【首里城再建】「平成と令和では、やり方が全然違います」扁額(へんがく)はより立体的に
2026年秋の完成を目指し、着々と工事が進む首里城正殿。 今回の再建では、琉球王朝時代の首里城を忠実に再現しようと、さまざまな知見が取り入れられている。そのため前回の仕様から変更される箇所が数多くある。 まず、首里城を象徴する「赤」も、より深い色味に変わる。 平成の復元では、市販の弁柄(べんがら)が使用されていたが、今回は尚家の古文書の記述に基づき、本島北部で採取した天然の顔料「久志間切弁柄(くしまぎりべんがら)」が用いられ、2025年1月、上塗りが始まった。
また、「向拝奥(こうおくはい)の彫刻物」も、フランス海軍の古写真を基に、新たに牡丹(ぼたん)と獅子が加えられ、その左右にある獅子も1.3倍大きくなる。
中でも、今回の再建で大きく様変わりするのが、首里城正殿に掲げられる扁額(へんがく)である。 前回は地板が朱色だったが、今回は「黄色」に変更され、額縁に施された龍も、金箔から木彫刻に代わる。
それだけではなく「中山世土(ちゅうざんせいど)」という文字も、より立体的になる。 どのような仕上がりになるのか、再建に携わる職人がその思いを語る。 漆職人 諸見由則さん 「特に、この色漆(いろうるし)は仕上げが難しいですね」
そう語るのは漆職人の諸見由則(もろみ よしのり)さん。
諸見さんが慎重に黄色の漆を塗っているのは、扁額(へんがく)の「題字」と呼ばれる文字の部分。 この題字の彫刻は、平成と令和の復元で大きく異なる。 漆職人 諸見由則さん 「見えるのは、これがいいと思います。字がはっきり、くっきり出ています」
1992年の首里城復元で扁額を制作
これは、漆芸家の前田孝允(こういん)さんが1992年の首里城復元で、扁額を制作している様子だ。
前回は、地板に直接題字を彫る「肉合彫(ししあいぼり)」という手法がとられていた。
ただ今回の再建では肉合彫ではなく、地板に切り取った文字を貼り付ける「浮彫」が採用された。
板の断面で比較すると、違いがよくわかる。 「浮彫」の仕様は、新たに見つかった尚家の古文書のほか、首里城内のほかの扁額、また1730年代に作られ、内間御殿(うちまうどぅん)に掲げられていた「致和(ちわ)」の扁額を参考にしている。
沖縄県立博物館・学芸員 伊禮拓郎さん 「(浮彫の扁額で)沖縄県内で現存しているのが『致和』の扁額だけのようで、文字を『浮彫』で貼り付け表現する技法をどうやっているかということで、関係者の皆様が調査にいらっしゃいました」
「中山世土」の文字を彫った仲宗根正廣(まさひろ)さんは、いいものを未来に残したい、そんな思いで作業に取り組んでいる。
仲宗根さんは平成の復元時には、「輯瑞球陽(しゅうずいきゅうよう)」と「永祚瀛壖(えいそえいぜん)」の彫刻を担当した。
仲宗根正廣さん 「平成と令和では、やり方が全然違います」 仲宗根さんが、平成の復元時に作った貴重な「試し彫り」を見せてくれた。
肉合彫の難しさは、カーブは彫る
Q.肉合彫の難しさはどんなところ? 仲宗根正廣さん 「カーブは彫るのが難しいですね。まっすぐならきれいに彫れますが、カーブや細かい部分は大変です。特にこのような細かい部分は消えると、大変なことになります」
地板を直接彫る肉合彫とは違い、今回の浮彫では何度も試作品を作り、検討委員会とともに文字の厚さや角の丸みなどを決めた。
仲宗根さんは、地板に題字を貼り付ける仕様になったことで、文字に陰影がつき、扁額全体の印象も大きく変わると言う。
仲宗根正廣さん 「高級感が全然ちがいます。豪華になります。とにかく皆さん、びっくりすると思います」
驚くほど様変わりするという扁額。 「中山世土」は2026年秋の完成を目指し、その他の2枚も順次制作される。