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「泣いちゃった」原作者も力強くオススメする映画『平場の月』 切ないけれど、幸せを感じる【朝倉かすみさんインタビュー】

Sitakke

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映画『平場の月』 2025年11月14日(金)公開

はじまりは、中学の初恋――リアルで切ない珠玉のラブストーリー。
11月14日(金)に公開される映画『平場の月』のホームページには、そう書かれていました。

試写会で映画をいち早く見たHBC佐藤彩アナウンサーは、「本当に切なかったけれど、でも、『幸せ』を見せてもらった」と話します。

前編の記事では、「HBC演劇エンタメ研究会(通称“エンケン”)」の森結有花アナウンサーが、映画の感想をお伝えしました。
佐藤彩アナウンサーは、原作者の朝倉かすみさんにインタビュー。朝倉さんが込めた思いや、映画を見た感想を伺いました。

左から佐藤彩アナウンサー、朝倉かすみさん(手に持ってくださっているのは、HBCマスコットキャラクターのもんすけです)

映画『平場の月』ストーリー

妻と別れ、地元に戻って印刷会社に再就職し、慎ましく、平穏に日々を生活する、主人公・青砥健将(あおと けんしょう)。

その青砥が中学生時代に想いを寄せていた須藤葉子(すどう ようこ)は、夫と死別し今はパートで生計を立てている。

お互いに独り身となり、様々な人生経験を積んだ二人は意気投合し、中学生以来、離れていた時を埋めていく――。

ある日、アパートの部屋から月を眺めていた須藤。
「お前、あのとき、何考えてたの?」
青砥にそう問われ、
「夢みたいなことだよ。夢みたいなことをね、ちょっと」
そう答えた須藤。

再び、自然に惹かれ合うようになった二人。
やがて未来のことも話すようになるのだが・・・。

初めての映像化作品「すごくよかった」

朝倉かすみさんは、北海道小樽市出身。発行部数26万部を突破した『平場の月』(光文社文庫)は、第32回山本周五郎賞を受賞し、第161回直木賞にもノミネートされました。
映像権をめぐって、30社以上からオファーがあったといいます。

「びっくり。たくさん手が挙がって、『こんな地味な話なのに?!』ってびっくりしたんです。主人公も若くないし、不思議だなあと思いました」

朝倉さんにとって、初めての映画化作品です。
映画を見て「こうだったんだ」と思ったといいます。

「すごくよかった。私が書いていたのはこういう感じだったんだと思いました。シーンとか表情は、小説を書くときは頭の中で思い描いているだけで省略もあるんです。でも映像は情報が多いので、『こうだったんだ』と驚きがありました」

原作小説は、堺雅人さん演じる青砥の目線で描かれていて、井川遥さん演じる「須藤が一人でいるところは書けない」ため、「そういうシーンを見て、ああこうだったんだ!って思っちゃった」と言います。

©2025映画「平場の月」製作委員会

映画の制作中は、スタッフから「このシーンはどんな月ですか?満月ですか?」「須藤はどこの大学を出ていますか?」など細かく聞かれ、思いもよらない質問で不思議に思っていたといいます。

そんなやりとりを経て完成した映画を見て、もっとも印象的だったのが、月を生かした演出だったと話します。
「月の演出は素晴らしかった!私もこれはやればよかった!と思いましたね。タイトルに入れているのに、なぜ気付かなかったんだ!って」

映画の感想を目を輝かせて話す姿に、原作者でありながらも、一観客として楽しめる作品であったことが伝わってきました。
「たぶん、私の書いたものを大事に思って作ってくれたと思うんですよね。幸せな原作だし、幸せな原作者だと思います」


小説と映画に共通する「小さな積み重ね」

映画化にあたって、原作ファンとしては「原作がどれくらい大事にされているか」は気になるポイントかと思います。

小説と映画、異なるところもありますが、朝倉さんは「あそこが違う、ここが違うというようには見ずに、どっちもいいよねとゆったりとした気持ちで見てほしい」と話します。

映画を見て、切なさに涙した佐藤アナ。その後に、結末は知った上で原作小説を読むことになりましたが、それでも読み進めると込み上げるものがあります。
それは、朝倉さんが小説を書くときに大切にしている3つ、「ディティールと、実感と、イノセンス」が詰まっているからだと感じます。

なぜその3つを大切にしているかを尋ねると、「細かい、小さいことを書くことで、立ち上るものがあると信じているんです…すごく恥ずかしい!」と、もんすけに顔をうずめた朝倉さん。

「これを言うのはすごく恥ずかしいんだけどね…『細部に神が宿る』って言うでしょう。ケンカをしたり、別れたり、好きになったり、そういうのって小さいものの積み重ね。パーンとしたところしかみんな言わないけれど、その前の小さな積み重ねがあると思うんです」

