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健康日本21(第三次)をわかりやすく解説!目的と特徴、介護業界への影響とは

「みんなの介護」ニュース

藤野 雅一

健康日本21(第三次)の基本的な考え方と目標をわかりやすく解説

健康日本21が目指す社会像と実現までの道のり

「健康日本21」は、国民の健康増進の総合的な推進を図るための国の基本方針です。1978年から始まった国民健康づくり運動は、時代とともに進化を遂げ、2024年からは第三次となる新たな段階に入ります。

第一次の国民健康づくり運動(1978年~)では、健康診査の充実や市町村保健センターの整備、保健師などの人材確保に重点が置かれました。第二次(1988年~)では「アクティブ80ヘルスプラン」として、運動習慣の普及に焦点を当て、運動指針の策定や健康増進施設の推進などが行われました。

そして2000年からスタートした「健康日本21」では、一次予防の重視と具体的な目標設定・評価という新しいアプローチが導入されました。2013年からの第二次では、健康寿命の延伸と健康格差の縮小を掲げ、生活習慣の改善に加えて社会環境の整備にも取り組んできました。

第三次となる新計画では「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」をビジョンに掲げています。特に注目すべきは「誰一人取り残さない健康づくり」という理念です。これは、年齢や性別、職業などに関係なく、すべての人が健康的な生活を送れる社会を目指すという考え方です。

計画期間は2024年度から2035年度までの12年間で設定されています。これは医療計画や介護保険事業計画など、関連する他の計画との整合性を図るためです。また、健康づくりの取り組みの効果を適切に評価するには一定期間が必要という考えも反映されています。

実施体制としては、国、都道府県、市町村がそれぞれの役割を担い、PDCAサイクルに基づいて施策を展開します。特に地域の実情に応じた取り組みを重視し、住民に最も身近な市町村が中心的な役割を果たすことが期待されています。

第二次から第三次への変更点と新たな課題

第二次(2013-2023年)から第三次への移行にあたり、いくつかの重要な変更点があります。まず、第二次の評価結果を詳しく見ていきましょう。

第二次では53項目あった目標のうち、達成できた項目は8項目(15%)、改善傾向にある項目が20項目(38%)でした。一方で、変化がない項目が14項目(26%)、悪化した項目が4項目(8%)という結果でした。残りの7項目(13%)については、新型コロナウイルス感染症の影響で評価が困難でした。

特に課題となったのは、以下の項目です。

メタボリックシンドロームの該当者および予備群の減少が目標未達 適正体重の子どもの増加が停滞 睡眠による休養を十分取れていない人の割合が改善せず 生活習慣病のリスクを高める量の飲酒をしている人の割合が高止まり

この評価を踏まえ、第三次では重点的に取り組むべき課題がいくつか設定されました。まず、自治体の健康づくり施策の効果的な推進については、エビデンスに基づく施策立案を行い、地域特性を考慮した取り組みを強化するとともに、評価指標の精緻化を図ることが求められています。

また、データの活用による住民の行動変容の促進も重要な課題です。健康データのデジタル化を推進し、AIやビッグデータを活用しながら、個別化された保健指導の実施を目指します。

健康に関心が薄い層への対策強化も欠かせません。行動変容の促進や、職域保健との連携強化を図り、特に若年層へのアプローチを改善していく必要があります。

性差や年齢を考慮した取り組みも重要です。女性特有の健康課題への対応やライフステージに応じた施策の展開、高齢者の特性を考慮した支援などを進めていきます。

さらに、新型コロナウイルスなどの感染症による生活習慣の変化への対応も求められています。テレワーク増加に伴う運動不足対策やメンタルヘルス支援の強化、新しい生活様式に対応した健康づくりを推進していきます。

健康寿命の延伸と健康格差の縮小に向けた数値目標

健康寿命の延伸は、健康日本21の最重要目標の一つです。2019年時点での健康寿命は、男性が72.68年、女性が75.38年となっており、着実に延伸しています。

これを平均寿命と比較すると、男性の平均寿命は81.41年で健康寿命との差は8.73年、女性の平均寿命は87.45年で健康寿命との差は12.07年となっています。この差を縮めることが、重要な課題となっています。

第三次では、平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加を目指しています。これは、単に長生きするだけでなく、健康で自立した生活を送れる期間を延ばすことを意味します。

また、地域や社会経済状況による健康格差の縮小にも焦点を当てています。具体的には、都道府県間の健康寿命の差を減らすことや、所得による健康状態の差を縮めることなどが含まれます。

