自閉症長男に通常学級は難しい?悩ましい就学問題。小学校見学で決め手になったポイントは
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
通常学級についていくのは難しそう……自閉症長男の年長の頃
幼稚園の年長当時、超絶マイペースだったわが家の長男あーくん。就学先について検討を始めた時から、通常学級は難しそうだという気がしており、特別支援学級にしようとぼんやりと当たりをつけていました。 というのも、通っていた幼稚園に「子どもの発達に悩める親の会」的なものがあり、そこでいろいろ聞いていたのと、上のお子さんが特別支援学級に行っている……という親御さんもちらほらいたので、(特別支援学級良さそうだなあ)という下地があったんですよね。
しかしながら何より本人の意向が1番大事……。ということであーに聞いてみました。ズバリ、「30人クラスと8人クラスどっちがいい?」視覚優位のあーにも分かりやすいよう絵に描いて、それぞれのメリット・デメリットもあーに伝わりやすいよう言葉を砕いて説明(30人クラスはたくさんのお友達と勉強できるよ。8人クラスは先生が丁寧に指導してくれるよ。くらいのざっくり感で)。けれど、実感が湧いてないせいかさほど反応もなく……。ならば見学だあー!ということであらかじめ電話で予約し、あーと弟のいーを伴い、いざ小学校へ見学に向かいました。
小学校の見学へ。初めて見た特別支援学級は……
小学校に着くと、先生が待っていて学校の中を案内してくださいました。よく考えると私自身も親として足を踏み入れるの、実は初めてだ……! とドキドキしながら校内を進みます。
まず見学したのは通常学級。私が小学校に通っていた頃とおおよそ変わらない、記憶にある小学校のイメージ通りのクラスでした。30人くらいの同い年の生徒が小さな教室にぎゅうぎゅう詰めで、にぎやかで、キラキラしてて……。この場でさまざまな思い出や成長がつくられていくんだなあ……と自身の幼少期を思い出すと同時に、「おそらくここであーは過ごさないんだな」と少しセンチメンタルな気持ちに。あーはといえば……特に興味はない様子(笑)。授業ではなく、弟のいーと一緒に教室にある水槽の亀を見ていました。
その後は特別支援学級の見学へ。特別支援学級は通常学級の半分ほどの広さの教室で、学年混合で6人くらいの生徒が学習していました。驚いたのは、一人ひとりの机がパーティションで仕切られていたことです。 先生いわく、「雑音や周りの子の様子が気になって学習がすすみづらいお子さんもいるので」とのこと。教室には生徒の描いたイラストが掲示してあったり、通常学級にはない本やおもちゃが置いてあったり、休憩できるように大きなソファが置いてあったり、教室の隅には高い仕切りが置いてあってクールダウンスペースになっていたり……。隅々まで個別の配慮が行き届いた環境づくりを実感しました。
あーはと言えば、見学したからといって特段何かを感じた……ようにはやはり見えず。これはやはり親が決めなければならない……!そう考えると答えはすぐに出ました。
特別支援学級しかない!学校見学で決意が固まる
あーにとって、特別支援学級が過ごしやすい環境であることも体感できたし、何より常日頃からしっかり先生と連携できて、何かあった時に親の声が届きやすいことが必要不可欠……そう考えた私は、見学してすぐに「特別支援学級しかない!」と心に決め、特別支援学級へ就学の希望を出すことにしたのでした。
あれから6年間……実にさまざまなことがありましたが、この決断を誤りだと感じたことは一度もありません。でもね、就学で思い悩む親御さんに伝えたい。ここまでいろいろ悩んだだろうし、きっとこれからも悩むことはたくさんあると思うけれど、あなたが大切なお子さんのことを心から考えて下した決断に間違いなんてありません。決断した自分自身に、どうか誇りを持ってほしいと思います。
執筆/よいこ
(監修:室伏先生より)
よいこさん、学校見学のご様子や特別支援学級への進学の決断、そしてよいこさんご自身の心境について共有してくださり、ありがとうございました。
進学する学級を決めるにあたり必要な情報の一つに、発達指数(DQ)や知能指数(IQ)があります。IQは100が平均であり、70〜84は境界知能、70未満は知的障害(知的発達症)と定義されることが多いです。たとえばIQ70ですと、実年齢が6歳の時、知的な年齢が4歳2か月と計算されます(ASD/自閉スペクトラム症やADHD/注意欠如多動症などの特性がある場合には、知的な年齢から判断すると難しいと思われることが得意だったり、できると予想されることが困難だったりということもあります)。70未満の場合には、行動面含めて通常学級での生活は困難と判断されることが多いです。しかし、境界知能またはIQが平均的の場合には、通常学級と特別支援学級のどちらが望ましいかは、生活や学習面のサポートがどの程度必要か、集団行動が可能であるか、周囲への影響力の強い困りごと(教室からの脱走や他害など)、ご本人の情緒面(自己肯定感低下や強い不安があるか)、ご本人の意向なども含めて総合的に判断しなければならず、とても難しいこともあります。
また、特別支援学級は、知的障害(知的発達症)のお子さまを適応とする学級と、知的障害(知的発達症)を伴わない神経発達症(ASD/自閉スペクトラム症やADHD/注意欠如多動症)のお子さまを適応とする学級が分かれている地域もあります。学校によって学級の雰囲気やサポートは異なりますので、見学もとても大切ですし、地域のことやお子さまをよく知っている方(通っている医療機関や療育機関のスタッフ、園の先生方)などに相談してみるのもよいでしょう。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。