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ある日突然、英語が話せるように……!? 有働由美子さんと英語のつきあい方【杉田敏の 現代ビジネス英語】

NHK出版デジタルマガジン

ある日突然、英語が話せるように……!? 有働由美子さんと英語のつきあい方【杉田敏の 現代ビジネス英語】

有働由美子さんと杉田敏先生の特別対談を公開!

NHKのアナウンサーとして「あさイチ」や「NHK紅白歌合戦」などの司会などを担当し、退局後は多方面で活躍している有働由美子さん。海外の要人への大事なインタビューは、杉田敏先生のアドバイスを受けて臨んできたそうです。

ニューヨーク特派員時代の苦労話から、トランプ大統領をめぐる英語の動きまで、有働さんと杉田先生が語り合います。

※『杉田敏の 現代ビジネス英語 2025年 春号』より一部抜粋して掲載。

人間力が試されたニューヨーク特派員時代

杉田 有働さんと初めてお会いしたのはNHKで「あさイチ」の司会をされていたころなので、もう10年ほど前でしょうか。私のラジオ番組のディレクターが「あさイチ」の担当に異動になると聞き、有働さんの一ファンとして「会わせて」とお願いしたのがきっかけでした。お会いする前に「有働さんてどんな人?」とディレクターに聞いたら、「素(す)の人」だと。その形容がいちばん合っている気がします。

有働 確かに噓がつけない性分というか、かっこつけられないというか……(笑)。

杉田 私の友人を含め数人で、初めて食事をご一緒したときは、「明日も『あさイチ』があるので早めに失礼します」とおっしゃって、でも結局、時間をオーバーして盛り上がりましたね。アボカドマルガリータを飲みながら。

有働 そうでした。おいしかったなぁ(笑)。

杉田 長く視聴者に愛されている有働さん。性格のよさが画面からにじみ出ているのだと思います。

有働 テレビ番組はみんなで作るものなので、ほぼ100パーセント、スタッフのおかげです。私は最後に乗っからせていただくだけ。

杉田 いつも謙虚でいらっしゃいますが、アメリカ企業では社員研修などで「自分の長所をアピールせよ」という研修をやることがあります。Accentuate the Positiveというものですが、謙遜せずに「これだけはだれにも負けない」という点を挙げなさいと。

有働 いいですね。日本企業にはなかなかない文化ですよね。

杉田 有働さんが自分の長所をアピールするとしたら、どんなことでしょう?

有働 う~ん……。思ったままに語り、行動することでしょうか。年齢を重ねると案外難しいことで、リスクもありますが。あとはすぐに忘れる。落ち込んでも、わりと早く「さあ、次!」となるタイプです。

杉田 忘れるというのはいいことですよ。アルベルト・シュバイツァーの有名なことばにHappiness is nothing more than good health and a bad memory. というのがあります。特に嫌なことはすぐに忘れましょう。

有働 そうですね。客観的に自分を振り返ってみると、私は平成3年(1991年)入社で、女性アナウンサーの採用は例年より多めの7人でした。そのほとんどがミスキャンパスなどだった人たちで、「1人ぐらいは違ったタイプも」と拾われたのが私だそうです。そこで、ほかの人と同じことをやっても……と考え、たとえば朝のニュースで、「自転車を不法投棄すると罰金を取られることになった」という話題について中継するときに、スタッフが不法投棄する役、私が注意する役でコントふうに伝えたりしました。そのときは「ふざけすぎ」と怒られたのですが(笑)、早くから自分の役割を認識できたことが、1つの強みになったという気はします。

杉田 有働さんらしいエピソードですね(笑)。活動は多岐にわたりますが、キャリアの中で何が印象深いですか?

有働 それはもう、特派員としてニューヨークに3年間行かせてもらったことです。

杉田 好き嫌いが分かれる街ですけど。

有働 私が育った大阪っぽさを感じる街で、水が合いました。向こうでは常に「NHKなんて知らん、有働由美子なんて知らん。なんであなたの取材を受けなきゃいけない?」からのスタートで、アジア人差別を受けることも。そうすると、笑顔で相手の不信感を解くとか、オリガミを持っていって気を引くとか、プリミティブな人間力で生きていくしかない。40歳手前での赴任でしたが、それまでは組織内でうまく回っていたやり方が通用せず、自分の力が試された。それが楽しかったんです。

男は立って、女は座って、犬は3本足で……?

杉田 ところで、「男は立って、女は座って、犬は3本足でするものはなあに?」というなぞなぞを有働さんに出したのを覚えていますか? 

有働 それも忘れてしまいましたが、答えは「おしっこ」でしたっけ?