この目標を達成するため、地域間格差への対応として、医療資源の適正配置を進め、保健サービスへのアクセスを改善し、地域特性に応じた施策が求められるでしょう。

社会経済的要因への対応も重視されており、健康無関心層への効果的な働きかけや、必要な経済的支援の充実、わかりやすい情報提供の工夫などを行っていきます。

さらに、ライフコース・アプローチの採用により、乳幼児期からの健康教育を充実させ、働く世代への重点的な支援を行い、高齢期の健康支援まで、生涯を通じた切れ目のない支援体制を構築していきます。

健康日本21(第三次)の具体的な達成項目と評価指標

生活習慣の改善に関する具体的な目標値

第三次では、個人の健康行動に関する具体的な数値目標が設定されています。これらの目標値は、科学的なエビデンスに基づいて設定されており、定期的な評価と見直しが行われます。

適正体重の維持については、目標値を66%に設定しています。具体的には、BMI18.5以上25未満(65歳以上の場合はBMI20超え25未満)の範囲内の人の割合を増やすことを目指します。この目標は、肥満と低体重の両方の予防を視野に入れたものです。

食生活の改善に関しては、野菜摂取量を1日平均350gにすることを目標としています。現状では成人の平均摂取量が目標値を下回っているため、職場の食堂や学校給食などを通じた啓発活動を強化していく計画です。

運動習慣については、定期的に運動をしている人の割合を40%まで引き上げることを目指しています。ここでいう運動習慣とは、週2回以上、1回30分以上の運動を1年以上継続していることを指します。

睡眠についても具体的な目標が設定されました。6-9時間(60歳以上は6-8時間)の適切な睡眠時間を確保できている人の割合を60%まで増やすことを目標としています。この背景には、睡眠不足や睡眠の質の低下が、様々な健康問題のリスク要因となることが明らかになっているためです。

喫煙対策では、20歳以上の喫煙率を12%まで下げることを目指しています。この目標達成に向けて、禁煙支援の充実や受動喫煙対策の強化が計画されています。

新たに追加された女性の健康に関する指標

第三次の特徴的な点として、女性の健康に関する項目が新たに追加されました。これまでの健康施策では、性差に着目した取り組みが十分でなかったという反省を踏まえての改定です。

20-30歳代女性のやせの問題については、BMI18.5未満の割合を15%未満に減少させることを目標としています。若い女性のやせの増加は、本人の健康への影響だけでなく、将来の妊娠・出産にも関わる重要な課題として認識されています。

飲酒に関しては、女性特有の目標値が設定されました。1日の純アルコール摂取量が20g以上の女性の割合を6.4%未満に減少させることを目指します。女性は男性に比べてアルコールの影響を受けやすいことが知られており、適切な飲酒量の啓発が重要とされています。

新たな取り組みとして、骨粗鬆症検診の受診率向上も目標に加えられました。目標値は15%に設定されており、早期発見・早期治療による骨折予防を目指します。これは、高齢化が進む中で、特に女性の健康寿命に大きく影響する課題として注目されています。

これらの目標達成に向けて、女性特有の健康課題に対応した保健指導や健康教育の強化が計画されています。また、ライフステージごとの健康支援プログラムの開発も進められています。

社会環境の整備に関する目標と評価方法

個人の行動変容を支援するための社会環境の整備も、第三次の重要な柱となっています。特に健康経営の推進が注目されており、保険者とともに健康経営に取り組む企業数を10万社まで増やすことを目標としています。

健康的で持続可能な食環境づくりについては、全47都道府県での戦略的イニシアチブの登録を目指しています。これには、食品表示の改善や、健康に配慮したメニューの開発支援なども含まれています。

また、ICTを活用した健康づくりの推進も重要な目標として掲げられています。ウェアラブル端末やスマートフォンアプリを活用した健康管理支援、オンラインによる保健指導の実施などが計画されています。

これらの取り組みの成果は、年齢調整死亡率や健康寿命、生活習慣病の有病率など、様々な指標を用いて評価されます。評価は、6年後の中間評価と10年後の最終評価の2段階で実施され、必要に応じて目標や施策の見直しが行われます。

社会環境の整備に関する目標と評価方法

健康日本21(第三次)は、介護業界に大きな変革を求めるものとなっています。特に「誰一人取り残さない健康づくり」という理念は、介護サービスのあり方自体を見直す契機となることが予想されます。

第一に、健康寿命の延伸という目標は、介護予防の重要性をより一層高めることになります。従来の介護サービスは要介護状態への対応が中心でしたが、今後は予防的な観点からのアプローチが重視されます。介護施設には、利用者の健康状態を維持・改善するための積極的なプログラム開発が求められるでしょう。