小説でも映画でも、日常のささやかな積み重ねが描かれます。「ディティールと実感」が折り重なって、胸に迫ります。

佐藤アナは、「私は須藤ほど強くあれないと思いながらも、共感できるところ、自分と重ねてしまうところもありました。寂しさ、切なさを感じるのに、実感が積み重なって、『一緒にいる幸せ』を見せてもらった気持ちになりました」と話します。


「絶対見て!」原作者も力強く勧める映画

ディティールと実感、そしてもう一つ大切にしている「イノセンス」(純粋さ)は、「小説が動くエンジン」だといいます。

「須藤は特にイノセンスが強くて、倫理観とは違う、潔癖に近いような面がある。でも成熟しきれない部分もあって、女性はどこかに女の子のままなところがありますよね。イノセンスがエンジンになって、そこに引っ張られて小説が動きます」

中学時代の須藤と青砥 ©2025映画「平場の月」製作委員会

朝倉さんは、「須藤は青砥を利用するのが嫌だったんだと思うんですよね」というように、自身が生み出した登場人物のはずなのに、わかりきっているわけではない他者として話しているように感じました。

その理由を聞いてみると、「距離感がありますよね。私の好きには動かなくなってくるんです。こうしたらいいと思ってもしない。そこでさかのぼって書き直すことはなくて、こうしないんだ、そうか、じゃあ私が折れましょう…と書き進んでいきます」と話します。

そんな青砥と須藤、2人がたどり着くラストに、朝倉さんも映画を見て「泣いちゃった。最後はグッときた」と言います。

40代で作家になった朝倉さん。デビュー作では30代の女性の実感を細やかに描いています。
「当時は30代やそれより上の世代がヒロインの小説はほとんどなかったんです。それを私の個性にしようと思いました」

『平場の月』の主人公は50代。同じ世代にとっては切実な実感を伴い、上の世代にとっては「こんな時期があった」と共感する場面があり、下の世代にとってはこれから先に自分にも起こるかもしれない切なさと、希望も感じられるストーリーなのではと思います。

きっと、自身の人生と重ね合わせて感じ、考えてしまう映画。
朝倉さんに、いま生き方に悩んでいるSitakke読者のみなさんへのメッセージを聞いてみました。

「何のなぐさめにもならないけどね、私は毎朝『きょう起こることはすべていいこと!ものごとは完璧なタイミングでやってくる』って言うようにしているんです。そうすると、その日1日がちょっと楽しくなる。すごく嫌なことがあったとしても、これは完璧なタイミングで私のもとに来たんだから大丈夫って思えるの」

そう話す笑顔に強い説得力を感じ、「素敵ですね!何年前から続けているんですか?」と尋ねると、「これはねえ、驚くと思いますよ」と笑います。

朝倉さん「2~3か月前ですね」
佐藤アナ「え~?!」

「失礼な言い方かもしれないですが、きょうのインタビューを通して、朝倉さんはすごくピュアな方の印象を受けた」と佐藤アナが話すと、「ピュアかピュアじゃないかと言われれば、ピュアですねえ」と答える朝倉さん。

そんな魅力的な人柄から、青砥と須藤の魅力も生まれたんだなという納得感がありました。

©2025映画「平場の月」製作委員会

佐藤アナが「何回も見ると気づきがあると思うので、もう一度映画を見たい」と話すと、朝倉さんはすぐに「絶対見て!!」と力強く勧めました。

「青砥と須藤のお話をいろんな人に読んでもらえてよかったし、この映画をたくさんの人に見てほしいです。恋愛映画のくくりに入るのかもしれませんが、ちょっと恋愛から遠ざかっている人に見てほしいですね」

原作者も太鼓判を押す映画『平場の月』は、11月14日(金)から公開されます。

***

前編の記事では、「HBC演劇エンタメ研究会(通称“エンケン”)」の森結有花アナウンサーが、映画の感想をお伝えしました。


映画『平場の月』

2025年11月14日(金)から公開。
詳細は公式サイトからご確認ください

出演

堺雅人 井川遥
坂元愛登 一色香澄
中村ゆり でんでん 安藤玉恵 椿鬼奴 栁俊太郎 倉悠貴
吉瀬美智子 宇野祥平 吉岡睦雄 黒田大輔 松岡依都美 前野朋哉
成田凌 塩見三省 大森南朋

主題歌

星野源「いきどまり」(スピードスターレコーズ)

監督

土井裕泰

脚本

向井康介

音楽

出羽良彰

原作

朝倉かすみ「平場の月」(光文社文庫)

制作プロダクション:TBSスパークル
配給:東宝

取材:HBC演劇エンタメ研究会・アナウンサー 佐藤彩
文:Sitakke編集部IKU

※掲載の内容は取材時(2025年11月)の内容に基づきます

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