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雇用調整助成金はコロナ禍の雇用を守れたのか? JILPTが調査で示した短期効果と長期リスク

月刊総務オンライン

雇用調整助成金はコロナ禍の雇用を守れたのか? JILPTが調査で示した短期効果と長期リスク

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)は5月12日、新型コロナウイルス感染症に伴う雇用調整助成金(雇調金)の特例措置の効果検証結果(速報)を公表した。

2020年4月から2025年3月までの累計支給決定件数は630万7000件、累計支給決定額は5兆9939億円に達した。支給件数は緊急事態宣言期間中に急増し、その後は減少傾向に転じた。分析では、制度が一定の雇用維持効果を果たした一方で、長期受給による課題も浮かび上がった。

雇調金の支給決定件数・金額の推移(厚生労働省作成資料)(※画像クリックで拡大)

「雇調金」とは?  コロナ期に行われた特例措置を整理

「雇用調整助成金」は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、休業、教育訓練、または出向によって雇用維持をはかった場合に、労働者に支払う休業手当などの一部を助成する制度である。雇用保険法に基づき、雇用保険二事業(事業主負担)によって実施されている。

新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、2020年4月から2023年3月まで(2022年12月以降は経過措置)にわたって、この制度には大幅な特例措置が講じられた。主な特例内容は以下の通り。

助成率の引き上げ

原則として中小企業は2/3、大企業は1/2であったが、特例では中小企業4/5(解雇を行わない場合は10/10)、大企業も2/3(同様に3/4)とされた。さらに、緊急事態宣言などの対応としては、大企業にも中小企業と同様の最大10/10の助成が適用された。

日額上限の引き上げ

2020年7月まで8330円だった日額上限は、特例により1万5000円まで引き上げられ、その後は段階的に引き下げられた。

非正規雇用者向けの支援

雇用保険被保険者でない労働者については、「緊急雇用安定助成金」によってカバーされ、非正規雇用労働者の雇用維持がはかられた。

支給額は過去最大、幅広い業種で活用 3年続いた特例措置

今回の雇調金特例は、過去の経済危機と比較しても支給規模が大きく、利用範囲も広範に及んだ。2020年度には雇用保険適用事業所のうち約18%が受給し、2021年度は約14%、2022年度でも約10%と、高水準で推移した。これはリーマン・ショック時(2010年)の約5%を大きく上回る水準である。

特に中小企業を中心に、「宿泊業、飲食サービス業」では約4割、「生活関連サービス業、娯楽業」「製造業」「運輸業、郵便業」でも約3割が活用した。リーマン期と異なり、コロナ期はより広範な業種が影響を受け、受給事業所と非受給事業所間の雇用成長率に大きな差は見られなかった。

雇調金が失業を防いだが、効果は短期的にとどまる

JILPTの分析によれば、雇調金はコロナ初期の厳しい労働市場環境において、退出時期を一時的に先延ばしする効果を発揮し、大量の失業の発生を回避する役割を果たしたと評価できるという。影響の大きかった業種では、受給事業所の生存確率が約85~90%に達し、制度の有効性が確認された。

一方で、こうした雇用維持効果は主に短期的であり、長期にわたる受給によって効果が減退する傾向も明らかになっている。具体的には、雇調金の受給は廃業確率の低下や雇用量の維持に一定の効果を示すが、その効果は一時的で、支給延日数が多いなど手厚い支援を受けた事業所であっても、受給が長期に及んだ場合には雇用量の減少を食い止めることは困難であった。

受給事業所では、雇調金の受給終了直後に大きな雇用調整が発生し、その後の雇用回復は限定的であった。純雇用成長率は減少傾向にあり、非受給事業所と比較して採用率が低く、離職率が高い傾向が見られた。こうした特徴は、リーマン・ショック期よりも明確に表れている。

長期休業が従業員のモチベーション低下に 教育訓練も効果は限定的

調査では、雇調金の長期受給が従業員のモチベーションや生産性に悪影響を与える可能性も浮かび上がった。JILPTが実施したアンケートによると、「従業員のモチベーション・働きがいの低下」「生産性の低下」を課題とした事業所は、非受給事業所に比べて受給事業所で高い割合を占め、特に長期休業を経験した企業でその傾向が顕著だった。

また、離職者の再就職については、受給事業所からの離職者の方が再就職までに時間を要する傾向が確認された。離職者の再就職確率においても、2020年に離職した場合の数値は特に低かった。

教育訓練については、コロナ期の早い段階で実施された場合に限り、廃業リスクを低下させる可能性があるが、その効果は持続せず、雇用維持には限定的であることが明らかとなった。

制度の再設計には「期間制限」の視点が必要

JILPTによる今回の分析からは、雇調金が経済ショック時に雇用を守る有効な手段であることが再確認された。ただし、受給が長期に及ぶことでその効果が低下し、企業や労働者の双方に負の影響を及ぼす可能性があることも示された。

JILPTは、今後の制度設計にあたって、特例期間をあらかじめ一定期間に限定することや、事業所ごとの受給期間に上限を設けることなど、長期利用を前提としない仕組みの導入が求められると指摘している。

今回の検証は、厚生労働省の要請により、同省から提供された行政記録情報(業務データ)とJILPTが実施したアンケート調査などを用いて実施された。詳細な報告書は2025年6月頃に公表予定。速報内容の詳細は、JILPTの公式ウェブサイトで確認できる。

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