別にタルトレットを添える趣向も面白かった。例えばホタテのローストにはホタテのタルタルを、フランス風「鶏胸肉のアルビュフェラ」には、ブレイズした鶏の足、アミガサダケ、パリパリの鶏皮のコンビネーションを楽しむタルトレットを。いずれも星がもたらされた理由を雄弁に物語る、エレガントなアプローチである。

デザートのシグニチャーは、登場すると思わず歓声をあげてしまうフルーツのコンポートと真っ白なヴァニラ・ガナッシュのマリアージュ(冒頭写真)。今回のテーマは季節のルバーブ。ヨークシャー産ルバーブのコンポートを綿帽子のようなガナッシュで優しく包み、ルバーブのジェル、チャービルを飾り、ルバーブのシロップが添えられている。あまりに麗しいので正直ナイフを入れるのがためらわれたが、中身も同じくうっとりとする正統派フランス菓子らしい仕上がり。別のフルーツでもぜひ試してみたい。

メインの一皿。蒸したコーンウォール産タラ、BBQムール貝、イタリア産ホワイトアスパラガス、そら豆、ブールブラン・ソース、タラゴン・オイル、イカ墨、柚子胡椒。とてもエレガントな一品。

全ての部位を使った鶏肉の「アルビュフェラ」。ストックで柔らかくポーチされた胸肉にブラック・ガーリック風味のアルビュフェラ・ソース。アミガサダケの中にはホワイト・ガーリック風味のつくね。今回いただいた中でも、飛び抜けて洗練されたメインの一皿だった。

右はアーモンドのフランジパン・タルトレット、アーモンド・プラリネ、洋梨のポーチ。上品さが際立つ。左がルバーブとホワイト・ガナッシュ。底にスポンジが敷かれている。

エミリーさん(左©lateef.photography)とキッチンからから出てきてくださったディエゴさん。2022年にはル・ガヴローシュの元ヘッドシェフ、Gaetano Farucci ガエターノ・ファルッチさんをヘッドシェフに迎えている。

カラクテールは味、雰囲気、サービス、価格の全てにおいて完璧なバランスを見せる比類のないレストランだ。唯一の欠点が「完璧すぎること」と言ったら、バチが当たるかもしれないが。

カラクテールは今、間違いなくロンドンのトップレストランの一つである。エミリーさんのルー一族が57年に渡って「ル・ガヴローシュ」で築いたと同じように、ミシュラン元年の今年、ただその新たな歴史が始まったというにすぎない。

Caractère
https://www.caractererestaurant.com

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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