「ハリウッドの人々、どうか黙っていないでください」アカデミー賞最有力『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』本編映像
アカデミー賞を“受賞すべき”ドキュメンタリー映画
パレスチナ人とイスラエル人の若手監督による衝撃と奇跡のドキュメンタリー映画『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』が、2月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、シネ・リーブル池袋ほかにて全国公開となる。本年度アカデミー賞®長編ドキュメンタリー賞にノミネートされ、受賞最有力との呼び声も高い注目作だ。
本作は、ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区<マサーフェル・ヤッタ>の住民たちが力を合わせ20年以上占領に抗い続けてきた歴史にも触れながら、イスラエル軍がパレスチナ人に対して長年行ってきた占領政策の本質と実態に肉薄。現在パレスチナが置かれている過酷な状況を知るという意味でも必見の作品である。
このたび、そんな本作の本編映像が解禁。イスラエルによる占領や破壊行為に、“撮影”することで抵抗を続ける監督の訴えが観る者の胸をえぐる映像となっている。
現在進行形の入植植民地主義
この本編映像は、イスラエル軍や入植者による破壊と占領が続くマサーフェル・ヤッタで生まれ育ったバーセル・アドラー監督が撮影し、SNSなどで発信を続けてきた映像が分かりやすくつなげられたもの。ある朝突然、イスラエル側の命令によりパレスチナ人の車両の通行が禁止になったり住居が取り壊される様子を捉え、現地の住民による抗議の行進の様子のほか、バーセルが自身の思いを語る場面、住民たちに「水一滴ではダメでも、しずくが続けば変わる」と諦めないことの大事さを伝える様子が切り取られている。
「どこが壊されるのか分からない」というバーセルの言葉の通り、イスラエル軍や入植者達がいつ何をするのか全く分からず、バーセルたちにできるのは声をあげ、撮影することだけだった。そして、SNS発信のために付けられた<“今”起きていること!><ブルドーザーが来た!><なぜ誰も声を上げない?>といった彼の懸命の訴えのテロップは、観る者の胸をえぐる。
▶バーセル・アドラー監督のInstagram:@basilaladraa
「イスラエル人とパレスチナ人が、本当の平等の中で生きる道を問いかける」
監督のバーセルはマサーフェル・ヤッタという場所について、故郷への素直な思いを口にする。
マサーフェル・ヤッタは農民のコミュニティです。ここの人々は農作業をしながら生活していて、土地と深く結びついています。私は生まれてからずっとここに住んでいるので、故郷だと心から感じられる唯一の場所であり、都会よりもここでの生活が性に合っている気がします。
私がただ強く願うことは、私たちの土地を奪う軍事占領や暴力的な入植がなくなり、ここで家族と一緒に普通の生活を送れるようになることです。私は近所の皆のことや、この場所特有の雰囲気を心から愛しています。だからこそ、それらが失われようとしていることが恐いのです。村の人々がいなくなり、マサーフェル・ヤッタがなくなってしまうことが。
またバーセルは、「私とハムダーン(本作の監督のひとりでマサーフェル・ヤッタ在住)は成人してから人生のほとんどの時間を、村人を追い出そうとするイスラエル軍の破壊行為を記録することに費やしてきました」と明かす。4人の共同監督が本作のために撮影した映像は2000時間以上に及ぶとのことで、彼らは共同で声明も発表している。
本作を共同制作した理由は、マサーフェル・ヤッタで今まさに進行しているパレスチナ人の強制追放を阻止し、現代にもはびこるアパルトヘイトの現実に、壁の両方から、不平等を映し出すことによって抵抗したいからです。
本作の核心にあるものは、イスラエル人とパレスチナ人が、この地で、抑圧する側とされる側ではなく、本当の平等の中で生きる道を問いかけることです。
「ハリウッドの人々は気にかけているでしょうか? どうか黙っていないでください」
本作の舞台となるのは、イスラエル軍による破壊行為と占領が今まさに進行している、ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区マサーフェル・ヤッタ。本作が暴き出すイスラエル軍や入植者による占領や破壊行為は、決して“かつての出来事”などではない。
本作がアカデミー賞にノミネートされた2日後の1月26日、バーセルは「映画がアカデミー賞にノミネートされて2日後の今、入植者たちが私のコミュニティであるマサーフェル・ヤッタに侵入し、家々に火をつけて破壊しています」という訴えを、家々から煙が上がる様子を記録した動画とともにXに投稿した。
ノミネートされたことは光栄ですが、トランプ米大統領が入植者に対する制裁を解除したその一方で、私たちは抹殺されかけています。ハリウッドの人々は気にかけているでしょうか? どうか黙っていないでください。
違法占領の“当事者”が捉えた至近距離からの緊迫感みなぎる映像
今まさに行われている“民族浄化”の片鱗をカメラに収め世界に発信することで占領を終結させ、故郷の村を守ろうとするパレスチナ人青年バーセル。そして、彼に協力しようとその地にやってきたイスラエル人青年ユヴァル・アブラハーム。そんな2人が2023年10月までの4年間にわたり、決死の覚悟で記録。あまりに不条理な占領行為を、そこで暮らす当事者だからこそ捉えることのできた至近距離からの緊迫感みなぎる映像であぶりだしていく。
同時に、バーセルとユヴァルが、パレスチナ人とイスラエル人という立場を越えて対話を重ね理解し合うことで生まれる奇跡的な友情と、ただ故郷の自由を願い強大な力に立ち向かい続ける人々の姿も映し出す。監督は、バーセルとユヴァルを含むパレスチナとイスラエルの若き映像作家兼活動家の4人が共同で務めた。
たった1館での自主上映から米国全土に拡大ヒット中!
2月6日時点で11の観客賞をはじめ、すでに62もの賞を獲得している本作。そんな世界各地での圧倒的な高評価とは裏腹に、アメリカ国内では政治的な事情から劇場公開しようと手を挙げる配給会社がないまま、映画の制作陣みずからの働きかけにより、1月31日にニューヨークの1館で劇場公開がスタートした。
すると初週の上映回が10回連続で満席となる驚異的な成績を収め、翌週には米国内20都市で拡大公開。さらに、今月から3月にかけてアメリカ国内の約100館の劇場で上映を敢行することが、バーセルのXアカウントで発表されている。
アカデミー賞®に向けてますます注目が高まる中、「この1年に観た中で最高の映画のひとつ。これまで以上に、平和のために闘うパレスチナ人とイスラエル人の友たちの声を聞く必要があります。この映画を観に行ってください」と絶賛したのが、ドキュメンタリー『華氏119』『ボウリング・フォー・コロンバイン』などの鬼才マイケル・ムーア監督。ムーアは自身のXアカウントで、本作の鑑賞を強く呼びかけている。
『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』は2月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、シネ・リーブル池袋ほか全国公開