杉田 前回もそう答えていましたが、正解は「握手」。半世紀前の西洋のエチケットは、座っていてだれかが握手を求めてきたら、男性は必ず立ち上がるけれど、女性は座ったままの握手でよいというものでした。今では性別を問わず、相手との関係においてどちらかを選べばよいとされています。『杉田敏の現代ビジネス英語』25年春号では、有働さんとの会話を思い出して「時代遅れのエチケット」というテーマを取り上げています。もう1つ、有働さんがアップル社のティム・クックCEOにインタビューする前に、ちょっとした打ち合わせをしましたよね。そのときに「女性が柔らかく握手をするのは昔のエチケット。今はdead-fish handshakeと言って嫌われるので、女性でも力強く握手しましょう」とアドバイスしました。

有働 死んだ魚の握手! 覚えています。ティム・クック氏だけでなく、ノーベル生理学・医学賞を受賞されたカタリン・カリコ博士や、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相(当時)など、大事なインタビューのときはいつも杉田先生にアドバイスをいただいていますね。ありがとうございます!

「怒り」をきっかけに英語が突然話せるように

杉田 ニューヨーク時代に英語に関して失敗したことはありますか?

有働 たくさん。事前に杉田先生のラジオ講座を聞いたり発音練習をしたりしていたので、それなりにできる気になっていました。でも、たとえばスポーツの取材で、肝心のsportsの発音がまったく通じないんです。ほかの発音がところどころ合っていると、かえって聞き取りづらいみたいで。そこで「うまい人ふう」の発音をやめて「日本語英語」を使うようになりました。「ここから中継させてください。この書類にサインが要るんです」とお願いするときには「アイ ウォントゥ ライブブロードキャスト フロム ヒアー。アイ ニーダ シグナチュア。ディス ドキュメント。プリーズ サイン ヒア。イフ ユー セイ ノー、アイム ファイアード!」という具合(笑)。すると相手は懸命に聞こうとしてくれるので交渉がうまくいくとわかり、その手法で乗り切るようになりました。

杉田 なるほど(笑)。

有働 ただ、イエール大学の教授へのインタビューに際しては、内々に英語力不足を指摘され、英語が堪能なアシスタントに泣く泣く質問を委ねるはめに。後ろで聞いていて「今の話をもっと深く聞きたい!」と思うことが多かっただけに、情けなかったですね。

杉田 ご著書には、ある日突然英語が話せるようになったとも書かれていますが、このムックの読者にお勧めできるような「突然英語が話せるようになる」方法はありますか?

有働 私の場合は「怒り」がきっかけでした。それまでは文法を意識するあまりことばがうまくつながらなかったのが、感情の発露とともに文法云々を飛び越えてワーッとことばが出てきたんです。もちろん学習の蓄積があってのことですが。ですから、怒りや喜びなど、感情をぶつけられる相手を見つけるといいかもしれません。恋人でも友達でも。

杉田 多くの人はそこに行くまでにあきらめてしまうんですよ。大事なことだと思います。

ことばの「意味」は辞書の中にはない

有働 先生はAI翻訳についてはどうお考えですか?

杉田 おもしろいと思います。使っていますよ。

有働 便利になりましたが、今まで必死に英語を勉強してきたのは何だったんだろう、と思わなくもないです(苦笑)。

杉田 ただ、言語の周りにある文化を学ぶことの重要性は変わらないでしょう。たとえば、sophisticatedは「洗練された」という意味だけでなく「すれっからしの」という意味で使うこともあります。

有働 そんな真逆の意味もあるんですか!

杉田 Beautiful!は、「美しいね!」以外に「あ~あ、ひで~もんだな。よくやってくれたぜ」という反語的な意味でも使います。使われる背景や文脈によって、ことばのニュアンスは大きく変わるということです。そもそもことばの「意味」は辞書の中にはないのですよ。意味はその語を発する人と、それを受け取った人の頭の中にあります。

有働 日本語の「ヤバイ」みたいなものですね。勉強になります。

杉田 最近覚えた英単語はありますか?

有働 あります! sober curious(お酒を飲める人があえて飲まないこと)。憎いことばです(笑)。以前、ハワイの友人夫妻の家に泊まりに行ったときに、2人ともsober curious だと言ってずっとレモン水を飲んでいたんです。昔はお酒をめちゃくちゃ飲む人たちだったので、「なんで!?」と思いました。

杉田 sober curiousは世界的な流行で、日本でも若者がお酒を飲まなくなっています。ちなみに、有働さんにとってお酒とは?

