牛乳月間に考える、ミルクの未来
ご存知じゃない方も多いかもしれませんが・・・実はこの6月は 「牛乳月間」なんです。国連の機関が牛乳への関心を高め、酪農・乳業の仕事を多くの方に知ってもらう事を目的に、6月1日を「世界牛乳の日」と定めた事がきっかけとなっているんですが、日本では学校給食でもお馴染みで小さいころから親しんできた飲み物ですよね!
イネから作るミルク、どんなもの?
実はその牛乳を、お米のイネから作り出そうとする面白い取り組みを見つけました。このミルク、「植物性ミルク」と呼ばれるものなんですが、一体どんなミルクなのか。株式会社Kinish 代表取締役CEO 橋詰 寛也さんに詳しいお話を伺いました。
株式会社Kinish 代表取締役CEO 橋詰 寛也さん
乳牛の代わりとして「植物性ミルク」がすごく注目されているんですけれども、牛乳タンパク質を含むお米というものを作ろうということで、 まだ研究開発中なんですね。カゼインと言われる牛乳のタンパク質があるんですね。チーズの塊だったり、ヨーグルトの薄じみとかたまり、全部カゼインなんですね。カゼインがないと、本当に乳製品って実は作れないんですね。なのでその牛乳タンパク質が含まれて、今までおいしく作れなかった植物性乳製品が作れるようになる。そんな成分を持っているというのが、僕たちのお米の特徴になります。牛乳もほんのり甘くてとろみがあるじゃないですか。なのでお米ってそもそも牛乳の代わりとしてすごくいいんじゃないかなって思って。お米が持つ力を引き出すことで、新しい乳製品の代わりを作って、サステナブルで美味しくしようということをやろうと思っています。
イネから作るミルク、気になるのはその味ですよね。牛乳の風味は、乳脂肪や「乳糖」という甘さの素などが混ざってできているんですが、今回のミルクは、牛乳タンパク質のうちの8割を占めるカゼインといわれるものを作っているという感じなので、お米やライスシロップに近い風味になるとのこと。ただ、お米にはないような、とろりとした喉越みたいなものも感じられるという話、美味しさにもこだわっているそうです!ぜひとも飲んでみたい・・・
開発中のカゼインを含むイネ。通常のイネよりも背丈が低く室内栽培が可能に。:「株式会社Kinish」提供
この「カゼイン」がポイントとなっているんですが、今までの植物性ミルク(例えばアーモンドミルクやオーツミルクなど)には、このカゼインが含まれていないので乳製品を作ることができなかったんです。通常はイネもカゼインを含むことはないそうなのですが、Kinishさんで開発中のイネにはこれが含まれる。お米由来の乳製品も作ることができるようになります!
これであれば牛乳アレルギーの人も乳製品を食べられるようになりますね!
カゼインを含む新しいイネを開発しながら、今はお米を使用した商品開発に注力しているそうです。
お米を使用した乳製品の開発。その名も「The Rice Creamery」(アイスクリーム):「株式会社Kinish」提供
世界が抱える畜産業の課題
では、なぜこうした“代替ミルク”が注目されているのか?その背景には牛乳を生産する牛を家畜とした「畜産業の環境負荷」の問題がありました。詳しい話を、北海道大学 大学院 農学研究院の内田義崇教授に伺いました。
北海道大学 大学院 農学研究院 内田義崇教授
1つは多分一番有名なのが、ゲップとかオナラにメタンというガスが含まれていて、そのガスが温室効果ガスであるという風に言われていることが問題で、もう一つは、排泄するときに尿とかにアンモニアという成分がたくさん含まれているんですけれども、このアンモニアの一部が窒素なので、例えば牛が放牧されていれば牧草地にたくさんの窒素が投入されることになるので、その一部が地下水に流れて、川に窒素が入っていくと、その水が飲めなくなったり、魚が住めなくなったり・・・。あとはタンパク質の供給が需要に追い抜かされる時代がもうすぐ来るというふうに言われていて、「プロテインクライシス」って言うんですけれども、もっともっと効率よく乳製品を作っていかないと、少なくとも人間が食べる分のタンパク質が作れないよねっていう話になってきているので。どういう風に乳製品も含めたタンパク質を作っていくかということを考えなければいけない時代になってます。
私たちが普段当たり前に食べているタンパク質、足りなくなっているんです・・・!牛って大量の餌と水を摂取して大量の排泄をする、決して効率的な生き物ではないんですね。本当に大変な手間をかけて牛乳って作られていて、貴重なんです。
内田教授の話で面白かったのが、牛って、地球上に人間の重さよりも約2倍ぐらいの重さの牛がいるんですって!クジラとかゾウとか重い生き物もたくさんいる中で、体重でいうと牛が一番重い哺乳類なんです。1体あたりの体重が重いにしても人間の総重量より重いとは・・・想像もできないスケールですね。そんな数の牛がいるとなると、森林伐採や水不足にも繋がるのも納得です。
一方で牛は人間が食べられないものを食べられるものに変える、他の農業にはない重要な役割も担っているので、畜産業や酪農、そのバランスを保っていくことが大切になります。
ミルクの未来と、食への考え方
今後の酪農・畜産業の形にも大きく影響するであろう「植物性ミルク」。今後の可能性について再び株式会社Kinish橋詰さんのお話です。
株式会社Kinish 橋詰さん
乳製品の代わりっていうのは、なかなか実現できていなかったことなので、それが実現できた際にはかなり変わるんじゃないかなとは思います。ただ、僕は牛を全部消したいという極端なことも考えていなくて、当たり前に牛乳を選んで、当たり前に別のミルクを選ぶ。美味しいを当たり前に求めるように、これってサステナブルなのかなって、そういう思いも感じながらフードを選んでいくと。そういう概念の変化もできたらいいなと思っています。というのも結局今、環境問題で困っている、世界中が困りだしているんですけど、それって今が良ければいいっていう、ある種、今に焦点を当てた結果そうなってしまったと思うんですよね。なので、次世代の方々でも美味しいものを楽しんでいける、そしてその世界の中心に日本の稲があるんだということを作っていけたら、世界中でまた日本の美味しさってやっぱり本物だよねっていうふうに、日本のブランドを活用して実現できたらなと思っています。
人間、動物、環境の健康は全てが繋がっているという考え方「ワンヘルス(One Health)」という言葉があります。これからは「食」を選ぶ際に、私たち自身のためにも、動物や環境に優しいものを選んでいくべきですね。
「植物性ミルク」は酪農・畜産業とバランスを取りながら選択肢を増やしていく、新たなタンパク質の確保にも繋がりますよね。またその役割を担うのが日本の代表的な作物である「イネ」という・・・自分の土地に合った形のタンパク質生産と消費のあり方、日本人にとって牛乳ってどういうふうな量を飲むべきで、どこでそれを作るべきかっていうのをみんなで考える必要があると感じました。
この牛乳月間、改めて「牛乳とは何か」を考えるきっかけにしたいものです。牛から作る牛乳、植物から作るミルク。これからは「選ぶ時代」になっていくのかもしれません。
(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:糸山仁恵)