第二に、健康格差の縮小という目標は、地域における介護サービスの均質化を促進することになります。都道府県間の健康寿命の差を縮めるためには、介護サービスの地域間格差の解消が不可欠です。特に、医療資源の少ない地域での介護サービスの質の向上が課題となります。

第三に、データ活用の推進は介護現場のデジタル化を加速させます。健康データと介護記録の統合的な分析により、より効果的な介護計画の立案が可能となります。また、ICTを活用した健康管理支援やオンラインでの介護予防指導など、新しいサービスモデルの開発も期待されています。

この計画期間(2024-2035年)は、介護保険制度の大きな転換期とも重なります。介護業界には、予防重視型のサービス展開、地域特性に応じたサービス提供体制の構築、デジタル技術の積極的活用という三つの観点が求められると考えられます。特に、2035年に向けて段階的なサービス体制の整備を進めることが重要となるでしょう。

健康日本21(第三次)を地域で推進するためのポイント

地域・職域連携による効果的な推進方法

地域・職域連携推進協議会は、健康日本21の目標達成に向けた重要な推進基盤となっています。2024年の調査では、都道府県レベルで96%(45都道府県)、二次医療圏レベルで85%(289医療圏)が設置されており、着実に体制整備が進んでいます。

この協議会の中核的な役割は、地域の健康課題の把握と分析です。各地域で収集された健康診断データや生活習慣に関する調査結果を分析し、地域特有の課題を明らかにします。例えば、働き盛り世代の運動不足や、高齢者の低栄養、若年女性の健康管理など、地域ごとに異なる課題に対して効果的な対策を立てることができます。

効果的な保健事業の企画・実施も重要な役割です。特定健診・特定保健指導の実施率向上や、がん検診の受診促進、生活習慣病予防のための健康教育など、さまざまな事業を展開しています。これらの事業は、地域保健と職域保健が連携することで、より多くの住民にアプローチすることが可能となります。

関係機関との連携強化も進められています。医師会や歯科医師会、薬剤師会といった専門職団体との協力関係を築き、より質の高い保健サービスの提供を目指しています。また、商工会議所や事業者団体との連携により、職場における健康づくりの取り組みも強化されています。

ICTを活用した健康づくりの具体例

第三次では、ICTの活用による効果的な健康づくりの推進が重視されています。ウェアラブル端末やスマートフォンアプリを活用した日常的な健康管理では、歩数や活動量、睡眠時間などのデータを自動的に記録し、個人の生活習慣の改善に役立てることができます。

健康アプリを通じた保健指導も注目されています。従来の対面式の保健指導に加えて、アプリを通じたオンラインでの指導や情報提供を行うことで、時間や場所の制約なく健康支援を受けることが可能となります。特に、働き盛り世代など、これまで保健指導を受けにくかった層へのアプローチとして期待されています。

また、データを活用した個別化された健康支援も進んでいます。健診データや日常の健康記録、生活習慣に関する情報などを統合的に分析し、個人に最適化された健康アドバイスを提供する取り組みが始まっています。

先進自治体の取組事例から学ぶ成功のポイント

厚生労働省の「健康寿命をのばそう!アワード」では、2023年度の最優秀賞として山形市の「SUKSK(スクスク)プロジェクト」が選ばれました。

山形市は「健康医療先進都市」のビジョンのもと、市民の健康寿命を損なう主な原因を分析し、その予防に向けて食事(S)、運動(U)、休養(K)、社会(S)、禁煙・受動喫煙防止(K)という「SUKSK生活」を独自に提唱しています。

具体的な取り組みとして、スマートフォンアプリを活用した健康ポイント事業を展開。歩数計測、健診受診、市認定のSUKSKメニューの利用、地域活動への参加などを対象としています。参加者アンケートでは約9割が健康意識の向上や行動変容を実感。

さらに、市内の健康経営優良法人認定企業も5社から75社に増加するなど、地域全体での健康意識の向上につながっています。

一方、調布市は受動喫煙対策で優良賞を受賞。市役所内の各課や医療関係団体との連携により、路上喫煙禁止区域の設定や、通学路での啓発活動など、包括的な禁煙推進施策を展開し、市内の喫煙率低下に成功しています。

これらの成功事例から、効果的な健康づくりのポイントとして、科学的根拠に基づく課題分析と市民に分かりやすい施策の展開、多様な参加機会の創出、デジタル技術と従来型活動の効果的な組み合わせが重要であることが分かります。

このような知見を活かしながら、各地域の特性に応じた健康づくりを展開することが、健康日本21(第三次)の目標達成、そして持続可能な健康づくりの鍵となっていくでしょう。

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