【山本薫夫さんの個展「負・普・富」】 「言葉の群れ」、そしてギザギザの東京
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は焼津市の藍画廊で12月10日まで開催中の美術家・山本薫夫さん(静岡市駿河区)の個展「負・普・富」を題材に。
1990年代から県内で個展を開いている山本さん。幅2.5メートルほどの「京町家」のうなぎの寝床のような細長いスペースの白壁に、コラージュや写真、ペイント作品が心地よい間隔で展示されている。
日本語や英語の単語を起点に、大小のキャンバスや板にビジュアルイメージを浮かび上がらせる作品が多い。古い日本語ワープロで打ち出したような「人間性」「平和」「生活」「平等」といった言葉が縦横に置かれ、ところどころ重なり合う姿は、いわば「言葉の群れ」とも言うべき見え方になっていて、意味のかけ算の向こうに見える風景をいろいろ考えてしまった。
1990年代の東京を中心に撮ったとおぼしき写真の数々が面白い。街角の鉄条網、壁に貼られた毒々しいチラシ。グラフィティとはとても言えないような、コンクリート壁のスプレー落書き。大胆にうち捨てられたドラム缶や廃車。
思えばほんの30年前の東京は、あちこちにノイズが感じられるこんな見え方だった。つるんとして機能的な、今の東京とは違った魅力があったのだ。(は)
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■藍画廊
住所:焼津市本町2-16-44
会期:12月5日(木)~12月10日(火)
問い合わせ:054-627-0025