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発達障害「もらえるお金・減らせる支出」障害者手帳・経済的な支援を専門家がわかりやすく解説

コクリコ

「障害者手帳」を取得するにはどんな手続きが必要? 発達障害の当事者やその家庭には、経済的な負担が重くのしかかるケースがある。さまざまな支援制度があるが、利用には正しい知識と申請が必要。「もらえるお金・減らせる支出」をテーマに、青木聖久教授(日本福祉大学)に取材した。

【漫画】発達障害の「生きづらさ・困難」とは?

小中学生の約11人に1人(8.8%)に発達障害の可能性がある(※1)とされるなど、発達障害は決して珍しい障害ではありません。

しかし、発達障害について周囲から適切な理解を得られず、社会生活が困難になるケースもあります。

経済的な負担が重くのしかかる発達障害の子どもとその家族が、支援制度を利用するには正しい知識と申請が必要です。

「もらえるお金・減らせる支出」をテーマに、発達障害者への経済的な支援について、青木聖久教授(日本福祉大学)に教えていただきました。

(※1 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する 調査結果について」より)

発達障害の人が抱える困難

──発達障害の人はさまざまな「困難・生きづらさ」を抱えているといわれていますが、どうして経済的支援が必要なのでしょうか。青木聖久教授(以下、青木教授):発達障害の人が生きづらくなる要因のひとつに「見た目には障害が分かりにくい」ことがあります。

そのため、周囲から障害を理解してもらえずに、学校や仕事に行けなくなるなど、社会参加が難しくなります。その結果、生活が成り立たなくなって経済的に苦しい状況になることがあるのです。

書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より

成績はトップなのに、なぜか人が離れていくA君

青木教授:実際のケースをもとに紹介しましょう。

A君は中学・高校と成績が優秀で、テストでは常にトップでした。はたから見れば何も問題がないように感じますが、実のところ、A君は違和感を覚えていました。

なぜなら、理由が分からないまま、自分からどんどん人が離れていくからです。

中学生のころから、友だちができたと思ったら、いつのまにかその友だちが去っていく経験が何度もありました。しかし、学校では勉強ができればそれなりに評価されるので、大きなトラブルはないまま有名な大学へ進学しました。

大学に進学したある日、アルバイト先の友だちたちと食事をしているとき、A君はその中のひとりがテストで0点を取ったことが面白くて、そのことを皆に話しました。勉強ができるA君にとって、テストで0点を取ることなどあり得ません。

ですから「こんな面白いこと、皆にも教えてあげよう」と思い、まったく悪気なくその話をしたのでした。

▲楽しく話していたつもりが、思わぬ展開に…発達障害の特性でコミュニケーションに失敗してしまうことも(画像はイメージです 写真:アフロ)

青木教授:0点をバラされた友人を含めて全員が大笑いして、その場は解散になりました。ところがその夜、友人から電話がかかってきて「テストで0点を取ったことをバラされて、本当に腹が立ったし、悲しかった」とA君を激しく非難したのです。

これを聞いて、A君は仰天しました。なぜならA君は、「自分は0点が面白いと思ったから、相手も0点を面白いと思うだろう」と考えていたからです。

ですから、友人の訴えを聞いて心底驚きました。そして初めて「今まで友だちが離れていったのは、こういうことだったのか」と理解したのです。

──発達障害の特性から、人間関係がうまくいかずに、社会生活が難しくなってしまうのですね。青木教授:はい。A君のように発達障害のせいで他人とうまくコミュニケーションが取れずに、結果として不登校になったり仕事をやめたりして、通常の社会生活を送ることができなくなってしまうケースは少なくありません。

その結果、就職・就業が難しくなり、生活するための収入が得られなかったり、本来ならば必要ではないはずの余計な支出が発生したりすることも多くあります。だからこそ、発達障害の人をサポートするための経済的な支援が必要なのです。

福祉サービスへの入り口「障害者手帳」

──経済的支援とは、具体的にどのようなものですか?青木教授:経済的支援は、主に「収入を増やす」か「支出を減らす」ことに分けられます。

収入を増やす支援の代表例は「手当」や「障害年金」などがあり、支出を減らす支援の代表例としては「所得控除」や「医療費助成」などがあります。

そのような、さまざまな支援の最初の入り口となるのが「障害者手帳」です。

▲支援の最初の入り口となるのが「障害者手帳」。(写真:アフロ)

