「首相暗殺」を目論む警察の恐るべき狙いとは?『政党大会 陰謀のタイムループ』はインド発“死に戻り”SF
インド映画とタイムループ
同じ時間を繰り返す、いわゆる<タイムループ>をテーマにしたエンタメ作品は多い。とくに映画には偏屈男の成長物語『恋はデジャ・ブ』や、名作アニメ『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』、日本の小説を原作にしたSFアクション『オール・ユー・ニード・イズ・キル』、ホラー映画にも『ハッピー・デス・デイ』などがあるし、『ミッション:8ミニッツ』はミステリー要素のある衝撃展開が印象的だった。
Netflix『隔たる世界の2人』はアカデミー賞を受賞した傑作短編だが、同じくNetflixのインド映画『エンドレス・ルーーープ』もタイトル通り、同じ如何を繰り返すスタイリッシュなサスペンス。こちらはドイツ映画『ラン・ローラ・ラン』のリメイクだそうで、基本的に長尺で登場人物も多いインド映画はタイムループと相性が良いのかもしれない。
5月2日(金)より全国公開中の『政党大会 陰謀のタイムループ』は、ループ地獄に放り込まれた男性の七転八倒を描くタミル語映画。主演はタミル語映画界の人気俳優シランバラサンで、彼の日本初公開作品でもある。
昨年スマッシュヒットを記録した『ジガルタンダ・ダブルX』で強烈な存在感を見せつけたS・J・スーリヤーの出演でも話題を呼んでいる本作。深刻化する宗教的分断やマイノリティ排斥をテーマにしつつ、思わず口角が引きつるサスペンスと驚きのぶっ飛び展開を終始ハイテンションで見せつけるSFアクション大作だ。
『政党大会 陰謀のタイムループ』~あらすじ~
ドバイ在住の裕福なタミル人ムスリムのアブドゥル・カーリク。友人の結婚式に参列するためデリーから入国し式場に向かうカーリクには、じつは秘められた目的があった。しかし、友人たちと共に周到に準備したその作戦が達成される一歩手前で、ある出来事から警察官・ダヌシュコディに拘束される。
ダヌシュコディに逆らうことができない状況下、その日の晩の与党政治集会でテロ行為を行うよう強要されるカーリク。俺の人生もこれまでか……と覚悟した次の瞬間、なぜか彼は“同じ日の朝”に引き戻されていた。
<タイムループ>が起きていることを理解したカーリクは、テロを止めようと足掻いては失敗し、また朝に引き戻される。このループを引き起こすトリガーとなるのが“自らの身に降りかかる災い”であることが判明しても、カーリクに引き下がる選択肢はない。それを止めなければ、インド全体に憎悪と暴力と不正を振りまくことになるのだから……。
タイムループで政治的陰謀を止められるか?
タイムループもののセオリーどおり、序盤は主人公の周囲で起こる大小さまざまな出来事のディテールを映し、伏線を積み上げていく。その間にもちょっとした小ギャグをちょいちょい差し込んでくるのだが、そんな軽快な出だしからの衝撃展開に面食らっていると、やがて主人公カーリクはのっぴきならない状況に陥っていく。
シランバラサン演じるカーリクはカリスマのある堂々とした存在感で物語を引っ張るが、眼力がすさまじいS・J・スーリヤーはもはや第二の主人公レベル。彼が演じる悪辣警官ダヌシュコディはなんとも禍々しく、しかし物語の転換点となる“ある設定”がキャクター造形にも効いていて、どうにも憎めない滑稽さを醸し出している。
“1回目”の失敗を踏まえたカーリクの言動と周囲の対応を追うだけでスリルとワクワクがつのる、ループものの醍醐味をシンプルに味わえる構成。ポリティカル・アクションと謳ってはいるものの、政治的な陰謀に巻き込まれるサスペンス~クライムもの(+タイムループ)として先入観なく楽しむのが吉だろう。
とはいえ、『ヴィクラムとヴェーダ』(2017年/2022年)の冒頭にもアニメで描かれていたインド伝奇「屍鬼25話」や、時を司ると言われるカーラバイラヴァ神などが劇中の台詞に登場し、宗教の融和を意識したような深堀りしがいのある演出も散りばめられている(このあたりは識者による解説を仰ぎたいところ)。
それにしても、決して大予算とは言えない規模感ながら全く安っぽさを感じさせない監督の手腕は見事。中盤以降は修羅場を何度も経験したカーリクが覚醒したかのように、かなり激しいアクションも繰り広げられる。撮影ロケーションはもちろん生活・文化が垣間見える些細な描写も目に楽しく、インド映画門外漢もすんなり物語に入り込めるはずだ。
『政党大会 陰謀のタイムループ』は5月2日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開.