文豪ゲーテが突きとめた「葉と花」の関係とはどんなものだった?【眠れなくなるほど面白い 図解 植物の話】
Q 葉と花はどんな関係にあるのか?
A ゲーテの植物変態論が関係を明らかにしていた
植物の葉と花は、一見なんの関係もなさそうです。形も色も役割も異なります。葉は光合成をして栄養分を合成したり、二酸化炭素を吸って酸素を吐き出したりしています。花にはおしべとめしべがあり、種を作るため重要な役割をしています。
では、葉と花はどういう関係にあるのか。それを突きとめたのが、意外なことに、18世紀ドイツの世界的大文豪ゲーテ(1749年〜1832年)です。彼は小説や詩を創作する文学者であったと同時に、法律家、政治家としても活躍し、多方面の自然科学分野も研究した天才でした。小説『若きウェルテルの悩み』、詩劇『ファウスト』などは有名です。
万能の天才ともいえるゲーテの才能は、自然科学の分野でも、いかんなく発揮されました。
たとえば、当時ヒトにはないとされていた、上下の顎の骨の間の顎がっ間かん骨こつが、胎児のときには、一時的にあることを発見しています。
ゲーテは骨の研究から、すべての骨格は、「元器官(げんきかん)」から生じるという思想を得ます。
この思想を植物学に応用して、『植物変態論』(1790年)を著し、すべての植物はひとつ「原植物」から生じてきたとしました。さらに、植物の花の花弁やおしべなどは、葉がさまざまな形に変化(メタモルフォーゼ)したものが集まってできた結果であるとしました。
花は葉がメタモルフォーゼして生まれたというゲーテの説は、現代の植物学でも正しいとされています。ゲーテは時代の200年も先をいく自然科学者でもあったのです。
またゲーテは、植物の観察や実験によって、その多様性に魅せられています。そこから「形態学」という学問を提唱しました。
ゲーテのいう「原植物」とは
「アルカエフルクトゥス」という化石植物の復元イメージ
めしべ(めばな) おしべ(おばな)
被子植物が現れたのは、約2億年前なので、最初の花はその頃現れたことになる。2002年、中国の約1億2~3000万年前の地層から、花の化石が見つかり、「アルカエフルクトゥス(始祖の果実)」と名付けられた。最初、花と思われた部分は、花ではなく、めしべとおしべが茎に沿って縦に並んだものと考えられている。化石から復元した図を見ると、めしべ、おしべは葉にしか見えない。現代の植物学は花やめしべ、おしべは葉がもとになっていることを明らかにしているが、これはゲーテのいう「原植物」に近いかもしれない。
ゲーテ(1749 ~1832)
文学者としてのイメージが強いゲーテだが、科学者としても色彩論、形態学、生物学、地質学、自然哲学などの分野で活躍した。
ゲーテが描いた、植物の成長のスケッチ。
印刷業者の都合でゲーテの原本に図は1枚も入らなかったという。
この見た目がすごい
ゲーテにとって植物の見た目、すなわち「形態」が重要だった。ゲーテから200年後、花の遺伝子を解析し、実験することにより、彼が正しかったことが証明された。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 植物の話』監修:稲垣栄洋