有働 “友”ですね。この歳になると、人に相談する前に自分で解決しなきゃと思うことが多いので、お酒を友に自分をフワッとさせてあれこれ考えるんです。流行だからといって友を切るようなことは、私にはできません(笑)。生涯つき合っていきます!

トランプ大統領と英語のこれから

杉田 私は最近、fealtyという単語を知りました。昔からある単語ですが、70年間英語とつき合ってきて見たことがなかったんです。ところがここのところ、アメリカの新聞の見出しでよく目にするようになって。

有働 どういう意味ですか?

杉田 「忠誠心」という意味です。

有働 あ~! トランプ大統領に関して。

杉田 はい。彼は忠誠心を持った人で周囲を固めています。loyaltyも忠誠心を意味する単語ですが、fealtyは絶対服従に近い意味合いで使われています。個人的には2025年のWord of the Yearになるのでは、と思っているんです。それと、コロナ前からネクタイを締めるファッションはほとんど見なくなったのですが、トランプ氏がほぼ常にネクタイをしているので、今年は復活するかも、と言われています。

有働 なるほど。ところでトランプさんが使う英語はとても平易でわかりやすいですが、あれは作戦ですか?

杉田 典型的なポピュリストで、だれでもわかる単語を使いながら大衆の心をつかんでいますね。アメリカでは差別的な表現や人種・性別を限定するような表現を別な表現に置き換えるPC(political correctness)の動きが進み、たとえばpolicemanはmanの部分が「男性」の意味を持つため、police officerと表すことが推奨されています。トランプ氏はそうした動きを嫌い、わざと扇情的な語を使うこともありますね。

有働 アメリカの政府も企業も、多様性や環境に関する基準を緩めようとしていますね。トランプさんが使うことばが大衆の心をつかんだとしても、その先に大衆が心地よいと思える世の中があるのか……。とても心配です。

杉田 そうですね。トランプ氏はDEI(diversity, equity and inclusion)という考え方にも否定的ですね。そういう意味で、アメリカはこの1年で政治的、社会的、言語的に大きく変わると見ています。

有働 注視していきたいと思います。

(『杉田敏の 現代ビジネス英語 2025年 春号』より一部抜粋。本誌では、有働さんのNHK退局後の思い、ウクライナ取材で見た現実、結婚願望などについても掲載しています!)

『杉田敏の 現代ビジネス英語 2025年 春号』では、「’New Normals’ in a New Era(新しい時代の「ニューノーマル」)」「Outdated Rules of Etiquette(時代遅れのエチケット)」など、ビジネスパーソン要注目のトピックをめぐる英会話をお届けしています。

◆撮影/海野惶世
◆取材・構成/髙橋和子
◆ヘアメイク/櫻井優子
◆スタイリスト/平田さゆり
◆衣装協力/衣装:セオリーリュクス、アクセサリー:ギンザタナカ

有働由美子(うどう・ゆみこ)

1969年、鹿児島県出身。兵庫県、大阪府で育ち、神戸女学院大学卒業後、1991年にNHK入局。「NHKニュースおはよう日本」「サタデースポーツ」「サンデースポーツ」「NHKニュース10」「スタジオパークからこんにちは」などの番組を担当する。2001年から計7回、「NHK紅白歌合戦」の司会も務めた。2007年にニューヨーク特派員として渡米。2010年に帰国し、「あさイチ」を担当。2018年にNHKを退社した後は、ニュース番組「news zero」などで活躍。現在は「有働Times」「with MUSIC」のMC、「うどうのらじお」のパーソナリティなどを務めている。2022年には東京大学大学院・情報学環総合防災情報研究センターの客員研究員に就任。著書に『ウドウロク』(新潮社)がある。

杉田敏(すぎた・さとし)

昭和女子大学客員教授。1944年東京・神田の生まれ。66年青山学院大学経済学部卒業後、「朝日イブニングニュース」記者を経て71年オハイオ州立大学に留学。「シンシナティ・ポスト」経済記者を経て、73年PR会社バーソン・マーステラのニューヨーク本社に入社。日本ゼネラル・エレクトリック取締役副社長(人事・広報担当)、バーソン・マーステラ(ジャパン)社長、電通バーソン・マーステラ取締役執行副社長、プラップジャパン代表取締役社長を歴任。NHKラジオ講座「やさしいビジネス英語」「実践ビジネス英語」などの講師を、2021年3月まで通算32年半務める。2020年度NHK放送文化賞受賞。著書に『アメリカ人の「ココロ」を理解するための 教養としての英語』(NHK出版)、『英語の新常識』『英語の極意』(集英社インターナショナル)ほか多数。

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