青木教授:障害者手帳を取得したからといって、それだけでお金がもらえるわけではありません。

しかし、経済的支援を受けるために必要な診断書の代わりになるほか、さまざまな福祉サービスへの入り口にもなるため、何よりも最初に知っておいてほしいのです。

障害者手帳には、「身体障害者手帳」「療育手帳(※2)」「精神障害者保健福祉手帳」の3つの種類があります。このうち、発達障害がある人を対象としているのは、精神障害者保健福祉手帳です(※3)。

(※2 療育手帳は自治体によって「愛の手帳」「愛護手帳」など名称が変わることがあります)
(※3 発達障がいと知的障がいの両方を抱えている人は、2つの手帳が交付される可能性もあります)

手帳をもらうことで、交通機関の運賃や施設利用料、通信費、税金などが割り引きされることがあります。障害を持つと行動範囲が狭くなりがちなので、こうした割引サービスは非常にありがたいものです。

割引情報を無料公開しているウエブサイトなども参考にしながら、最新の情報は直接、事業者に確認しましょう。

診断書が必要 医師に困りごとを正しく理解してもらおう

書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より

──手帳を取るにはどうすればいいのですか?青木教授:一番最初のポイントは「診断書」です。「障害者手帳」の申請には医師(主に精神科医)の診断書が必要になります。

手帳の審査は、医師の「診断書」を判定の資料としているため、とても重要です。

──診断書を書いてもらうときに気を付けるべきことはありますか?青木教授:医師に適切な診断書を書いてもらうためには、「普段からきちんと診察を受けておく」「こまめに医師へ症状を伝える」ことの2つが大切です。

どれほどの名医であっても知らない患者の診断書は書けませんし、短時間の診察だけで患者の困りごとがすべて分かるわけではありません。ですから、継続して診察を受けて、その都度ていねいに症状を伝えることが重要なのです。

▲「普段からきちんと診察を受けておく」「こまめに医師へ症状を伝える」ことの2つが大切。(写真:アフロ)

青木教授:発達障害は、見た目からは障害が伝わりにくいので、「調子が良い・悪い」などの大雑把な伝え方では不十分です。

たとえば、「日中はずっと頭が重い」「料理の手順を思い出せない」「お風呂に入る気力がない」など、生活場面での困りごとを具体的に伝えることが欠かせません。

また、もらった診断書は封を切って読んでも大丈夫です。ぜひ、提出前に読んでコピーを取っておくことをお勧めします。

何らかの事情でその後に診断書が必要になったとき、コピーが役立つことがあります。自分の病状を把握するためにも、私は診断書を確認することを勧めています。

所得控除で節税! 支援は原則「申請主義」

──減らせる支出(所得控除など)や、もらえるお金(各種手当)の例を教えてください。青木教授:所得控除とは、収入から控除分の金額を引くことで、税金が安くなる仕組みです。「障害者控除」や「基礎控除」「扶養控除」「医療費控除」などがあり、申告することで税金が安くなるので、ぜひ忘れずに手続きをしてください。

書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より

青木教授:一方で手当の代表例としては、家族がもらえる「特別児童扶養手当」や本人がもらえる「障害児福祉手当(20歳未満の子)」「特別障害者手当(20歳以上で在宅の人)」などがあります。

これらは国から支給される手当ですが、これ以外にも自治体が独自に手当を支給していることもあります。

自治体によってさまざまなので、「子どもが障害者手帳を持っています。申請できる手当を教えてください」と直接、問い合わせるのが確実です。

どの支援についても言えることですが、さまざまな支援は原則として「申請主義」です。つまり、本人または家族が「使いたい」と申し出なければ使えません。

待っていても経済的支援は始まらないことは、ぜひとも知っておいてください。

──手帳を取ることに対して、心理的なハードルを感じる人も多そうです。青木教授:確かに昔よりは減りましたが、障害を受け入れることができずに手帳の取得をためらう人は今でも少なくありません。しかし、手帳はある意味で「道具」ですから、取得しておいて必要な支援だけを活用すればいいと私は考えています。

ママやパパにとって重要なことは「子どもに障害があるかどうか」ではありません。そうではなく、障害があってもなくても「子どもが楽しそうに生きているかどうか」です。

さまざまな支援が、発達障害の子どもの生きづらさを解消し、安心して社会で暮らせる手助けになるならば、迷っている人はぜひとも取得を検討してほしいと思います。

──まとめ──

発達障害の人を支えるための、さまざまな経済的支援があります。こうした支援を使うことは、生きづらさを解消して自立した社会生活を送るために、心強い味方になります。

青木聖久教授に教えていただく【発達障害の子どもと家族が「もらえるお金」と「減らせる支出」】連載は全3回。次の第2回では、発達障害の人が直面する、医療費の負担を軽くするための制度について紹介します。最後の第3回では「障害年金」についてお聞きします。

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